第44話

 ――コンコンコン 


「カシュール様、ナーニョ様とローニャ様をお連れしました」


 そうして入った部屋はサロンと呼ばれている部屋。


 貴族の家にはシガールームやサロンと呼ばれる部屋があり、家族の団欒に使われたり、客人とお茶をするための部屋なのだそうだ。


 ナーニョもローニャも金細工が至る所に施された豪華絢爛な部屋にキョロキョロと目が泳ぐのを止められなかった。


 サロンに居たのは陛下と王妃、王太子殿下と王太子妃殿下、第三王子殿下と呼ばれる方々だ。


「初めまして。ナーニョ・スロフと言います。こっちが妹のローニャ・スロフです。これからここでお世話になると聞いてやってきました。宜しくお願い致します」

「ローニャ・スロフです。宜しくお願いします」


 私達は帽子を取り、一礼をする。


 すると陛下はクシャリと顔を崩して頬笑み、向かいのソファに座るように促した。


 ナーニョ達は緊張しながらソファに座るが陛下以外の人達の視線が気になって仕方がない。


「彼女達が落ち人、なんだね。信じられないが、信じるしかないだろう。そ、その、耳は本物なのかい?」

「はい。私達は猫種の獣人です」

「可愛いわ。我が家に女の子がいなかったから娘が出来て嬉しいわ」


 ナーヴァル王太子殿下は不審そうな目をしながら聞いてきた。


 反対に王妃は陛下と同じように孫を見るような目で私達を見ている。


 そうそう、研究所の人達から王族の方々の名前を教えて貰った。


 現在国王陛下の名はカシュール・ヘルノルド・アローゼン。四十七歳。


 王妃の名はグランディア二つ下の四十五歳、王太子殿下の名前はナーヴァル二十六歳。


 王太子妃はグレイス、第三王子はケイルート二十三歳だそうだ。


 現在の王太子は第二王子で第一王子だった人は騎士団を纏めていて魔獣との戦いで亡くなったらしい。


 現在騎士団を率いているのは第三王子のケイルート様だ。

 英雄エサイアス様がいるためあまり表に出てこないらしい。


「あぁ、君がナーニョとローニャだね。色々と話は聞いている。こんなに可愛い妹が出来て嬉しい。

 エサイアスは絶対に私に会わせないようにしていたんだぞ。酷い話だが納得だな。こんなに可愛い子猫ちゃんなら可愛がりたくなるのも無理はない。ローニャ、ケイルート兄様って呼んで?」


「け、ルート兄様、宜しくね?」

「んー可愛いな! ローニャ。俺に子供がいたらこんな感じなんだろうなぁ。ナーニョも言ってみて?」

「ケイルート兄様、これから宜しくお願いします」


「ナーニョも可愛い。父上、俺は全力で妹達を守りますよ! 俺が認める奴以外は嫁に行かせない」

「こらっ、ケイルート。はしゃぎすぎだ。お前がはしゃぐのは分かるが、彼女達が怯えるだろう」


 ケイルートを諫めるのはナーヴァル。


 ケイルートは騎士団を纏めているだけあってとても身体が大きく熊獣人を思わせるのような感じだ。

 反対にナーヴァルは細身でキリッとした顔つきで人間の女の子に人気がありそうだ。


 獣人の世界では顔よりも力の強い熊が大人気なのは内緒だ。


「まぁまぁ、お前達。これから妹になったのだから仲良くするように」

「ナーニョさん、ローニャさん、私はナーヴァルの妻でグレイスと言います。これから宜しくね」

「「宜しくお願いします」」


「ところで騎士達が二人の魔法で怪我が治ったと騒いでいるようなんだけど、本当?」

「あぁ、本当だ。儂の古傷もナーニョが治したんだぞ? 丁度いい、ケイルート。お前もナーニョに治してもらえ。お前もソリュートのようになってはならんからな。お前達もみてもらうといい」


 父となった陛下がケイルート兄様にそう話す。ソリュートというのは亡くなった第一王子のことのようだ。


「ケイルート兄様、怪我をしているのですか?」

「あぁ、背中を少し。でも深い傷ではないから大丈夫だ」


 ケイルート兄様は拒否しようとしていたけれど、父の言葉で渋々服を脱ぎ怪我を見せた。


 肩から腰にかけて付けられた爪の跡。


 とても痛々しそうで母やグレイス義姉は目を背けてしまった。


「ケイルート兄様、これだけの深い傷。我慢してはいけないわ」


 ナーニョはいつものようにケイルートを治療するために肩に手を置き、魔法を使う。


 ケイルートの身体が淡い光を帯びる。


 やはり背中の傷が大きい。

 だけど、右前腕の傷も相当深い。


 怪我を隠して戦い続けているのだろうか。


 他にも目に見えない小さな傷がいくつか感じる。


 攻撃と言うよりも誰かを守って怪我をするような怪我の仕方だ。


 怪我の確認をしながら治療をする。見た目で分かる背中の傷は綺麗に無くなった。


 それを見ていた母達は驚いていたが、とても嬉しそうだ。

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