第116話
すぐにこの事を隊長達に告げ、そこから騎士達に伝わった。騎士達は本当に、心の底から喜んでいた。
今まで魔獣のために何人、何百人、何千人と命を落としてきたのだ。その脅威が格段に減る。そして魔法を使える人を見つけ出した事。
歴史がガラリと変わろうとしている。
興奮せずにはいられない。
急遽明日を休日にしてエサイアス様をはじめ、他の人達はこのまま街に祝杯を上げに行く事になった。私はローニャから連絡があるので少しだけ顔を出してすぐに戻ったわ。護衛達に飲みに行くように勧めたけれど、ローテーションで休みの日に飲み明かしますのでと断られてしまった。
きっとみんな祝いたいはずよね。私は心の中で謝っておく。
『おねえちゃん、指輪は届いた?』
『えぇ! もちろんよ。ようやく完成したのね。凄いわ』
『どんな形にするのかかなり悩んで何度も形を変えたんだよ! それ、私のデザインで作ったものなの!』
……私は驚いた。
妹は本当に凄い。
私を追い越して手の届かない先に軽々と行ってしまったのだと。
『流石ローニャね。凄いとしか言いようがないわ。自慢の妹ね』
『おねえちゃんに褒めてもらえるのが一番嬉しいっ! でも、おねえちゃんの協力がなければ出来なかった指輪なの』
『そうなの?』
『だって、この指輪。よく見て? いつもの金属に加えて魔獣の小さな玉も散らばっているでしょう? 玉や素材が使えると知らなかったら成功しなかったの。
この極小の玉は王都周辺の小さな魔獣を何十匹も狩って集めて作ったんだよ! これにも時間が掛かったんだよね』
『ローニャが狩ったの?』
『そうだよ! もちろん騎士団に付いていって一緒に狩って玉の有無を調べたりしたよ』
『とても大変だったんじゃない?凄いわ』
『もっと褒めて~! あ、そうだ。この指輪ね、試弾してみたんだけど、空間が無いから効果は分からなかったんだよね。でも爆発したりしないから大丈夫だよ』
『そうよね。分かった。こっちで確認してみるわ』
『あと、ガーナントの街の報告書をマートス長官と読んだよ! 研究員の人達が俄然張り切っちゃって昼夜問わずに魔法の教科書を作ったり、指輪や指導の仕方を一つずつ本にしたりしているの』
『教科書があれば教えやすいものね。カシュール君達はどう?』
『カシュール君の封印を来月にも解くって話になってるみたい。お父様とグリークス神官長が話し合ってたわ。フェゼットさんは順調に知識は付いてきて今、指輪で少しずつ魔法の練習をしているわ。まだまだヒエロスを使いこなすには至ってないかな。でもファール(手紙)やファッジ(小包)の魔法は少しずつ使えるようになったよ。練習していけば重たい物も送れるようになりそう。フェゼットさんは魔力循環が上手くないから魔法が途切れちゃうんだよね。
まだ指輪無しでは小さな火や水しか出せないのもそれが関係してそうだってマートス長官は言ってたよ』
『そっか。カシュール君、グリークス神官長の下で頑張ってるんだね』
『うん! そうそう、ガーナントの街の人達はどういう感じ?』
『それがノーヨゥルの街の人達は多少使える自覚はあったでしょう? ガーナントの街の人達は今まで自覚したことは一度もないみたい。自分に魔力があると聞いて驚く人ばっかりだったわ。でもね、全然魔法を使っていないのにノーヨゥルの街の人達より魔力がありそうなんだ。ここの街の人達は保守的だけど、商業地区の人達は商売上有益な話だし喜んで覚えてくれそうな気がするわ』
『そっか。これからが楽しみだね』
『えぇ、そうね』
久々にローニャと長く話をしたわ。そこから約一週間は巡視も魔力量の調査も問題なく進める事が出来たの。
けれど、恐れていた事が起こった。
「エサイアス様、お帰りなさい。……その傷。すぐに治療しますね」
「あぁ。頼む。他の騎士達も怪我人が多く出ている。すまないが治療をすぐにして欲しい」
ここ最近、怪我する事が無かったのに。嫌な予感がしてバクバクと心臓が鳴っているのが分かる。エサイアス様の治療を終えた後、騎士達を見るとどの人も負傷しているように見える。
「みなさん、すぐに治療しますね」
私はすぐに範囲魔法のヒエストロを唱えた。重傷者はいないようだが、支えられている人は何人かいた。数回掛けてようやく軽傷者はいなくなり、中傷の人は軽傷までになっている。あとはヒエロスで一人ずつ回復させていった。
「ナーニョ様、有難う御座います。あの場にナーニョ様がいなくて良かった」
騎士達は口々にそう言っている。
私も危険な目に遭っていたかもしれない?
いや、きっと私がいた方が彼らの助けになったはずだ。
彼らはそう言っていたけれど、付いて行かなかった私は非情に後悔した。そして言葉に詰まりながら最悪の事を口にする。
「……もし、かして、空間が開いた、のですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます