サイドストーリー

討伐した魔獣の活用法1

ローニャとケイルート兄様の話。


ある日、いつものように私は医務室へ騎士の治療のために向かっていた。廊下を歩いていると向かいから大きな荷物を背負っているケイルート兄様がやってきた。


「兄様、そのおっきな荷物はどうしたの?」

「あぁ、これか?これは先日騎士団で倒した魔獣だ。珍しい形だったので研究室に相談したら素材になるらしくてな。下処理をして乾燥させていたんだ」

「そうなの?私も見てみたい!」

「ならマートス長官に言っておくから後で見にくるといい」

「分かった!」


私はどんな魔獣の素材があるんだろうと少しワクワクしながらこの日の治療に当たった。


今日は思ったより怪我人も少なくて楽に治療を終えることができた。すぐに研究所に戻ってマートス長官に先ほどの話をして素材を見せて欲しいと言うと、箱から取り出して素材を見せてくれた。


「ローニャ様、この素材が珍しいと言われているのは色もそうなのですが、とても強度があるんです。

加工するには時間がかかりそうですが、騎士の装備に取り入れる事ができたらとてもいいものになると思っています」

「そうなの? 確かに、触ってみるとふわふわなのに引っ張ってもビクともしないわ? この毛皮には油が塗ってあるの?」

「いえ、これは魔獣特有のものだと思います。水が掛かっても水を弾いてくれるので軽いままですし、油ではないようで火を近づけても燃え難いようなんです」

「それって凄いね!」


私は魔獣の素材を手に取りながらじっくりと眺める。確かに見たこともないような色合いの毛皮だ。鈍色に見えるけれど、よくよく見ると玉虫色にも見える。不思議な素材。


その箱の中には魔獣の骨も入っていた。


骨を何の気もなしに手に取ってみる。乾燥させているせいかとても軽くて丈夫そうだ。

近くに居たゼロさんに向かってふざけてみる。


「ゼロさんが元気になるようにヒエロス♪」と人間界のおとぎ話にある魔法使いのような素振りをして見せた。


本当に、何気ない遊びのつもりだったの。


詠唱無しで指輪も付けていない状態だったのにゼロさんが淡い光を帯びたの。


驚いた。


厳密に言うと、回復魔法は掛かっていなかったんだけど、私の魔力が魔獣の骨を通してゼロさんを包んだみたい。


ゼロさん自身も「え? え? 俺、光った?」って驚いていた。


もちろんその場に居たマートス長官も他の研究員も目を丸くしている。


「ゼロさん! 身体は大丈夫??」

「あぁ、俺は大丈夫だけど、回復魔法使ったの?」

「詠唱してないから私の魔力がゼロさんにかかっただけかも……?」


半信半疑になりながら言ってみる。


「でも、指輪をしていないよね?」

「うん。あのね、ふざけてヒエロスと言った時にこの骨に魔力がスッと移った気がしたの!」

「確かに回復はした気がしなかった。ローニャ様、ヒエロスの詠唱してみて」

「分かった。やってみるね」


私は骨を持ちながら詠唱をする。そして最後に『ヒエロス』と言うと、骨を通してゼロさんに回復魔法が掛かった。


「この骨、凄いよっ! ゼロさん凄いの!」

「凄いというのはどういう事かな? 詳しく教えて欲しい」

「んとね、魔力がしっくり馴染むっていうのかな? 私の魔力をロスする事無くそのまま流してくれる感じがするの」

「この骨は魔力を通すのか。金属より軽いし、いいね!」

「色々石や木とか金属も試してたのに魔獣の素材は試していなかったから知らなかったね!」

「もしかして、魔獣は魔力を持っているのかな?」


ゼロさんの疑問に当然答えられない私。どうなのかな。


もしかしたら持っているのかもしれない。

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