ちょっと、 何を言っているのか分からない
豫州潁川郡許昌城内。
城内の一室では、曹昂と荀彧と呂範が話をしていた。
「ようやく、兗州と豫洲の各地に屯田制が根付きましたな」
「最初の頃は逃げ出す者が多く大変だったそうですね」
「そうだね。人伝に聞いた話だと、借りた牛とか農具を奪って逃げ出したって聞いたな」
三人は巻物を広げながら話していた。
巻物には、屯田制についての事が書かれていた。
最初は多くの者達が逃げていたが、今では開墾が進み、今年の秋にはかなりの量の収穫が見込めると書かれていた。
「私も関わっていたのですが、それはもう大変でした」
荀彧がその時の事を思い出したのか、溜め息を吐いていた。
あまりに重い溜め息を吐くので、かなり大変だったのだなと曹昂達は思った。
二人は関わっていないので、慰めの言葉も掛けるのを躊躇った。
「……しかし、御二人が内政に秀でているお蔭で、仕事が減り助かります」
暫し、遠い目をしていた荀彧だが、曹昂達が居る事を思い出したのか、首を振り空気を変える為に話を振る。
「……まぁ、それなりにしてきたので」
「私は一時とはいえ、州牧の職に就いていたので慣れたと言うのが正しいですね」
呂範は袁術の下で内政を行い、曹昂は豫洲の州牧になった事があるので内政に慣れているので、そう言えた。
二人の話を聞いて、荀彧も然もありなんと頷いた。
その後も、三人は話をしていると、兵士が部屋に入って来た。
「失礼いたします。曹司空様よりの使者として参りました」
「なにっ?」
兵の報告を聞いた曹昂達は何事かと思い、顔を引き締める。
「父上に何かあったのかな?」
「いえ、そろそろ許昌に着くので、今後の対策について話したいとだけ申しておりました」
「「「うん?」」」
兵士の報告を聞いた曹昂達は首を傾げた。
今後の対策と言われても、何の対策なのか分からなかったからだ。
「どういう事でしょう?」
「私には分かりませんな」
「張繍の征伐が成功したので、その後の事を話し合うという意味では?」
「それだったら、征伐の祝いに宴を開くので準備しろと言うのでは?」
「確かに」
曹昂達は、何の事なのか分からず話していた。
とりあえず、曹操が戻ってくるという事は確かなので、三人はその時に詳しく話を聞く事にした。
暫くすると、甲冑を着込んだままの曹操が部屋に入って来た。
「お帰りなさいませ。父上」
曹昂が曹操に一礼すると、荀彧達も同様に頭を下げた。
「おおっ、子脩よ。呂布を撃退して戻って来たのかっ」
「はい?」
「という事は、残るは袁紹か。今はどの辺りに居るのだ?」
曹操は矢継ぎ早に曹昂達に訊ねて来た。
「……父上。ちょっと、何を言っているのか分からないのですが?」
「はぁっ⁉ お前こそ、何を言っているのだっ!」
曹昂が訊ねると、曹操が怒鳴り声で訊き返してきた。
「袁紹と呂布が手を組んで攻め込んで来たのだろう。お前が此処に居るという事は、呂布は撃退できたのだろう。残る袁紹はどうなっているのだっ⁉」
曹操がそう述べるのを聞いた曹昂達は、互いの顔を見合わせた。
「「「袁紹と呂布が手を組んで攻めて来たっっっ⁉」」」
思わず叫ぶ三人。
初耳とばかりに叫ぶ三人を見て、曹操は何を今更という顔をしていた。
「そんな話聞いていませんけど⁈」
曹昂が叫ぶと、曹操は大声で答えた。
「私とて荀彧からの文が来て知ったのだぞ。お前等が知らぬ筈が無かろうっ!」
「文? 私はその様な物は送っておりませんが?」
荀彧が首を傾げるので、曹操は懐に手を入れた。
そして、懐から一枚の紙を取り出した。
「しかしっ、この手紙はお前の字だぞ!」
曹操がそう言って三人に文を渡した。
三人はその文に目を通した。
「……荀彧殿の字に似ていますね」
「はい。ですが、私はこの様な手紙は送っておりません」
「だとすれば、この文は偽手紙では?」
呂範がそう言うと、曹操は睨んだ。
「すると、貴様はこれは偽物だと言うのかっ」
「は、はっ。荀彧殿が出した覚えが無い以上、そうなるのでは?」
曹操の怒気に呂範は怯えつつ答えた。
「まぁ、状況から考えてそうなのでは? 私の情報網でも呂布と袁紹が手を結んだという報告も、両名が攻め込んで来たという報告も来ておりませんので」
「な、なんだと…………」
衝撃の事実を告げられ、曹操は言葉を失っていた。
あまりの衝撃に呆然としている曹操に、荀彧達は何も言えなかった。
曹昂も声を掛けるのを躊躇っていたが、此処は元気づける為にある事を話した。
「……父上。張繍の首を獲る事はできませんでしたが、かなりの痛手を与える事が出来たのです。当分は何もしてこないでしょう」
「確かに、そうではあるが」
「それで良い事にしましょう。ほら、弟達に無事に戻って来た事を報告しに行かれた方が良いでしょう」
「むうう……」
曹操は不満そうな顔をしていたが、曹昂は話を続けた。
「去年生まれたばかりの沖に顔を見せたら喜びますよ」
去年の終わり頃に環夫人が産んだ弟の話をすると、曹操は気持ちを切り替える為か顎を撫でた。
「……それもそうだな。まぁ、今回は戦果が見込めなかったと思うしかないな」
「そう思うのが良いかと」
「そうだな。良し、では、子供達に会って来るか」
気持を切り替えた曹操は部屋を出て行った。
「……今度から偽手紙の対策を考えた方が良いですね」
「ですな」
「早速、話し合いましょうか」
その後、曹昂達は偽手紙に何をどうするか話し合った所に兵が駆け込んで来た。
「申し上げます! 南陽郡の北部に張繍が攻め込み、北部一帯を治めている豪族達は張繍に従属いたしました!」
「なんだとっ⁉」
兵の報告を聞いた曹操は怒鳴り声を上げた。
「張繍にはかなりの打撃を与えたのだぞ。それで、北部に攻め込んできたと言うのかっ」
「は、はいっ。南陽郡は完全に張繍の支配下となりました」
怒る曹操に詰め寄られ、兵は怯えながら報告をした。
「ぬぐううっ、おのれ張繍めぇぇぇ・・・・・・」
曹操は歯ぎしりをしていた。
「殿。御怒りは分かりますが、南陽郡の対処をしましょう」
「・・・・・・そうだな。南陽郡は汝南郡に面していたな。李通に任せておけ」
怒りを抑え冷静になろうと気を静める曹操。
そして、直ぐに李通に対処させる事に決めた。
「そうですな。あの者が適任ですな」
「直ぐに李通に文を送れ。決して、こちらから攻め込むな。張繍が攻め込んで来た時は、そちらで対処しろと」
「承知しました」
曹操の命令に荀彧は頭を下げた。
「では、偽手紙についての対処をしようか」
曹操はしてやられた事で怒っているのか、偽手紙へ対処する話し合いに数刻を掛けたのであった。
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