第74話 フォード伯爵

「あなたっ!! 足が戻ったのですね」

「あぁ、アンナ。ナーニョ様のおかげでこの通りすっかり良くなった」


 私は妻のアンナと共に抱き合い喜んだ。


 後は息子の目が醒めるのを待つばかり。


 ナーニョ様が神殿に戻った後、医者にアンガスの容態を見てもらったが、医者も驚いていた。


 そして神殿の話も聞いており、噂は本当だと言っていた。


 神がナーニョ様を連れてきてくれたのだ。


 ゴロゴロと寝返りを打つ息子。医者の話では無理に起こしてはいけない。息子はもうすぐ目覚めるから自分で起きるまで待つようにと言って帰っていった。


 私と息子が大怪我をした時から我が家は火が消えたように暗く沈んでいた。


 街のために一生懸命頑張ってきた我が家。


 その事に悔いはない。だが、息子には苦労させたと思う。こんな辛い思いをさせるべきではなかったと。後悔しかなかった。




 翌日、夫婦でアンガスの様子を見に部屋に入った。


「今日も穏やかな顔をしているわ」

「あぁ、ナーニョ様のおかげだ。きっと痛みが取れたからだろう」


 そう話をしている時、息子の目が開いた。


「ここ、は? ん? 誰? も、しかして、父さんと母さん?」


 何年ぶりに息子の声を聞いただろう。


 言葉にならない思いが溢れだす。


 妻も涙で声が震えている。


「アンガス! 目覚めたのか! 良かったっ」

「どうしたんだ? 父さん、そんなに泣いて。少し老けた気がするんだけど?」

「アンガス、お前はずっと五年間眠りっぱなしだったんだ。良かった」

「? 五年間寝ていた? 嘘だよね?」


 息子は驚いてベッドから飛び起きようとしていたが、上手く起き上がれなかった。


 ナーニョ様が言っていたようにこれからは身体が日常に戻れるように動いていく必要があるようだ。


「嘘だろ!? 身体が重い。動かないよ!?」

「それは貴方がずっと寝ていたからよ。仕方がないわ。これからは一緒に元の生活に戻れるように練習していきましょうね」


「……そっか。俺、頑張るよ。一日でも早く父さんのようになりたいからさっ」


 私達は息子の笑顔を見る事が出来て本当に良かった。



 あれから毎日妻は息子に寄り添い、短時間の起き上がり訓練から始め、歩行、走ったり、剣の訓練まで行えるくらい回復した。


 ナーニョ様の言う通りだった。

 息子アンガスは寝ていた期間はもちろんのこと記憶が数年分掛けていた事が後で判明した。


 現在アンガスは二十五歳。討伐に出たのが五年前。だが記憶は十八歳までしかなかったのだ。


 全く記憶が無いかもしれないと言われていたから覚悟はしていた。


 私達はそれでも息子が元気でいてくれればそれだけで嬉しい。


 記憶もそこまで残っていれば充分だとさえ思う。息子にとっては衝撃だったようだが。

 精神は十八で止まっているのだ。ショックは計り知れないだろう。


 だが、これからの人生は長い私達がしっかりとアンガスを支えていくつもりだ。

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