異界の穴から落ちてきた猫の姉妹は世界で『指輪の聖女』と呼ばれています（旧指輪の聖女）

第79話

「ナーニョ様、サイカの街に到着致しました」

　早朝に村を出たおかげで今日中に街に着いた。

　途中、やはり小型の魔獣を十体ほど倒したけれど、そこまでの強さではなかったので私が馬車から降りることはなかった。もちろん騎士達も怪我無く討伐していったわ。

　この街は確かにロダンの街とは全然違う雰囲気だった。

　ロダンの街は木と白い建物が調和したような街だったが、サイカの街は石造りの家だ。

　頑丈に出来ていて魔獣からの攻撃にビクともしない見た目。魔獣から襲撃を守るために高い壁に囲まれている。

　高い壁に守られているおかげで農作物が安定して作られている。

　エサイアス様と共に馬車を降りて出迎えてくれた人々。歓声が上がり、私達を歓迎している様子。

　街長とその家族に挨拶する。

「王宮騎士団第十二団団長エサイアス・ローズルード・シルドアだ。そして隣におられるのが王女ナーニョ・ヘルノルド・アローゼン様だ。今回の巡視で治療を担当している。短期間の滞在だが、宜しく頼む」

「英雄エサイアス様、ナーニョ様、そして第十二騎士団の皆様、ようこそお越しくださいました。

　街長のドーラン・ガザル・マードアです。我が街は城壁のおかげで平和に過ごす事が出来ております。ですが、一歩外に出れば危険を伴う。どうかよろしくお願い致します」

　街長の二人の娘はエサイアスを見て嬉しそうにはにかんでいる。

　ナーニョは少しドキリとしたが、気にしないように他に視線を向けた。

「私、神官のファブロウと申します。この度、グリークス神官長より滞在中ナーニョ様のお世話をさせていただきます」

「ファブロウ様、宜しくお願いします」

　私はここの街でも神殿に泊るようだ。

　挨拶を終え、騎士達は駐屯所の中へ入っていく。

「ナーニョ様、では後ほど」

「荷物を置いたら駐屯所に行きますね」

　私は護衛騎士と共にファブロウ神官に付いて神殿へと向かう。

　神殿というと大きな建物のイメージだがこの街では教会と言った方がしっくりくるような大きさだったわ。

「ファブロウ神官、この街では怪我人が少ないと聞いたのですが、本当なのですか？」

「えぇ。街に住む人の怪我人は少ないですね。ただ、壁より外側に出る人達、商人や狩人などは怪我が絶えないです。

　ナーニョ様の噂は聞いております。この街ではきっと怪我人を治療するより畑や水質に力を入れてもらえる方がみな喜ぶかもしれません」

「分かりました。エサイアスと話をしてこの街での活動を決めていきますね」

　神父から案内された部屋は質素な部屋だった。

　この教会は怪我した商人たちが運ばれてくることも多く、宿泊施設を兼ねているのだとか。もちろん宿もあるみたい。

　王女として宿や街長の邸に泊るのが普通なのだろうが、グリークス神官長は陛下に進言したらしい。

　私の身の安全を確保するためには神殿がいいと。神に歯向かう輩はそう居ないということのようだ。

　確かに街に出れば声も掛けられるけれど、神殿の中まで追いかける人はそう居ないので私自身助かっている。

　駐屯所で滞在すればいいかと思うのだが、若い騎士達と一緒に過ごすのは駄目だとエサイアス様は言っていた。

　これはケイルート兄様も同じ意見だったようで駐屯所に滞在するという話は最初から話題に上がらなかった。

　ナーニョは荷物を置いてさっと水浴びをした後、エサイアスの元に向かった。

　エサイアスも駐屯所の掃除と荷物を置いて部下たちに指示をしてようやく一段落ついたようだ。

「エサイアス様、お待たせしました」

「ナーニョ様、全然待っていませんよ。こっちにどうぞ」

　屯所にある簡易執務室に案内された私。

　そこにはエサイアス様の他に副官や隊のリーダー四名がソファに座っていた。

　一番入り口に近い所にいる隊長のオルボンさんが皆にお茶を淹れている。

「ナーニョ様はエサイアス様の隣にどうぞ」

　ナーニョは言われるがままエサイアスの隣に座り、オルボンからお茶を受け取った。

「ようやくサイカの街に到着しましたね。今回もナーニョ様のおかげで誰一人欠けることなく街に到着出来ました。

　サイカの街は魔獣除けの高い壁があります。そのおかげで人々は平和に暮らせているようなので我々の滞在期間も短くなると思いますが、どうでしょうか？」

　副官のシャローが司会進行をするように話をしている。

「私も神父様からこの街では怪我人が少ないので畑や井戸を中心に魔法を掛けて欲しいと言われました。

　ただ気になったのはこの街を通る行商人達の怪我は絶えないようで怪我人は一定数出ているようです」

　ナーニョは自分の動きも確認しなければいけないため、しっかりと話をする。

「到着前の討伐も感じたが、確かにこの街周辺に大きな魔獣は少ないのだろう。二、三日の巡視で魔獣の出方を見た方が良さそうだ。ナーニョ様の治療と畑への魔法が終わり次第次の街に出ても良いと思う」

　隊長達と話している間に扉がノックされる。