第52話
それから一週間私達は勉強と治療、魔力や魔法の研究、新しい指輪の試験と目まぐるしく動いた。
新しい指輪は初級魔法を中心に作られる事になったのだ。
研究者達は様々な素材や装飾を作り、より良い物を作っていく。
その技術を用いて上級の指輪や最終目標である空間を閉じる指輪の作成に尽力したいのだとか。
どうせなら空間を閉じる指輪を先に作った方が良いのではないかと思われるが、現段階で彼女達に合う指輪を作れていない。
試作の段階で彼女達に何かあってはいけないという事や、実際どれほどの魔力を必要とし、一人で閉じる事が出来るのかも分からない状態で魔獣が湧き出る空間に近づけるのは危険だと判断したためだ。
彼女達を取り巻く人達も神経を尖らせているのは間違いない。
ー 彼女達はこの世界の希望なのだから。
「ナーニョ様、ローニャ様、準備が整いました」
「こんなに素敵にしてもらってありがとう」
「私も嬉しい! でも早く大きくなってお姉ちゃんみたいな綺麗なドレスを着たいな」
今日は新たに王族となったナーニョとローニャのお披露目の会。
普通なら成人した王族がお披露目と成人の祝いを兼ねてするものだが、今回は貴族や国民へ周知する目的で行われる。
「ナーニョ様、とても美しいです。ローニャ様も可愛くて皆が見とれてしまいます」
「ふふっ。有難う!」
「ローニャ、今日はお姉様だからね?」
「大丈夫だよ! この日のために頑張って勉強してきたんだからっ。任せて!」
ローニャはニコニコ笑顔で扇を仰いでみた。その様子を侍女たちが微笑ましく見つめている。
ナーニョ達は部屋を出て、王族住居区画の入り口まで行くと、兄のケイルートとエサイアスが待っていた。
本日のエスコート役だ。
「ケイルート兄様! どう? 似合っているかな?」
「ローニャはいつも可愛いが、ドレスを着た姿もまた可愛い。良からぬ虫が沢山湧きそうだ。ナーニョも美しい。女神のようだ」
「お兄様、ありがとうございます」
「ナーニョ様、月の女神が降臨してきたようだ。本当に美しい。エスコートという栄誉をお与えいただき感謝しております」
仰々しく頭を下げたエサイアスに驚くナーニョ。
それを見たケイルートは苦笑している。
「エサイアス様、顔を上げて下さい。褒めて下さり有難うございます。本日のエスコートを宜しくお願い致します」
「そろそろ時間だ。行こうか」
ケイルートはローニャと手を繋ぎ、ナーニョははにかみながらエサイアスに手を出す。
エサイアスは優しく手を添えてエスコートする。
控室に入ると既に父達はお茶を飲みながら待っていた。
「ナーニョ、ローニャ。そこに座りなさい」
「はい、お母様」
エサイアス様は控室前で待機するらしい。
「ナーニョもローニャも緊張していないかしら?」
「少し緊張しています。いつも帽子を被っていたからこの姿を見て、みんなに受け入れてもらえるかどうか心配です」
「私はちょっと緊張しているけれど、お兄様と手をつないでいるから大丈夫です!」
「耳や尻尾は特徴的だけど、とても可愛くて素敵よ? 何にも問題にならないわ。むしろ愛くるしい感じしかないわ」
「ローニャ、儂の隣においで」
「おとうさま、せっかく侍女さんに髪の毛を結ってもらったからわしゃわしゃしないでね?」
「あぁ、もちろんだ」
――コンコンコン
「そろそろ式の時間となりました」
従者の声で立ち上がり、会場に入る時間になった。
父と母の後にナーヴァル兄様とグレイス様、ケイルート兄様はローニャと手をつなぎ、私はエサイアス様のエスコートで会場に入る。
父達が見えた途端、大きな歓声が上がった。
会場には王都にいる貴族が今日のために集まっている。
あまりの人の多さに驚いてナーニョはカチカチと固まりながら歩くので精一杯だった。
ローニャはケイルートにしがみつく感じで歩いている。
二人ともこれほどの人数を見たことが無かったため、しっぽは身体にギュッと巻きつけていたのは仕方がない。
宰相の言葉で式が始まった。
国王陛下の挨拶、貴族の挨拶。グリークス神官長の挨拶と続いていく。
そして神殿からナーニョ達は優秀な治療者として正式に認定するという宣言があった。
神殿が正式に宣言する事は意味が大きい。
会場にいた者達からどよめきが起こった。神官長からの突然の宣言。
二人はどのような人物なのか。
見るからに耳の生えた可笑しな人間。疑問を浮かべる者達。
そんな中、宰相からのナーニョとローニャについての説明がなされた。
落ち人で獣人ということ。
二人は魔法が使え、現在は魔獣の討伐で怪我をした騎士を中心に怪我の治療に当たっていると話があった時に歓声が上がった。
そして今後の展望として魔獣による怪我人の治療をしながら魔法の研究を進めていく事や魔法を使える人間を増やしていく事、農作物の収穫量を増やし、民を飢えから守る事、最終目標として異次元の穴を塞ぐ事の話があった。
どれも前向きな話に貴族達は高揚する。
「ではこの度、養女となったナーニョ様、ローニャ様、前にどうぞ」
ナーニョもローニャもエスコートされ、中央に移動する。
足はガクガク、ブルブル震える手を止めようとするが、緊張はどうしても解けない。
「こ、この度、王女となったナーニョ・ヘルノルド・アローゼンです。まだこの世界に来て間もない私達を優しく迎え入れてくれた事を感謝しております」
短いながらもなんとか言葉を言い終えたナーニョ。
会場からは温かい拍手に包まれた。
「ローニャ・ヘルノルド・アローゼンです。好きなものは木の実や果実です。
この世界に落ちて来た時は不安でしたが、温かく迎えて貰って嬉しかったです。
皆様、これから一杯ご迷惑をおかけしますが、温かい目で見ていただけると嬉しいです」
ローニャの言葉に会場はドッと沸いた後、拍手が送られた。
ナーニョはとても恥ずかしくなった。
妹はこんなに上手に人前で話しているというのに自分は出来ていないと。誇らしいと思う気持ちもある。姉としてもっと頑張らないといけない。
彼女は一人落ち込む気持ちと叱咤する気持ちを噛みしめる事になった。
「ナーニョ様、お手をどうぞ」
エサイアスは微笑みながらエスコートの手を差し出す。
ケイルートは何を思ったかヒョイとローニャを抱えて席に着いた。
その様子を見ていた貴族達は二人が王家に歓迎されているのだと感じたのかもしれない。
会場からは割れんばかりの拍手でナーニョ達のお披露目会は終わりを告げた。
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