第60話 ケイルートは…

「緊急伝令! 緊急事態発生致しました!!」


 伝令係が大声で叫びながら騎士団の詰所に入ってきた。


「何があった?」


 俺は冷静に伝令係に聞く。


「東の森奥から魔獣が現れました! その数三体。対応に当たっていた第三騎士団撤退。現在、第五騎士団、第七騎士団が戦闘中。敵の強さが恐ろしく強く、更なる応援要請あります」


 ……第三騎士団が撤退。


 その言葉に背中に冷たい物が走った。


 ナーニョやローニャがいるおかげで俺達は死に急ぐことなく怪我をすれば撤退するように勧めているが、二つの団をもってしても苦戦しているのか。


「エサイアスは!?」

「申し上げます! 現在エサイアス様率いる第十二騎士団は西の森にて魔獣を討伐中との事です」

「チッ。動かせんのか」


 副官の言葉に苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「他に動かせる団は?」

「治療中が十と十一。王都の警備と王宮警備にも現在出ており、第一団が三分の一、第二団の三分の一ならすぐに迎えます」

「チッ。寄せ集めになるのか。仕方がない。俺がその二団を率いて前に出るしかない。第二団長を呼べ」


 副官に指示をする。他の団は休養しているため招集するにしても時間が掛かる。


 こんな時に。


「第二騎士団団長フォール、副官のエルノルテ入室します」

「あぁ、待っていた。伝令から聞いただろう? すまんが三分の一の騎士を準備させてくれ。あぁ、お前達も一緒に出ろ」

「承知いたしました」

「ディール、父上に話をしておいけ」

「畏まりました」


 緊張に包まれる騎士団棟。


 数年前に異次元の空間が出来た時、同じような状況だった。


 そして援軍要請に応じて出た兄は儚く散った。


 あの時の状況に比べれば敵はまだ三体だ。


 まだいける。


「ローニャはどうしている?」

「はい。ローニャ様は先ほど研究所から医務室へと移動し、治療を開始しています。もう少しすれば第三騎士団の騎士が治療へ運ばれてくる予定です」

「そうか。治療させ、軽傷の者は復帰し準備をさせろ」

「承知致しました」


 ナーニョやローニャがいる事で我々は思う存分に戦える。


 本当に感謝しかないのだ。


 鎧を着こみ、訓練場へと向かう。


 既に騎士達は準備を終え、整列していた。


「諸君、先ほど伝令からあったように現在、王都外に魔獣が三体出没中だ。やつらは王都に向かっているようだ。我々が出撃せねばならぬほど強大な敵だ、心してくれ」


 どの騎士も真剣な表情を崩すことはない。


 騎士団は実力で一から二十五までの団になっている。平民であっても実力があれば第一に入る事が出来る。団長や副団長はさらにエリートとなる。


 エサイアスが第十二団の団長なのに英雄と呼ばれている理由はエサイアス自身も強いのだ。


 だが、それだけではない。


 騎士達の中で軟弱だと笑われていた集団を纏め上げ、第一騎士団に劣らない程の能力を出させている。


 やつは第十二団の団員達の個々の能力をしっかりと考えた上で配置し、動かしてきたおかげでどの団よりも死亡者が出ることなく、怪我人も少ないのだ。


 俺に対する口は悪いが。


「では出立!」

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