第5話 死のヤコダ山の謎!空飛ぶ雪男ウェンディゴを追え!-⑤
幸いな事に、ウェンディゴに殺害されたと思われていた失踪者たちは、全員生きて発見された。
カミヤ大尉の足跡を辿った先の洞窟に、数十年前のものと思われる野営の跡が残されており、失踪者たちはその傍に仮死の眠りに囚われた状態で封印されていたのだ。
あるいは、カミヤ大尉が彼らをウェンディゴから守っていたのかもしれない。
そう考えれば、ウェンディゴとの交戦直後すぐ傍で彼に遭遇した事にも説明がつく。
昏睡させて捕獲したウェンディゴも、動物園行きは免れないだろうが、殺処分せずに済みそうだ。
しかし、同時に謎も残った。
カミヤ大尉が亡くなったのは50年前で、失踪者が出始めたのは3ヶ月前からだ。
一体何が原因で、半世紀も昔の亡霊が突然活発に活動を始めたのか?
その理由はついぞ分からないままだった。
「そうですか、父の上官が…」
キハラ村長が悲しげに、しかしホッとしたように目を伏せる。
ここから先は彼の仕事だ。
最悪の事態だけは免れたこの山を、再び活気ある地に戻せるか否かは、今を生きる彼の手腕にかかっている。
「はい、恐らくはカミヤ大尉の残留怨念で間違いないでしょう。彼からこれをお預かりしています。」
預かった、と言っては語弊があるだろうか?
直接託されたわけではなく、カミヤ大尉を浄化した後、雪の上に残されていた品だ。
だが、それでも、これが彼のご遺族ではなく、キハラ村長の手に渡るべきものだと言う事は何となく分かった。
なぜなら、そのブライヤー製のパイプにはKIHARAと言う文字列が刻まれていたからだ。
「これは…ひょっとして父の?」
「恐らくは。確かに、お返ししましたよ。キハラさん。」
カミヤ大尉とキハラ一等卒、階級の離れた両名が、いかなる経緯で互いの形見となりうる品を肌身離さず持っていたのか?
その理由はついぞ分からないままだった。
だが、それで良いではないか。
生者には生者の、死者には死者の、在るべき時間と言う物がある。
死者が還って行くこの星のオルゴンの巡りからすれば、50年前も3ヶ月前も誤差のようなものだろう。
「おーい、シオン!話が済んだなら帰るぞ!」
「はーい、今行きま~す」
ルーナが手配したタクシーの前で手を振っている。
もちろん、会社の皆へのお土産も抜かりなく確保済みだ。
にんにくしょう油味のおせんべい、美味しかったからね。
旅館のご飯の写真と一緒にSNSにアップして、この村の美味いもんを宣伝してあげよう。
零細企業のウェンズデイ(株)には、そう言う横の繋がりも大切なのだ。
「なあ、シオン。お前さ…あんま背負い込み過ぎんなよ。」
「はー?意味わかんない、何のことです?」
私は引く手あまたのエリート死霊術士だ。
掃いて捨てるほど居る死者達ひとりひとりの人生にダラダラ付き合っている暇はない。
この仕事を続ける限り、私はこれからも物言わぬ屍の口を力づくで開かせ、死ねずに彷徨う哀れな亡者を暴力でねじ伏せ続けるだろう。
それでもかまわない。
私が授かって生まれた、この天賦の才は、助けを求める弱者達に手を差し伸べるためにこそ有るのだから。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はい、こちら認定魔獣捕獲等事業者ウェンズデイ(株)でございます
死のヤコダ山の謎!空飛ぶ雪男ウェンディゴを追え!-終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます