第38話
翌日。
「ナーニョ嬢、ローニャ嬢。では行こうか」
「ロキアさん、マーサさん行ってきます」
ロキア達に見送られ、今日も馬車で王宮に向かう。
「ナーニョ嬢、ローニャ嬢。先日話していた事なんだが、今日は陛下と謁見がある。もちろん私も二人の護衛として付いていくから心配しなくて大丈夫だよ」
「国の英雄が私達の護衛ってなんだか偉くなった気分!」
「そうね。なんだか恐れ多いわ」
「陛下はきっと悪い人じゃなさそうだし、きっと大丈夫。なんとかなるよね」
相変わらずローニャは能天気というかポジティブなのか少し心配になる。
私が見定めてしっかりしないといけないわ。
そう考えながら王宮に到着した私達。
今回は謁見の間で行われるようで私達は従者の案内で謁見の間に向かった。
もちろんいつものようなシャツとズボンではなく、ワンピースと帽子である。
陛下やエサイアス様から帽子を取る許可が降りていないから仕方がない。
まだ他の人間が獣人に対して偏見を持つ可能性があるからだそうだ。
獣人は獣と同類、知能が低い、奴隷のように扱ってもいいと考える人もいるかもしれない。
過去の記述に獣人を馬鹿にする人は一定数いるという話をマートス長官が言っていたわ。
私達が迫害されないように何らかの手を打つまで帽子は必須のようだ。
「ナーニョ・スロフ嬢、ローニャ・スロフ嬢、エサイアス・ローズ・シルドア様が到着致しました」
前と同じように陛下と宰相が笑顔で私達を迎えてくれている。ただ一つ前と違うのは宰相の反対側にいた見慣れない制服のような物を着た男の人がいた。
私達が陛下の前へ到着するとエサイアス様は挨拶し、私達はお辞儀をした。
「ナーニョ、ローニャ、待っておった。呼び出してすまんな。今日は君達に紹介しなければいけない人物がいてね。彼はこの国の教会の神官長でグリークス・エーゼル・ラインだ」
「貴方達が落ち人のナーニョ・スロフさんとローニャ・スロフさんですか? 陛下よりお話を聞いております。二人ともこの国に、いやこの世界の新たな聖女なのだそうですね」
神官長グリークスは私達を蔑むような、疑うような視線を送りながら話をする。
ナーニョとローニャは何となく居心地の悪い視線が気になり、帽子を取る。
「私の名前はナーニョ・スロフです。こっちは妹のローニャ・スロフです。異次元の空間から落ちてこの世界に来ました。
聖女という言葉がどういうものなのかは分かりませんが、私達はエサイアス様の庇護の下、私達の持っている知識や魔法を使い協力します」
神官長は私達の耳と尻尾を見て一瞬目を見開いたのが分かった。
確かに人伝で聞いた聖女だとか英雄だとか本物を目にしないと実感がわかないのも分かる。
ローニャは神官長の視線から外れるように私達の後ろにそっと下がり、震えている。
「こらこら、グリークス神官長、ローニャが怯えているではないか。ローニャ、心配はいらないぞ? 儂の膝においで?」
陛下は空気を和ませようとしているのかローニャを手招きするが、さすがに膝は怒られるのでローニャも行く気はないようだ。
私の腕を掴みながら横に立った。
「二人ともまだ成人を迎えておらん。とても優秀だがまだ子供だ。優しくしてやれ」
「失礼しました。聖女を語る不届き者が多いゆえ、懐疑的になっておりました。
陛下の言う獣人の落ち人は本物のようですね。ということは魔法が使え、騎士達の治療を行っているのも本当なのでしょうか?」
「あぁ、もちろんだ。ナーニョ、グリークス神官長に魔法をかけてくれるかい?」
「わかりました。グリークス神官長、手を出してもらってもよいですか?」
神官長は疑うようにナーニョを見つめながら手を差し出した。
ナーニョは軽く会釈した後、『ヒエロス』と唱えた。
いつものように魔力は彼をゆっくり包み込む。
が、ナーニョはその瞬間驚いて手を放してしまった。
「すっ、すみません。掛けなおします」
そうして再び治療を再開する。
ナーニョが驚いた理由は魔法を流した時に反応があったからだ。
……神官長は魔力があるのかもしれない。
この世界に来てから初めての感じで驚いてしまった。
それに驚いた事がもう一つ。
彼は大小様々な傷が体中に付いている。
教会の人でも魔物と戦ってきたのだろうか?これだけの傷があれば痛くて立つことも難しい。
無意識に自身の魔力が怪我で動けない部分を補っているようにも感じる。
ナーニョは一つ一つ丁寧に傷を全て治していく。
傷が治っている事を実感した神官長の目は見開いていた。
「治療が終わりました。どこか痛い場所が残っていたら仰って下さいね」
「どうだ? 凄いだろう? ナーニョ、グリークスの怪我はどうだったかな?」
陛下は神官長を見ながらニヤニヤしている。
「グリークス神官長の怪我はとても多くてずっと魔物と戦ってきたような、エサイアス様のような怪我の仕方をしていました。
そして古い傷の具合から考えて下手をすると立つことにも激痛が走るくらいだったのではないでしょうか?
けれど、驚いたのはその怪我を庇うように魔力でカバーしていたことです。本当に驚きました」
ナーニョは思った事を素直に口に出したが、私とローニャ以外のその場に居た人達が私の言葉に驚いていた。
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