第75話

「ナーニョ様、おはようございます」

「神父様、おはようございます」

「今日も無事に戻ってこられますように」

「ありがとうございます。昨日は怪我人の治療が出来ずすみませんでした」


「いえ、こちらの方こそ昨日は無理させてしまったのです。本来なら治るまでずっとあの部屋に留まっていた人達が自力で帰っていけたのです。それだけで充分ですよ」

「そう言っていただけると心が救われます。では行ってまいりますね」


 そうして今日も駐屯所まで歩いてそこからエサイアス様と一緒に巡視を行い、昨日とは別方向へ歩いて魔獣を狩っていく。


 順調に魔獣を狩り、早めに街へ戻ったわ。


 その後、私はいつものように怪我人の治療をしていく。


 ……街にはまだまだ怪我人が多く居て皆傷を負いながら必死に暮らしているのね。



 そして久々の騎士達の休日。


 私も同じように休日を取る事になっているの。


 私はローニャとグリークス神官長から定期便を受け取り、神父様にグリークス神官長へ手紙を渡し、騎士達への手紙を駐屯所に持ってきた時にエサイアス様に声を掛けられた。


「ナーニョ様、今日は休日ですよね? 一緒に街へ出掛けませんか?」

「良いのですか?」


 私はその言葉に嬉しくなった。


 といっても可愛く着飾るような服は持ち合わせていないのが少し寂しい気もする。


 滞在期間も残りあと半分。

 偶には楽しもう。


 私は手紙を駐屯所の管理人に渡してそのままエサイアス様と一緒に街に出掛けた。


 騎士団が街にいる事で治安も安定し、怪我人も減って街が活気づいてきたとフォード伯爵は言っていたわ。


 そうそう、私が治療した翌日に子息は目を覚ましたらしい。


 ずっと寝ていた分、筋力も落ちているけれど、医師からも訓練すれば元通り歩けるようになると聞いて前向きに取り組んでいるみたい。


 記憶の方はやはり数年分は無くなっていたようだ。


 けれど、私は思うの。


 魔獣に襲われた時の恐怖。それは筆舌に尽くし難いものがある。


 父親が目の前で食べられそうになっているのを目の当たりにしている記憶は無い方がいいに決まっている。


 記憶がない分苦労もあるだろうけれど、その恐怖を忘れてしまえるのならその方が良いと思う。


「ナーニョ様、どこか行きたい所はありますか?」

「んー、ここの街の特産品は果実酒があると習いました。飲んでみたいです」

「確かに。果実酒は特産品の一つだったね。確か騎士達がエイダンの店が美味しいと言っていたからそこに行ってみよう」

「はい!」


 私達はすぐにエイダンの店に向かった。


 美味しい物を食べると幸せになるわ!


 もしかしたら私ってとても食いしん坊だと思われているかもしれない。魔法を使うとお腹が減るし、やっぱり食いしん坊なのかも。


 一人考えながらアワアワと焦るナーニョ。

 それをエサイアスはクスリと笑った。


「ナーニョ様、そんなに焦ってどうしたのかな?」

「えっ、だってエサイアス様に食いしん坊だって思われていないかなって」

「え? そんなこと思ったことはなかったけど……」

「だって魔法を使えばすぐお腹が減ってしまうし、美味しい物を食べると幸せを感じるし、やっぱり私食いしん坊なのかもって思うんです」

「ふふっ。食いしん坊でもいいんじゃないかな? 美味しく食べているナーニョ様を見ていて俺も嬉しくなるよ」

「恥ずかしいです」

「気にしなくても良いと思う。ナーニョ様はそのままが一番だよ」


 私達は楽しく話をしながらエイダンの店を探して歩いた。


 店は少し分かりづらい所になったせいで色々と歩き回った。


 けれど知らない街を歩いて回るのもとても楽しくてついつい浮かれてしまう。


 偶に気になる雑貨の店に寄って耳飾りを買ったり、青果店でフルーツを買ったりして楽しんだ。


「ようやく見つかりましたね」

「あぁ、結構探したね」

「でも、たまにはこういうのも良いですね。とっても楽しい」

「そうだね」


 店に入った私達は早速料理を注文する。この店ではお酒の種類が多く食事は二の次のようだ。


「いらっしゃいませ! ご注文は何にしますか?」

「ポートポル酒とシャルロー酒を一つ。ファラナ牛のケープル、ロタの塩焼きを一つ」

「すぐにお持ちしますね」


 若い女性店員が元気に厨房にオーダーを通している。

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