第40話

「あ、あのっ!」


 私の言葉に二人の会話が止まる。


「どうしたのだ?ナーニョ」

「わ、私は今、エサイアス様の邸でお世話になっています。

 冷たいように聞こえるかもしれませんが、私はローニャのみんなに協力したいと願う気持ちを尊重して協力しているだけです。

 人々のために働きたい、癒したいという崇高な考えはないです。

 聖女というものになる気はないし、人々を癒して回りたいとも思っていません。

 私はただ一人の家族であるローニャを思って動いているだけです」


 この言葉を聞いた後、二人ともピタリと止まった後、神官長はワナワナと震え、訴える。


「ナーニョ様、どうしてですか!? この力で皆を救えるというのに。何故力を示そうとしないのですか!?」


「私達は幼い頃、私達の住む村は魔物により壊滅しました。

 生き残ったのは私達だけ。

 幼い妹はあまり覚えていないのですが、私は国王軍の方達と両親を含め村人の生死確認をしました。

 建物がことごとく破壊され、血しぶきが飛んでいる壁、血だまりになった道、手足の無い遺体が集められた広場、あの惨状を目の当たりにして苦しかった。

 自分のような子供達が一人でも減ればいいとは思います。

 だからこうして研究所の研究に協力をしています。

 ですが、私の一番に優先すべきはただ一人の家族である妹です。

 妹のために動いているだけです。妹にあの惨状を思い出させるような真似はさせたくないのです」


 ナーニョは自分達が置かれていた状況を話した。


 陛下や宰相は単に妹思いで怪我が酷い様子を見せたくないだけなのだと思っていたのかもしれない。


「そうか、二人とも辛い思いをしてきたのだな。まだまだ子供だというのに無理させていたようだ。すまない」


 陛下がそう謝ると、ローニャが後ろから顔を出した。


「国王陛下、ごめんね。なるべくローニャも研究には協力するね。

 でも、今はお姉ちゃんと離れたくないの。お姉ちゃんは私のために無理してしまう。

 みんなが請う度にお姉ちゃんが頑張ってしまう。私達はエサイアス様の下で穏やかに暮らしていきたい。難しいかな?」


「ローニャの気持ちは分かった。もちろんその辺も考慮する。だが、二人は落ち人。

 世界を救う事が出来る唯一の希望でもある。と同時に君達を狙う集団も出てくる。

 その辺りの事も考えて今後動くことになるだろう。もちろん君達の事を優先し、無理させない事も誓おう」

「私もナーニョ嬢とローニャ嬢を全力で守るよ」


 エサイアス様は真剣な表情で私達を見て誓っている。


 きっとこの場で国王陛下が誓ったのは重いものなのだと思う。


 私達の事を考えているのだろうと感じた。


 私はそれ以上言葉にする事が出来なかった。





 今日の顔合わせはそのまま終了となり、私達は一足先に邸に戻る事になった。


 この後陛下や神官長は話し合いをする事になるだろう。


 私達はなるようにしかならない事も分かってはいる。


 不安定な存在だと言う事もこの歳になれば嫌でも気づく。


 脅して無理やり従わせる事も相手は出来るのだ。そう考えるとやはりローニャは優秀だ。


 姉の私は不器用で世渡りも下手だと思う。


 もっと上手く出来ればいいのに。


「ローニャ、ごめんね心配かけて。私がもっと上手に立ちまわって話を出来れば良かったのに」

「お姉ちゃん、大丈夫だよ。お姉ちゃんは素直で努力家で誰よりも愛情深くていつも私を守ってくれているし、助けられているのは私。

 私は早く大きくなってお姉ちゃんのようになりたいと思っているの。

 私だって役に立ちたいの。お姉ちゃん一人に辛い思いをさせたくない。

 お姉ちゃんに追いつけるように毎日頑張っているんだからっ」

「ローニャ、有難う」


 こうして今日も二人でベッドに入って仲良く眠りについた。

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