第61話 ケイルートは…2

 騎士達は馬車に乗り込み目的地へと向かう。


 その間、誰も口を開くことはない。


 何度も魔獣と対峙してきたが、この時間が一番嫌いだ。


 毎回対峙する魔獣は特徴が異なる。素早く動くもの、皮膚が硬いもの、毒を吐くもの、分裂するもの、数が多いなど様々なのだ。


 今回の魔獣はどんな強さなのだろうか。


 生きて帰ることが出来るのだろうか。


「到着!全員準備を整え配置につけ!」


 第二団の副長が声を出している。そして合流先の第五団の団長に現在の詳しい状況を聞く。


 どうやら三体いた魔獣のうち一体は第三団が倒したようだ。


 残る二体は第三団と第七団で追い詰めて倒すのも時間の問題だという。


 それを聞いて俺は小さく安堵する。


 だが状況は良くない。


 騎士達の怪我も増え、一つの部隊が崩れればすぐに形勢逆転されるようだ。


「援軍感謝します」


 話は手短にして各員配置につき戦闘が開始する。


 俺も団員達に逐一指示を飛ばしていく。どうやら魔獣の一体は離れた相手に酸を飛ばすようだ。


 第三騎士団が撤退した理由の原因はその魔獣のせいだった。


 後の二体は身体が大きく動きも遅いが、表皮が硬く剣が入らない。


「辛弾を投げよ!」


 俺は更に指示を出す。


 ナーニョから聞いて作られた最新武器。とは言ってもまだまだ試作段階にあるのだが。


 魔獣によっては耳の良いもの、鼻の利くもの、目の良いものなど様々な種類がいてその魔獣にあった音弾や香弾などがある。


 今回投げた辛弾は目や鼻などの粘膜を攻撃する物だ。弾の威力はあまりないが、気を散らして隙を作るためには十分な武器となる。


「敵は怯んだ!全力で掛かれ!」


 第二騎士団長のフォールの命令で一斉に斬りかかる団員達。


 グォォォォ!!!


 一体がバランスを崩し倒れ込んだ隙に喉元に斬りかかり、目を潰し息の根を止める。


 問題は二体目だ。目が見えないせいで酸を所かまわず飛ばしている。どうやら足元には飛ばせないようだ。だが足元は踏まれる可能性もある。


 後方に回ったり、ギリギリの所に移動しながら攻撃していく。俺も酸を避けながら魔獣を斬りつけている。


「あと少しだ!頑張れ!」


 どうやら斬りつけて大分体力を削ったようだが、辛弾の効果も無くなったようだ。


 魔獣は怒り狂い雄たけびを上げて指揮をしている団長に突進した。どうやら騎士達に指示を出している者を意図的に狙っている様子。


「チッ。敵は少しだが知能はあるようだな。どちらが先にやられるか」


 背後に回った騎士達が斬りかかっては後ろへ下がり攻撃を避ける。ぐるりと振り返った魔獣は俺と視線が合うと、腕を振り上げ叩き潰そうとする。辛うじて避けた所に酸の攻撃。


 クソッ。避けきれない。


 魔獣が俺に向かって酸を吐いた直後。


「今だ!一斉に攻撃しろ!!!」


 声と同時に斬り込む騎士達。


 俺は避けきれずに酸の攻撃を受けた。鉄の鎧を着てはいるが酸は鎧の中に入り込み身体を焼いていく。


「ケイルート様!!!急げ!ケイルート様を下げろ!」


 俺は数人の騎士達に引きずられて魔獣の攻撃が当たらない距離に引き離された。


 鎧を脱がされ、水を掛けられるが傷は相当に酷いようだ。手も動かない。


「ケイルート様、囮になんてならなくていいんですよ!!」

「い、いや、囮になるつもりはなかったんだが……」

「下半身が特に焼けただれています。指も溶け始めている」

「ケイルート様、大丈夫ですか!?」

「エルノルテ、状況は?」

「ケイルート様の指示で最後の魔獣も倒せました。急いで戻ります」

「……あぁ。頼んだ」


 俺は目を瞑り痛みと戦いながら王宮へと運ばれて行った。

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