第115話

ノーヨゥルの街の人達や周辺の村の人達は魔法が少し使えると自覚していたみたいだけれど、この街の人達は全く自覚がないようで魔法を使うという事は全く無かったようだ。


魔法を使っていないのにも拘わらずこの魔力量だとすれば、凄い。


幼いころから訓練していけば私やローニャと変わらない人も出てくるのかもしれないわ。私は今日の結果を巡視から返ってきた騎士団に定期便を届ける時にエサイアス様に報告した。


「エサイアス様、今日は商業ブロックAを測定したのですが、ノーヨゥルの街の人達に比べて少し高めに出ました。期待が出来そうです」

「そうなんだ。良かった。ちょっとホッとしたよ。商業ブロックの人達なら魔法が商業に転用出来るようになると大喜びするんじゃないかな?」

「そうですね。各都市への物流が大きく変化しそうな気がしますね」


どこの街も街人同士協力して生きているため保守的になりやすいのは分かる。けれど、商人に魔力が多ければきっと儲けるために他の街との交流が盛んになるのではないかと思う。


魔法を使えば魔獣からの被害もないからだ。


そしてこの街は工業の街。他の街へ輸出する側なのでとても喜ばれるはずだ。きっと魔法を学びたいと思う人も多いのではないかと思う。


少し希望を持ちながらこの日は早々に床に就いた。



翌日は街の人達の怪我を治療した後、昨日と同じように魔力測定をしていく。


翌日は畑に魔法を掛け、三日後には井戸に魔法を掛けててから魔力測定をした。最初は魔力測定に困惑していた街の人達も先に測定が終わった人達から話を聞いて興味を持ちはじめたみたいだった。


みんなの協力でかなり早いペースで測定が進んでいる。


そんな中、私宛に小さな小包が送られてきた。


私はそっと小包を開けると、大きくかなり緻密な装飾がされてある指輪だった。


……グリスコヒュールの指輪。

はじめてみる形状の指輪。


研究者の人達が何度も何度も作り試弾して完成させた物だ。指輪の存在を知ってからもう三年近く経っている。


この指輪は異界を閉じる特別な指輪。


ローニャが試弾して確かめたのだろうか。


異次元の空間が研究所に開いているわけではないので効果は確認できない。


私もぶっつけ本番でこの指輪を使うには怖さを感じる。けれど、この指輪はこの世界の安寧をもたらすもの。


とても大事な指輪。


私はそっと指輪をネックレスに付けていつでも使えるようにする。この街に来てから空間が開いたという話は聞いていない。


次の異次元の空間が開くまでに指輪が出来て良かった。私はすぐにエサイアス様の下へ行き、指輪を見せた。


「ナーニョ様、それは……?」

「えぇ、エサイアス様も見たことのない指輪ですよね? これが、私達の求めていた異次元の空間を閉じることの出来る指輪、グリスコヒュールの指輪です」

「!!! ……そうなんだね。ついに、ついに完成したんだ」

「えぇ。ようやく完成したようです」


エサイアス様も感慨深げに指輪を眺めている。


「これから俺達の未来は明るい魔獣に怯えずに過ごすことが出来るのか……」

「問題は次の空間が何処に出来るか、ですね」

「あぁ。街道近くで見つけやすいといいな」

「そうですね」

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