第39話

「ナーニョ!? 今、なんと言ったのだ?? グリークス神官長に魔力が、ある、のか……?」

「? えぇ。少しではありますがグリークス神官長には魔力が存在します」


ナーニョは真剣な表情で急に聞かれたため、怖くなってエサイアスの後ろに隠れながら答えた。何か不味い事を言ったのだろうか?と。


グリークス神官長は手を眺めた後、身体を動かして確認しているようだ。


「素晴らしい!! 長年の痛みや傷が治っている! 奇跡だ!!! 聖女ナーニョ様、感謝致します。最初は疑っていましたが、傷が治るのを実感しました。疑いようがありません。

私は今でこそ神官長として王都の教会に在中しておりますが、神官長になる前は聖騎士として若いころから魔獣と対峙しておりました。

ここ数年、古傷が痛み、日によっては歩く事さえままならなくて今は週一度の礼拝の時間だけ皆に顔を見せるだけだったのです。

……それと、お聞きしたいのですが、私に魔力があるというのは本当なのでしょうか!!?」


神官長の漲る声にナーニョもローニャも驚き更に縮こまってエサイアスの後ろで震えた。


「こらっ、神官長。少し落ち着け。二人とも怖がっておるではないか。子猫を虐めてどうするのだ」


陛下が諫めると、神官長はハッとして少し落ち着いたようだ。彼が魔法を持っている事を聞きたいのはみんな同じようだ。


エサイアスはナーニョの頭を撫でて大丈夫だと声を掛けた。彼がふわふわの頭が触り心地の良さにうっとりしたのは内緒だが。


ナーニョは怯えながらエサイアスの後ろからひょっこりと顔を出して答える。


「え、えっと。し、神官長は無意識にま、魔力を使っていたのだと思います。た、例えば、ひ、人より重い武器を使えたり、剣などで攻撃した時、ほ、他の人よりダメージが大きかったり、するのでは、なかったでしょうか」


ナーニョの言葉に思い当たる節があったようだ。


「グリークス神官長、どうだ? 心当たりがあるのか?」

「えぇ。ナーニョ様の仰った言葉に身に覚えがあります。私の武器は大斧。他の者達は重くて上手く扱えない代物なのです。

確かに重いのですが、戦う時に重さを感じず戦えていたのはそのおかげだったのですね。

魔力があるのならナーニョ様達のように私も他の人達を治療する事が出来るのでしょうか?」

「で、出来る、かも、しれません。ただ、し、身体強化に魔力を、つ、使う人は外へ魔力を出す時に、ち、調整が難しくて苦手な、人が多かったように、お、思います」


ガクブルと震えるナーニョとは反対に感動に打ち震えている様子のグリークス神官長。


「どうだ? 儂の言っていた事は嘘ではなかっただろう?」

「仰る通りです。では、このまま彼女達を教会にお迎えして聖女として生活してもらうのが良いと思います」

「それは駄目だ、駄目だ。魔法が使える人間が我々の世界にもいることが判明したのだ。ここから魔法の研究や異次元の空間の閉じ方も研究が進んでいくのに彼女達無しでは成り立たんのだ」

「ですが、このまま彼女達を隠し、城だけに留まることは難しいのではないでしょうか?」

「そうだな。ナーニョもローニャもまだ未成年だ。それにローニャはまだこの通りの幼さ。世界を救う鍵となる二人を今無理して働かせるのは許可出来ぬ」

「ですが、日々魔物の脅威と戦い彼女達を望む人々を無下にも出来ない状況なのは陛下もご承知でしょう。我らには必要なのです」


ナーニョは私達の事を置いて話を進めている神官長に少し嫌悪感を覚える。


私達はエサイアスの邸でお世話になっているし、この世界に住むから今の研究にも怪我人の魔法使用も協力しているが、人々を癒して回るのも違うような気がする。


私は魔法使いになりたかったし、妹を守るために、生活をするために選ぼうとした道。育ててくれた神父様達には申し訳ないけれど、別に人に奉仕する事を選びたいと思った事はない。


このまま黙っていればきっと良いように使われるのではないのだろうか。


不安になる。


ローニャを無理やり働かせるわけにはいかない。


あの凄惨な光景を妹には見せたくない。


私の守るべきは妹。

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