第45話

「ケイルート兄様はいつも誰かを庇っているのでしょうか? 傷が沢山ありました。あまり無理はしないで下さいね」


「!!! ナーニョ、有難う。父上、何故養子にしたんだ。私の妻でも良かったのではないですか」

「お前はそう言うと思った。だから娘にしたのだ。こんな幼い子達をお前の嫁には出来ん」


「父上っ!? 俺をそんな目で見ていたのですか??」

「あぁ、そうだが?」

「し、心外ですよ。ただ小さな物を集めるのが趣味なだけで幼い子とどうにかなりたいという願望は持っておりませんが!?」


 必死に誤解を解こうとするケイルート兄様にローニャはクスクスと笑いはじめる。


「ローニャ!?」

「ケイルート兄様、面白い。ローニャ、熊の獣人は大好きだよ! こんなにおっきくて、力が強くて、誰よりも優しいんだよ? 兄様は熊の獣人みたい」


 ローニャの言葉にナーヴァルやグレイスも笑い出す。


「相変わらずローニャはいい子だな。何か欲しい物はないか?」

「んー王女様って勉強が一杯必要なんだよね? マイアさんが言っていたの。私、この国の研究員になって働きたいから勉強を教えてくれる人が欲しい。駄目かな?」


 ローニャの突然の願いに私は驚いた。


 まさかここでそんなお願いをするなんて、と。


「ふふっ。ローニャはなんて偉い娘なのでしょう。いつも勉強から逃げていたナーヴァル達とは大違いね」

「は、母上っ。今はきっちりと仕事をしているではありませんかっ」


 どうやらナーヴァル兄様は勉強嫌いでいつも教師から逃げ回っていたようだ。


「ははっ。ローニャ、いいぞ。二人には最高の教師を付ける。ナーニョは欲しいものはあるか?」

「わ、私は、騎士の方々が着ているような動きやすい服が欲しいです。

 きっとこれから先、怪我の治療をしたり、ケイルート兄様に付いて行く事も増えると思うので動きやすい格好がしたいです」


 私の言葉に先ほどの温かな雰囲気が一変した。


「……そうか。視察に付いていく意思はあるのか」

「お父様には話をしましたが、私の両親は幼い頃に魔物に殺されました。

 ずっと二人で生きてきたのです。私は妹を守りたい。

 こうしてお父様達の庇護下に入る事でローニャを守る事が出来るのであれば私は協力を惜しみません」


「なんていい子達なのっ。この歳の貴族の娘なら着飾る事を望むというのに勉強したいとか兄を守りたいとかっ。爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ」

「やはり儂の目は確かだな。ナーヴァル、ケイルート、二人とも妹を守るのだぞ?」

「分かっております。父上」


 それからはまた和やかな雰囲気になり、獣人の世界の話をする事になった。


 父達は異世界の生活に興味があるようだった。


 特に王都や村での生活はどうしていたのか詳しく話して聞かせた。


 父達は私達が村の教会で育っているのに食事や読み書きが出来る事に驚いていた。


 獣人達の世界の方が村に食糧が行き渡るほど恵まれているのだと考えたようだ。


 だが、ここでローニャから話が出た。


 ローニャは魔法で植物が育ちやすい畑を作るのが日課だったと。


 魔法で植物の育ちを良くして収穫量を増やす事ができるのかと感心している様子。


 ローニャは自慢気に植物によって好きな土が違い、魔法を変えるのだと言って褒められていたわ。


 きっと騎士達の治療が落ち着けば食糧不足を改善するためにローニャが協力することになる。


 魔獣に襲われるより安全は確保されているし、難しい事ではないのでローニャも喜んで協力すると思うの。


 しばらく話をした後、ローニャは眠くなり、ウトウトしはじめると家族はそれぞれ部屋に戻る事になった。


 ケイルート兄様がローニャを抱っこして私達の部屋を案内してくれた。


「お兄様、ありがとうございます。これから妹として頑張りますね」

「そう気を揉まなくても大丈夫さ。父の可愛がる気持ちも分かる。俺にこんなにも可愛い妹が出来たことが嬉しい。一杯わがままを言ってくれ。ではまた夕食に」


 そう言いながらローニャをベッドに降ろして部屋を後にした兄様。


 慣れるまではローニャと同じ部屋で過ごすことになる。


 私達に用意された部屋はとても可愛い家具で統一されていたの。 


 猫種だからなのか猫足の家具にカーテンは猫が刺繍されている。


 もしかしてこれは陛下が思う私達のイメージなのかもしれない。

 そう思うとクスリと笑ってしまった。


 夕食までの間、私は部屋に置いてあった本を手に取り読んでみる。絵本のような文字の少ない本で私にはとても読みやすくて私にはとても嬉しく感じた。

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