第76話
「どんなお酒か楽しみですね」
「ナーニョ様はお酒は強いの?」
「どうでしょうか……? お酒を飲んだことがないので分からないです。でもきっと大丈夫だと思いますよ?果実水は大好きですから」
「え? ちょっと心配だなぁ」
「お待たせしました! シャルロー酒とポートポル酒です。こっちはファラナ牛のケープルです。ロタの塩焼きはもう少しお待ちください」
ナーニョは出されたお酒に目を丸くする。
王宮ではいつも果実水を飲んでいるのだけれど、このシャルロー酒は薄いピンク色で上品な香りがしているのだ。
初めての事で興味津々の私。
エサイアスはポートポル酒を選んだ。このお酒は赤い酒なのだが、この地方では朝晩の寒暖差で果実が甘くなり品質の良いのが多いからだ。
二人は乾杯をした後、ナーニョはゴクリと飲んだ。
「!! とっても美味しいですっ! 今まで飲んだ事がないわ。でも後から喉にカッとするのはやはりお酒なのですね」
本人は隠しているつもりでも尻尾はブンブンと振られている。それを見たエサイアスは微笑んだ。
「このお酒も深みがあって美味しい。お土産に持って帰りたいよ」
「なら、後で酒屋に行きますか? ボトルくらいならロキアさんに送っておけばいいし」
「それはいいね。なら後で一緒に酒屋に行こう」
「はい! それにしてもこのケープルってプニっとした食感で美味しいですね。いくらでも食べれそう」
「ケープルは牛の乳を発酵させて作った物だと聞いたな。濃厚で美味しいね」
「エサイアス様って物知りなんですね。私はまだまだ不勉強で……。頑張るしかないですね」
「そんなことないよ。今も充分君は頑張っているし頑張りすぎじゃないかって心配するほどだよ。頑張りすぎて壊れてしまわないか心配している」
「……そうですね。あんまり頑張り過ぎないようにもしないといけないですね。私ったら何も学んでない、ですね」
「無理しないんだよ? 俺はいつもナ「ロタの塩焼きお待たせしました!」」
「有難うっ。お姉さん、このケープル美味しいですね!」
「そうでしょう? うちの店の自慢の一品ですからっ! お酒が空ですね。おかわりしますか?」
「お願いします」
残念ながらエサイアスの心配は店員によって阻止されたようだ。
ナーニョは酔っているのか鼻歌を機嫌よく歌い始めた。
彼女の様子を見たエサイアスはフッと息を吐き、彼女を見ながらお酒を口にする。
こんな幸せな時間がいつまでも続けばいいのにと願いながら。
二人ともほろ酔い気分で店を出て店の人から聞いた酒屋を探すと、すぐに見つかったの。
そして二人で選んだボトルを一本買い神殿まで戻ってきた。
「エサイアス様、今日はありがとうございました。とっーっても楽しかったです」
「良かった。俺もナーニョ様と一緒に過ごせてとても楽しかった。また行こう」
「えぇ。次も是非誘って下さいね」
手を振りながらエサイアスと別れ、部屋に戻ってきたナーニョ。
手紙に近況報告と一緒に飲みに行った事を書いてボトルと一緒にロキアさんに送った。
そしてもう一つ。雑貨屋で買った小さな鳥の文鎮。とても可愛くてローニャが喜びそうだと思ったの。
『ローニャ、雑貨屋でお土産を買ったわ。机の上に送っておくから後で確認してね』
『お姉ちゃん、有難う』
こうしてローニャの机の上をイメージして文鎮を送った。
もし魔力のある人が沢山見つかったら荷物を届ける職業の人が出来るかもしれない。
同じような机に番号を振り、数字をイメージすればその場所に届く。
たまに間違いはあるだろうけれど、それはそれで何だか楽しそうだ。
一人ほろ酔い気分でベッドに入った私。
今日は楽しかった。
また二人で遊びに行ってみたいと思う。
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