第53話

 翌日からは今までと変わらず研究室へ赴き、研究員と魔法についての会議や試作品を試す事をしたり、ローニャの持っている指輪で王家が所有する農場の土質を改善したりして様々な研究にも取り組む事になった。


 もちろん王女の勉強も欠かさずしているわ。


 ただ、この国の令嬢と少し違うところはお茶会に参加しないというところかもしれない。


 忙しくて出来ないのよね。


 王女の役割は貴族との折衝も兼ねていると思うが、ナーニョ達は魔法の研究や怪我人の治療で忙しい。


 週に一度は教会へ赴いて聖騎士達の治療も行っている。


 そして最近は聖騎士の他に平民達の治療も行い始めているのだ。


 貴族は基本的に護衛騎士がいるので怪我する事は殆どないが、平民は自分で自分の身を守らねばならない。


 魔獣による怪我人は数えきれないの。


 エサイアスはというと最近は王都外の魔獣退治にも再び参加するようになっている。


 時折、怪我をして戻る彼にナーニョ達は心配している。


「エサイアス様、大丈夫ですか?」

「あぁ、ナーニョ様が怪我を治療してくれるから全力で戦えている。感謝しかないよ。騎士達も士気が上がり、魔獣退治の成果が格段に上がっている。喜ばしいことだよね」


 雑談をしながら怪我を治療するナーニョ。


 怪我の治療を行っている事で血の匂いや怪我の痛々しさにも慣れた。その辺りはローニャも同じようだ。


「治療が終わりました。回復出来るからといってあまり無理はしないで下さいね」


「あぁ、でも最近はナーニョ様に怪我をした時にしか会えないのが寂しいよ」

「私もエサイアス様やロキアさん達に会えないのは寂しいです。今度また遊びにいけるようなら連絡しますね」

「あぁ。ロキアもマーサも首を長くして待っているよ。あぁ、そうだ。この間ナーニョ様にとても似合いそうな飾りを見つけたんだ。貰ってくれるかな?」


 エサイアス様はそう言うと、小さな小箱を差し出した。


「開けてみても良いですか?」

「もちろん」


 ナーニョはドキドキと心躍らせながら箱を開けると、小さな花の髪飾りが入っていた。


 花の柱頭部分には綺麗な蒼い宝石がキラリと輝いている。


「わぁ! 素敵! 本当に貰っても良いのですか?」

「うん。ナーニョ様に似合うと思ったんだ。気に入ってくれたかな?」

「嬉しいです! 可愛いっ」

「髪に付けてみる?」

「はい」


 箱から取り出した髪飾りをエサイアスはナーニョの髪に付けた。


「よく似合っているよ」


 エサイアスの言葉に頭を少し振り、嬉しそうにしているナーニョ。


「ナーニョ様、今度「ナーニョ様! 治療中、すみませんっ!! ローニャ様がっ!」」


 駆けこんできた騎士が大声でナーニョを呼んだ。


「ローニャがどうしたのでしょうか?」


 エサイアスと共に騎士に視線を向けて話すナーニョ。


「ローニャ様が、突然体中が痛いと震えだして……ナーニョ様を何度も呼んでいるのです」

「……体中が、痛い」


 そろそろとはいえ、少し早い気もするけれど……。


 不安になりながら立ち上がったナーニョ。


「エサイアス様、ローニャが呼んでいるので行きますね」

「あぁ。ローニャ様に何かあったら大変だ」


 ナーニョは軽く頭を下げた後、走るように騎士と共にローニャのところに向かったナーニョ。


 騎士が向かった先は研究所の第一研究室だった。


「ローニャ、大丈夫!?」


 ナーニョはソファの上で小さく丸くなって震えているローニャに駆け寄った。


「お、お姉ちゃん。からだが、いたいのっ」

「どれ、見せてちょうだい」


 ゆっくりと身体を起こしたローニャにナーニョはヒエロスを使う。


 魔力で身体中を調べてみると、やはり思ってナーニョの考えている通りだった。


「ローニャ、成長が始まったわ。今日はゆっくり休むしかないわね」

「やっぱりそうなの? 自分でもそうじゃないかなって思ったんだっ」


 ふわふわのしっぽを振りながらローニャは嬉しそうに言った。


「ナーニョ様、成長が始まったとは?」

「前に少し話したと思うのですが、獣人は一気に大きくなるのです。ローニャも私と同じように大人と同じ大きさになるまでに一、二年くらいかかりますが」

「そんなに短期間で大きくなれば身体中痛みを伴うのは仕方がないですね」


 オーラスの言葉に納得する研究室の者達。


 ローニャの身長は今百センチ程度。


 ナーニョの身長は百七十センチほどだ。一、二年でナーニョ程の大きさになるのであれば身体中痛みを訴えても仕方がない。


「マートス長官、ローニャを休ませてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、もちろんだ。無理させる必要はない」


 フェルナンドさんがローニャを抱え、別の騎士が護衛に周りローニャを部屋へと連れていく。


 ローニャが戻り、部屋はすぐに落ち着きを取り戻した。


「ナーニョ様、ローニャ様は大丈夫ですか?」

「マートス長官。二、三日安静にしていれば痛みも引きます。慣れるまでの間、ローニャはお休みを頂く感じになりますがいいでしょうか?」

「あぁ、もちろんだ。動けないくらいの痛みだ。成長と共に魔力も増えるのだろうか?」

「魔力の総量は身体と成長と共に増えていくと思います。

 ローニャは私より早くに魔法を使い始めたから成長したら私より魔力量は多いと思います。

 ですがこの成長期の間に無理をすると成長が止まり、魔力量も増えないと思うので今は無理をさせない事が大前提にあります」

「そうか。わかった。他の研究室に通達を出しておく」

「マートス長官、ありがとうございます」

「いやいや、こちらとしても協力してもらっているんだ。感謝しかない」


 ナーニョはローニャの状態を確認するために今日は少し早いがそのまま王宮に戻ることになった。

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