第78話

 移動時間は食事時間といわんばかりに小袋に詰めたナッツを取り出し、モグモグと食べている。


 たまにポイの実が食べたくなるけれど、この世界にポイの実をまた見たことがないので諦めるしかない。


「皆様、お待たせいたしました。では治療に入りますね」

「ナーニョ様!! 宜しくお願いします!!」


 既に怪我人を治療する部屋は大勢の人が用意された席に座っている。


 入院するような怪我人の治療は終わったけれど、入院するほどでもない怪我人はまだまだ沢山いるようだ。


 これだけ大ぜいを範囲魔法で治療するのだから効果は少ししかないが、それでも治したいと噂を聞きつけた人々が連日神殿に来ているらしい。


 神官様との話でこの部屋の座席が埋まるまでの人数を一日の上限として受け入れているのだ。


『ヒエストロ』と唱える。


 ゆっくりと淡い光が波紋のように広がり怪我人を包んでいく。そして歓声が上がる。


 魔法で治るのと光を見て治ったと信じる気持ちも治療に大きな効果をもたらしているのだと研究者達は言っていた。


 気の持ちようは確かに大事だと思う。


 気持ちが魔法の効果を上げているのならそれは喜ばしい事だわ。ナーニョは軽く頭を下げてから部屋を出た。


 これでようやく今日の公務は終了ね。


 ナッツをもぐもぐと頬張りながら部屋に戻っていく。


「ナーニョ様、お疲れ様でした」

「護衛の方々も無理させてしまってごめんなさい。休める時は休んで下さいね」

「お気遣いありがとうございます。神殿では聖騎士の方がナーニョ様の護衛を申し出があり、私達もローテーションを組み、休んでいるので大丈夫です」

「それは良かった」

「神官からすぐに食事を持ってくると言っておりました」

「わかりました。では部屋で待っておきますね」


 部屋に入ってすぐに靴を脱いでベッドへゴロリと横になる。


 今日も一日が終わった!

 今から湯浴みがしたい!

 でもご飯も食べたい!


 毎日一杯動いて一杯食事をして湯浴みして眠りにつく。王宮とは違った暮らし。


 魔獣の怖さや街の人達の悲しみを肌で感じるけれど、必死に身体を動かしているせいかな、何がしたいか分からないなんて迷う事は無くなった。


 なんとなくこの旅で自分に答えが出せそうな気がする。


 こうして滞在最終日まで問題なく過ごす事が出来た。


 畑や街で使われている水も問題なく魔法を掛ける事が出来た。なんとなくだが、木々もいきいきとしている気がするわ。


「王宮騎士団の皆様、ナーニョ様、本当に有難う御座いました。またいつでもこの街にお越しください」

「フォード伯爵、食事と場所の提供有難う。また立ち寄らせて頂きます。では出立!」


 私は馬車に乗り込み騎士達の後を付いていく。


 沿道には街の人たちが沢山いて手を振ってくれている。この街に来た時よりもずっと街の人たちは元気になっていて活気が溢れている。良かった。


 そういえば王都も最初はどことなく暗い雰囲気だった。


 私は少しでも役に立ったのだろうか。


 少し寂しく思いながらも離れる街に手を振り返す。


「次の街はサイカの街です。ロダンの街から一日ほど進んだ場所にあります」

「そんなに遠くはないのですね。サイカの街はどんな街なのですか?」

「サイカの街は小さな街です。農業が盛んでこの街で作られた農産品が王都の食事を賄うほどです」

「そこが魔獣の被害に遭うと大変ですね」

「そうですね。どの街も自分たちの食糧を賄う最低限の畑や家畜を育てていますが、この街が潰れると王都に住む人々は飢えるでしょうね。

 幸いな事にこの街の周辺に異次元の空間は空いたことがないので大きな被害は出ていないです」

「今後出る可能性もあるから気にして浄化を掛けたほうが良いかもしれませんね」

「それが良いと思います」


 護衛と雑談しながらサイカの街を目指す。途中、村に立ち寄り休憩する。


 この村でも小さな魔獣は度々出て悪さをしているようだった。


 私は騎士達が村の周りを巡視している間、井戸と畑に魔法を流し、村の人の怪我を治していく。


 大きな怪我をしている人は殆どいないけれど、この村も老人が多くて魔法で治療を行うとみんなとても喜んでいた。


 おじいさんやおばあさん達の喜ぶ姿を見てとても懐かしく思う。


 モニョのおじいちゃん達は元気にしてるかな。


 巡視を行った騎士達の話では小さな魔獣で倒すのは難しくなかったけれど、遭遇頻度は多いので気を付けた方がいいらしい。


 この日は巡視に時間がかかったので村で一泊する事になった。この村はとても小さな村なのでもちろん泊る部屋はない。


 村の広場で各自テントを張り、早々に休む準備をしていく。


 もちろん私も結界を村に張り、警戒を怠らないようにする。ロダンの街では結界を張っていなかったので忘れる所だった。


 野宿同様気を引き締めていかないと。



 翌日は早朝からテントをたたみ、出発した。夜中は一度結界が壊れる騒ぎがあった。


 魔獣が一匹村の畑に入り込もうとしていたようだ。結界の割れる音で気づいた騎士が駆けつけると魔獣は村を走り抜け、畑の野菜を盗って逃げて行ったらしい。


 村の人はよくあることだと言っていた。そして村の人達は驚いた事に魔獣を普通の獣と変わらず畑に侵入してきた魔獣を捕らえて殺し、その皮を剥いで利用しているという。


 今まで通って来た村や街では捨てることしかしていなかったので利用法があるのなら利用した方がいい。


 馬車で移動中、マートス長官に手紙を送ったらすぐにローニャから返事があった。


 最近、魔獣の研究が進んでいるらしい。利用できるかどうかも調査すると言っていた。


 実際村の人達は利用しているからこの事が広まっていけばよいと思う。

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