第43話

「ナーニョ嬢、ローニャ嬢、少し話があるんだ」


 暗い顔をしたエサイアスからサロンで話そうと言われて彼の後に続いて歩く二人。


 私達の今後が決まったのだろうか。

 何か良くない話があるのだろうか。


 不安になる私とローニャ。


 サロンに入り、エサイアスは気だるい様子でボスリとソファに身体を預けた。


 私とローニャは向かいに座り、ロキアさんがお茶を淹れる。


「ロキアさん、いつも美味しいお茶をありがとうございます」

「美味しいと言っていただけて何よりです」


 そんな雑談をした後、彼は私達に向き直り話をはじめた。


「二人ともよく聞いてほしい。先ほど王宮から連絡があったんだ」

「私達の今後の事が決まったのでしょうか……?」


 王宮からの連絡と聞いて緊張が一気に高まる。


 私はカップをテーブルに置いて真剣に話しを聞く。


 ローニャは変わらずお茶を飲みながら耳を彼の方に向けている。


「君達二人はこれから国王陛下の住む王宮で王女として暮らすことになった」

「……そうなのですね。王女というのは陛下の娘ですよね?養女になるという事でしょうか?」

「あぁ。君達は陛下の娘となる。君達二人を守るためだと了解してほしい」


「王女になって何か変わる事はあるのですか?」

「特に変わる事はないと思う。ただ、住まいが王宮になる。正直、君達と離れるのは悲しい。この邸は君達のおかげで華やいでいたからね」

「そう言ってもらえると嬉しいです。私もローニャもこの邸の方々にはとても良くしてもらって感謝しかありません。第二の我が家ですもの」


 エサイアス様はフッと笑顔になった。


 その様子をみてこちらもホッと安心する。


「君達二人が王女になった時に皆にお披露目をする場が儲けられる。

 その時に獣人であることや、魔法を使える事が正式に発表される。

 普段は研究室でいつものように勉強しながら騎士達の治療に当たってもらい、週に一度だけ王都の神殿で平民達の治療を行ってもらう事に決まったらしい。

 陛下達も君達に無理させないために取り計らってくれたようだ」

「陛下には感謝をしなくてはなりませんね」


 私がそう話をしているとローニャは目を輝かせながら口を開いた。


「私達が王女様になるって事は舞踏会で踊ったりするんでしょう? 綺麗なドレスを着てオシャレをするんだよね?」

「ローニャ、それは本当?」

「うん、マイアさんが貴族は舞踏会があって皆参加するんだよって言ってたもん」


「そうなのね。私達、この国の勉強を始めたばかりで作法もダンスも分からないわ」


「大丈夫だよね? エサイアス様。お姉ちゃんはエサイアス様とダンスを踊れば良いんだから。私はまだ小さいからダンスしなくていいみたいだし。なんとかなるよきっと!」


「ははっ、ローニャ嬢。そうだね。ナーニョ嬢と踊るのは私だ。それは誰にも譲らない。ダンスもマナーもこれから王宮で教えてもらえるし大丈夫だよ」

「エサイアス様が側に居てくれるなら安心ですね。良かった」


 住むところは変わるけれど、ローニャと離れる事もないし、今まで通りでいいのなら本当に良かったと思う。


 ロキアさん達と離れるのは少し寂しいけれど、こればかりはわがままを言えないのは分かっている。


「エサイアス様、私達はいつから王宮へ住む事になるのでしょうか?」

「あぁ、急な話なんだが、君達がいつ狙われるか分からないからね。

 明日から住む事になる。心配しなくても着る服や欲しいものは陛下が全て用意してくれるから大丈夫だよ」

「……わかりました」


 急遽決まった養女の話。


 城の人達や王様の家族は私達を受け入れてくれるだろうか。心配になる。



 こうして今日一日はエサイアス様の邸でゆっくりと過ごしてロキアさんとマーサさんにこれまでの感謝を伝えた。


 二人がいなければ私達は路頭に迷っていたに違いない。

 命の恩人なのだ。



 翌日、悲しい別れではないので私達は笑顔で二人に別れを告げて王宮に向かった。


「ナーニョ嬢、ローニャ嬢、ではまた。何かあれば必ず私に言って欲しい。何があっても君達を迎えにいくから」

「エサイアス様、ありがとうございます。私達もこれから一杯勉強して頑張りますね」

「エサイアス様、じゃぁね! また後で騎士団の詰所で会おうね~♪」





 私達は従者に案内されるまま王宮へと入っていった。いつもと違う通路。


「ナーニョ様、ローニャ様、ここから王族の居住区になります」


 従者がそう言うと、居住区から別の従者が現れて引き継ぐようだ。


 入り口には衛兵が居て人の出入りが厳しく制限されているようだ。


 先ほどまで案内してくれていた従者は一礼した後、元の場所へ戻っていく。


「私、執事のロジャー・ジェイスと申します。カシュール様よりお二人をお連れするように仰せつかっております」


 私達はロジャーさんに挨拶をした後、彼の後ろを付いて歩く。明るい廊下を歩いていると同じような扉がいくつかあった。


 ……慣れるまでは迷ってしまいそう。

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