第51話 神殿
「グリークス神官長、大丈夫ですか? ボッシュ神官から言われて確認しにきました」
「……あぁっ。良かった。君、ベッドまで連れて行ってくれ」
「だ、大丈夫ですか!?」
扉を開けるとグリークス神官長は机の上でぐったりとしている。
驚いたのは言うまでもない。
一人では抱える事が出来ないため、すぐに聖騎士を二人呼び、グリークス神官長をベッドへと運んだ。
「ただいま医者を呼んできます」
神官がそう言うと、グリークス神官長は大丈夫だから呼ぶなと言っていた。
だが心配だったのでボッシュ神官に知らせに行った。
「ボッシュ神官、……あの、グリークス神官長が机の上でぐったりとしており、先ほどベッドへと運びました。どうなされたのでしょうか?」
「あぁ、ナーニョ様の忠告を聞かずに子供のように嬉々として魔力を使っていたのだろう。大丈夫だ。ちょうど今、ナーニョ様達が王宮へ戻られた。すぐに神官長の元へ向かう」
そうしてボッシュ神官は連絡通路を通り、グリークス神官長の私室へと入った。
「グリークス神官長、ただいま戻りました」
「あぁ、ボッシュ。魔法の練習をしすぎたようだ。気持ちが悪い」
真っ白な顔をした神官長がベッドからひょっこりと顔を上げて笑って見せた。
ボッシュはホッとしたと同時に呆れていた。
「ナーニョ様から気を付けるようにと言われておりましたよね? 馬鹿ですか? それはそうと体調はどうなのですか?」
「あぁ、魔法が使えると思うと楽しくなってしまってね。反省している。気分がとてつもなく悪い。どう例えればいいか、そうだな、馬車酔いをしている感じだ」
グリークス神官長はゆっくりと起き上がり、お茶を淹れてくれと要求する。
「ナーニョ様達の治療はどうだった? 私もその場に立ち合いたかったのだが、指輪が嬉しくて練習してしまったよ」
まるでおもちゃを貰ったばかりの子供のようだとボッシュは笑ってしまった。
神官長は長年魔獣と戦い身体も傷だらけで本当なら立っているのもやっとだというほどの体調だった。
それでも民のためと毎日過ごしていて、彼は神官長のことをとても心配していたのだ。
ある日、国王陛下から話があると呼ばれ、満身創痍の状態で王宮に向かったのだが……。
戻って来た時のグリークス神官長を見て驚いた。
にこやかに行き交う信者に声を掛けながらスタスタと歩いている。
これには普段の神官長の状態を知っている者達は皆驚いていた。
意気揚々と執務室で話をするグリークス神官長。その内容に驚愕したのは間違いない。
……落ち人が存在する。
そして魔法を使い、グリークス神官長を治療したという。背中を見せて貰ったが過去の傷が綺麗さっぱりと無くなっていた。
更に神官長に魔力があると告げたのだ。
大昔にいた魔法使い。
現在にはもう居ないと思われていたのだが、まさか神官長が魔力持ちだったとは。
「ナーニョ様の治療をこの目で拝見しましたが、素晴らしいの一言です。彼女こそ聖女と言わざるを得ません。
怪我人に向ける慈愛の心。自分の魔力が底を突くのも厭わない。
彼女は重症患者を治療したのですが、臆することなく治療するその姿勢。治療された騎士達は彼女を信奉する勢いです」
ボッシュ神官はグリークス神官長に自分の目の前で起こった出来事の詳細を話した。
「ローニャ様の方はどうだった?」
「直接見たわけではありませんが、幼いながらも治療技術はナーニョ様と同様のものだと思われます。
ただ姉のナーニョ様に比べて考えが幼いですが、そこは仕方がないですね。
ですが、ローニャ様も純粋です。
怪我人を治したいという思いは伝わってきましたし、治療された聖騎士もローニャ様の盾になりたいと自ら志願する者もいました。
二人ともこの世界で稀有な存在です。
邪な考えを持つ者に潰されてしまうのではないかと心配でなりません」
「……そうだな。国王もそう考えているようだ。彼女達の身分を王女とし、来週には正式な場で発表すると聞いた。教会も何らかの手を打っておかねばなるまい」
「そうですね」
そう言いながら我々はお茶をゆっくりと口に含んだ。
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