第117話

「……もし、かして、空間が開いた、のですか?」


騎士達の顔色は暗く反応は良くない。やはり異次元の空間が開いたのだろう。


「……あぁ。ナーニョ様のいう通りだと思う。だが、まだ空間の場所は特定出来ていないんだ」

「……そうなのですね。これからどうするのですか?」

「すぐにオリヒスに連絡を取り、街の人達の避難を開始する。巡視の騎士団だけでは足りない。ナーニョ様は公爵へ連絡を。あと、王宮にも異次元の空間が開いたと知らせて欲しい」

「分かりました。すぐに知らせます」


私はエサイアス様の言葉を聞いて怖かった。


今までとは違う緊張感。


けれど、今、私が出来る事をすぐにしなければならない。緊急の呼び出しに伝言魔法を使い、ローニャに連絡を取る。


『ローニャ!! 至急返事をしてちょうだい。 緊急事態発生よ』


するとすぐにローニャから返事が返ってきた。


『おねえちゃんっ。どうしたの? 緊急事態って?』

『異次元の空間が開いたみたい。まだ場所が特定出来ていないわ。すぐにお父様に伝えて欲しいの』

『わかった。今すぐお父様達に知らせるわ!!』


私は公爵の所へすぐに手紙を書いて王女の印を押した手紙を小包魔法で送った。緊急用として王国から数字の書いてある魔法円が各街に配布されたのだ。


巡視を行っていない地域にどれだけ行き渡っているかはわからないけれど、公爵のいる領地は今まで魔獣に対処出来ていたのだし、問題なく設置されているはずだ。


この小包用の魔法円は届くと音がなるようになっている。


そうして公爵には空間が開いて魔獣が出てきている事を知らせた。向こうから連絡を取る手段がまだないのがもどかしい。確か、今日の巡視は南側の街道を外れた場所で行っていたはず。


「エサイアス様、連絡を送れる所は送りました」

「こちらも街の住人達の移動をどうするか今急いで話し合っている。騎士団で相当魔獣を倒してきたから街に魔獣がくるまでかなり時間が稼げたと思う。だけど、一刻の猶予も無いことは確かだ」


そう話していた瞬間。私の目の前に様々な物資がドサリと届けられた。どうやら王宮からの支援物資のようだ。


『おねえちゃんっ! 物資は届いた?』

『えぇ! 沢山ありがとう。すぐに騎士達に持たせるわ』

『あのね! 中にある大きな魔獣の牙があるでしょう? それを使って街全体を囲うように挿していって! 後は分かるよね? 街の中央に牙を挿して魔力を流すの。急いで。試作品なんだけど、街に魔獣が入らないように結界を張るの。お姉ちゃんが魔法で張って、街の誰かが指輪を通して牙に触っていなくちゃいけないんだけどね』


この言葉を聞いたエサイアス様やオリヒスさんが驚いている。


「……あの、触るだけでいいのでしょうか?」

「多分ですが、魔力をかなり吸い取られるでしょうから何人も交代して結界を維持する事になるとは思います」

「自分たちの街を守るのであればそれくらい構いません! すぐに広場に住人を呼び集めます!!」


オリヒスさんは叫ぶように走っていった。


エサイアス様は騎士達に指示を出した。騎士達は四十はくだらない数の魔獣の牙を持ち、手分けをして挿していく。


そして私は牙を持ち街の中心に移動する。


焦ってはだめ。

私が成功させないと。

大丈夫。

ローニャや王宮の人達が頑張って作ってくれたんだもの。


自分を言い聞かせるように街の中心に立ち牙をぐっと地面に挿す。


……が、地面が固く上手く挿せない。


「ナーニョ様、俺が変わります」


エサイアス様が牙を持ち地面に思い切り打ち込んだ。かなり大きな牙。もしも抜けてはいけないと集まってきた住人は手ごろな石を持ちより牙が動かないように固定してくれている。みんな魔獣が来るかもしれない焦りもある。


上手くいかなかったらすぐに避難するしかない。騎士達の帰りを待っている間、オリヒスさんが集まってきた住人に大声で説明をしていく。


今から街全体に結界を張る事、失敗したらそのまま北の方へ避難することなど。住人達から不安や恐怖の色が見えている。続々と戻ってくる騎士達。


「三十二番! ただいま戻りました」

「よし、これで全員戻ったな! 一同、備えよ」


エサイアス様の命令に騎士達は頷く。


私は牙に触れながら範囲結界であるヒュールトーロを唱えた。私の魔力は腕輪を通し、指輪を通って半球の結界が広がっていく。


牙には魔獣の玉もいくつか付いてある。きっとこれらが力を増幅させているのだろう。それでも街全体を覆う魔力は相当量必要とする。

街を覆う程の結界。


ジリジリと広がっていくのが分かる。五分ほどしただろうか。体感時間はもっと長いようなきもしたが、なんとか牙に全ての結界が辿り着いた。そこから牙が支え合い結界が安定してきた。後は結界の維持分だけ魔力を注げばいい。


これなら街の人達でも充分だろう。

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