第119話
第五団団長ヤーシュ・セイン・カノート団長。歳は三十を超えたところ。大柄で逞しい体つきの彼は額に大きな傷がある。
その傷は家族が魔獣に襲われた時に付けられた傷だ。
以前治療しようとしてこの傷は自分への見せしめなので残してほしいと言われ、そのまま残っている。彼の団もよく魔獣討伐に出ていて猛者ぞろいで有名なのだ。
第五団の団長や騎士達にエサイアス様はすぐに状況報告をし、敵の形態を伝える。
今回主に空間から出てきた魔獣は大きさは猪程度。一体一体の強さ、硬さはない、むしろすぐ倒せるようだが、なんせ数が多い。
相手は突進してくるので気を付けて避ければ怪我は抑えられるようだ。それに魔獣の多さから何処に空間が出来ているのか分からない。
ただ、敵は一方向から向かってきているのでその方向に進めば空間に辿り着くだろうという話だった。
「ナーニョ様から何かありますか?」
「えっと、今回は異次元の空間の場所を把握する事だと聞きました。騎士のみなさんには苦労を強いますが、宜しくお願いします」
私はそれだけ言って頭を下げた。昨日の会議ではまず、空間の場所を把握する事。穴の状況の確認。
どれだけ魔獣が湧き出ているのかを確認したら下がるということだ。
二回目は異次元の空間を閉じる、魔獣の数を減らすということが目標になる。
まだ試したことのない魔法。
研究所からは失敗するかもしれないので無理はするなと第五団長に話がされていたようだ。
騎士達の士気は高い。第五騎士団団長カノート様の掛け声に全ての騎士達が声をあげた。
「全軍出立!!」
街の人に見守られながら結界の外へ出ていく騎士達。もちろん私は安全を考えて最後尾に付いているわ。
騎士団が魔獣を見つけた方向にしばらく進んでいると、やはり沢山の魔獣がこちらに向かっているようだ。
「準備せよ!」
隊長達の掛け声に騎士達は一斉に鞘から剣を抜き戦闘態勢に入った。
「目的は異次元の空間を見つけることが最重要事項だ!足を止めるな!」
私は範囲回復のヒエストロを付けて定期的に騎士達に掛けていく。一割にも満たないが定期的に掛けることで騎士達の疲労も軽減し、怪我も軽くで済むからだ。
これはこの巡視で私が学んだ事。
魔獣と戦うことで一番辛いことは体力が削られていくこと。
疲れは集中力を欠けさせ、怪我を招く事態になる。怪我の予防やすぐに回復することで怪我が軽くて済む。
魔力の消費もわずかで済むのでこまめに掛けた方が私としても楽なのだ。
騎士達はどんどん敵を斬りつけて進軍していく。街道から南へ二キロほど歩いただろうか。普段ならすぐに辿り着く距離でも魔物が湧き出て時間が掛かった。
「異次元の空間を発見いたしました!!!」
一人の騎士から声が上がった。
異次元の空間は木の根元にあるようだ。そこから魔獣が数十匹ずつ飛び出している。
……今の私の魔力はまだ九割は残っている。
その場で一気に塞ぐ事が出来るのだろうか?
ただ、グリスコヒュールの指輪の効果を試した事もない。今回の最大の目的はまず空間を見つけることだった。
次は空間を閉じる事が目的。
無理はしない。
だが、魔力は豊富に残っているし、一度指輪の効果を試してみてもよいと思う。
「エサイアス様! 私を異次元の空間約二メートル手前まで近づいても良いですか? 初めて渡された指輪なのです。一度、指輪が使えるか確認したい」
「……わかりました。全軍、ナーニョ様を守りながら異空間に近づけ!」
ゆっくりとだが、魔獣を倒しながら前進していく私達。
なんとか空間の近くまで近づけた!
私はすぐに指輪を変えて魔力を指輪に乗せていく。
上手くいきますように、そう願いながら。
『グリスコヒュール!』すると、指輪から七色の強い光が飛び出し、異次元の空間に向かっていく。
魔力が一気に無くなる。
……これはもしかして複数人か複数回行う作業なのかもしれない。
魔力を放出するという感じではなく、無理やり吸い上げられるような感覚。意識まで持っていかれそうだ。
光は空間の端にピタリとくっつき、ジワリジワリと空間を塞いでいく。魔獣達は私に突撃しようと走り、空間にぶつかるが、グリスコヒュールで作られた光に弾かれている。
空間に光が半分掛かろうかという時に魔力が残り僅かになり、無理やり指輪を指から抜き取った。
私は魔力と指輪を切り離した衝撃でドサリと地面に尻もちをついた。
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