第72話
「ナーニョ様、おはようございます!」
「おはようございます。今日も宜しくお願いします」
騎士達は既に整列して準備万端の状態だった。
「ナーニョ様、おはよう」
「エサイアス様、おはようございます。今日も宜しくお願いしますね」
私は挨拶をした後、一番後ろを護衛と共に付いた。
「では出発!」
今日は全員徒歩での巡視になっている。
私も足手まといにならないように気を付けないと。
そう思いながら森の中を探索すること一時間。魔獣が茂みの中から現れた。
体長三メートル程の棘に覆われた魔獣。
目が四つあり、視野はかなり広いようだ。攻撃のパターンは一直線に体当たりして敵を串刺しにする感じだ。
騎士達はなるべく回り込み敵の進行方向から外れる様に動いている。
串刺しになれば即死も免れないため慎重に行動する騎士達。
私は距離を取り、魔獣に最も適した指輪をつけて魔法を唱える。『ツィートロン』。
すると地面から氷の槍が突き出した。中心を反れてしまったが、身体の一部を串刺しにして動きを止める事が出来たようだ。
「今だ!全員、総攻撃!」
エサイアス様の命令で一斉に斬りかかる。棘は削ぎ落され呆気なく退治されてしまった魔獣。
魔法の威力もしっかりと魔獣に効果が出ていてホッと一安心だ。
怪我なく討伐できたこともあり、騎士達も士気は上がっている様子。
魔法があると大分討伐が楽になっているようでよかった。
こうして歩いている間に十頭の魔獣を討伐する事ができたわ。魔法は足止めをする事に赴きを置いていたおかげで魔力はそれほど減らずに済んだ。
ただ、足はクタクタになって最後の方は私のためにゆっくり歩いてくれる騎士達に申し訳ない思いで一杯だった。
「全員整列! 誰も欠けることなく本日も巡視を終えた。では明日までゆっくりと休むように!」
ナーニョは整列している騎士達に向けてヒエストロの魔法を軽く掛けた。
怪我をしているわけではないので魔力もほぼ使わない。
「皆様、お疲れ様でした。また明日も宜しくお願いしますね」
「ナーニョ様!! 有難うございます!」
ナーニョは軽く会釈をして護衛と共にフォード伯爵の邸へと向かった。
「先触れが無くて申し訳ありません。あれから伯爵の体調はどうでしたか?」
門番に話をすると家令がすぐに出てきて対応してくれた。
どうやら皮膚がチリチリとまだ擦り傷のような痛みが残っている状態だが、背中の深いが無くなった分、気持ちの落ち込みも落ち着いてきたらしい。
その変化は家令も驚いたと言っていた。
「ナーニョ様、どうか今日もケインズ様の治療をしていただけないでしょうか?」
「えぇ、もちろん構いません」
家令の突然の申し出に私はそう返事をすると家令は喜び、すぐに邸の中へと案内された。
今日は伯爵は精力的に朝から執務に励んでいるらしかった。
「フォード伯爵、ごきげんよう」
「!!! ナーニョ様!」
「突然お邪魔して申し訳ありません。体調はどうですか?」
「え、あ、はいっ! かなり楽になっております」
「家令の方から少しピリピリとした感じが残っていると聞いたのですが、少し見せてもらってもいいですか?」
「もちろんです!」
フォード伯爵はすぐに立ち上がり、松葉杖をついて机の前に置いてあるソファへと座った。
私も隣に座り、伯爵の手を取り魔力を流してみる。
昨日回復させた背中の傷は大丈夫そうだけれど、少し私の魔力が残っている。
そのせいでピリピリとしているのね。
そのまま私は集中して魔法を唱え、残りの足を生やした。
「!!!足が! 両足が揃った!」
「治す事が出来て良かったです。ただ、私も今まで気づかなかったのですが、伯爵は私の魔力が身体に残りやすいようです。
残った部分がピリピリと痛んでいたかもしれません」
「そうなんですね」
「多分、二、三日で魔力は抜けきると思いますが、痛みが引かないようなら神殿に来てもらっても構いませんか?」
「ええ、もちろんそうします! ……あ、あのっ。ナーニョ様」
「どうされましたか?」
「私個人のわがままで申し訳ないのですが、息子の怪我も治療していただけないでしょうか……」
「そういえばご子息も怪我をされていたと神官様は仰っていましたが、どのような怪我を?」
伯爵は悲しそうな表情で話し始めた。
「私達は代々この街を守るために領主自ら魔獣の討伐に出るのです。
五年前、息子といつものように討伐に出た時、魔獣が予想以上に強く私が先に背中に怪我を負ったのです。
そのまま敵は私の足に噛みついて引きずられ、死を覚悟しました。
息子はそんな私を必死に助けようと魔獣に斬りかかった。魔獣は邪魔をしてきた息子に怒り、息子を攻撃したのです。
息子は頭を強く打った。そして身体を引き裂かれ……」
伯爵はその当時の事を思い出したようで言葉に詰まっている。
「……すみません。なんとか護衛達の協力で魔獣は倒せたのですが、私は片足を無くし、息子は生きているのが不思議なほどの大怪我を負いました。それ以来、息子は、目覚めていないのです」
伯爵の重い言葉に家令も沈痛な面持ちをしている。
「分かりました。まずは子息に合わせてもらってもよいですか?」
「はい。こちらです」
伯爵は裸足のまま立ち上がり、歩き始めた。
問題なく歩けているようでホッとするナーニョ。
伯爵は片足だけ裸足のせいでヒョコヒョコとバランス悪く歩いているが、本人は自分の足で再び歩けるという喜びであまり気にしていないようだ。
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