第71話
私は指輪の入ったケースの中からヒエロスターナの指輪を取り出した。
右足の欠損だけなら治す魔力は残っている。そう思って伯爵に自ら治療を願い出た。
伯爵は半信半疑のようだ。ナーニョは伯爵の手を取り、『ヒエロスターナ』と唱えて治療に集中する。淡い光が彼を包む。
!!
他にも深い傷があった。
足よりも背中の傷が深い。
この世界の人達は何故こんなにも深い傷を負いながらも隠してしまうのだろうか?
不思議でならない。
きっとこの怪我では立つ事も厳しいと思う。邸から出てこなくなったという話も頷ける。
足の治療よりも先に背中の傷を治療する方が先だ。
魔力がチリチリと焼けているような感覚。
神官長のような珍しいタイプなのかもしれない。けれど魔力があるようには思えない。
ただ単に私の魔力と相性が悪いのかも?
考えが次々と浮かぶが今は治療に専念しなければいけないわ。
そうして背中の治療を終えて足に取り掛かる。だが、残念な事にここで魔力が尽きてしまった。
「……ごめんなさい。背中の治療を優先したせいで一度では治しきれませんでした。また日を改めて治療させてもらえますか? それに、中途半端に治療したせいで義足が合わなくなってしまった。本当にごめんなさい」
カランと落ちた義足。
ナーニョの言葉にエサアスも神官もその場に居た家令や護衛達もみんな伯爵の足に視線が向いた。伯爵は恐るおそるズボンをたくし上げると、先ほどまでは膝より上から義足になっていたが、今はひざ下まで足が生えている。
「!! なんという事だ! 奇跡だ! 奇跡としか言いようがない!」
伯爵は片足の状態で立ち上がった。
「背中の痛みも無い! 凄い! 凄いぞ! ナーニョ様!有難うございます!!」
神官も伯爵の様子に興奮冷めやらぬ様子。
その興奮をなだめた後、私達は神殿へと戻った。
「エサイアス様、明日から改めて宜しくお願いします」
「ナーニョ様、一緒に魔獣を倒すのは大丈夫なのかい?」
「えぇ。ずっとこの日のために王宮で訓練をしていたのですから」
「あぁ、私はナーニョ様に怪我して欲しくない」
「ふふっ。私もエサイアス様や騎士団の方々に怪我をしてほしくありません。それと同じですよ?」
エサイアスは自分の思いとナーニョの思いが同じようで同じではない事に言葉を詰まらせる。
それを察したかのように神官が声を掛けた。
「ナーニョ様、お腹が減っていませんか?先ほど馬車内で木の実を食べていたようですから。すぐに食事を用意致します」
「神官様、ありがとうございます。ではエサイアス様、また明日」
「あ、あぁ。また、明日」
エサイアスの様子を見て不憫なその思いが彼女に通じるようにそっと願う神官であった。
翌日、私は護衛と共に騎士団の駐屯所に向かった。
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