成果を見たが

 数日後。




 曹昂は陳留から少し離れた村に来ていた。


 村と言っても、蝗害により村人達は離散して廃村となっていた。


 誰も住んでいない廃村であるのだが、不思議な事に村の周りには空堀があった。


 今も人を使って掘られている最中であった。


 更に不思議な事に村を囲むように防壁が作られていた。


 こちらは木材を使っている為か、既に出来上がっていた。


 曹昂は陳留に赴任したのを活かして、近くに兵器の実験場を兼ねた砦を造りたいと思っていた。


 丁度、村民が離散した村が近くにあったので、其処を砦に造り替えていた。


「作業の進捗状態は?」


「はっ。堀の方はもう少しで出来上がります。人員の配置は既に完了しました」


「そうか。ご苦労様」


 曹昂は砦を預かる部将の報告を聞いていた。


 報告を聞き終えると、次に砦内で行われている事に目を通した。


 兵器の実験場という事で、火薬を用いた兵器を作っていた。


 今、曹昂が見ているのは大きな箱であった。


 その箱の中はハチの巣穴の様な構造となっていた。


 穴の中には木製の矢が入っていた。


 箱の後ろ側には紐が付けられていた。


 これは、曹昂なりに作った『火車』という兵器であった。


 紐に火を付ければ、箱の中に入っている矢が放たれるという物であった。


 今は実験中であるが、いずれは矢の先端に火薬を詰め込み威力を上げるつもりであった。 


「この兵器はどうだい?」


「はっ。火薬の量によっては暴発する危険もありますが、問題なく矢を放つ事が出来ます」


 曹昂が『火車』の点検をしている兵士に訊ねた。


 訊ねられた兵士は使用した際の状況を報告してくれた。


「飛距離は何処までかな」


百歩以上約百二十メートルは飛ばせられます」


 報告を聞いた曹昂は満足そうに頷き、その場を離れた。


 そして、別の所では槍を持った騎兵が駆けていた。


 騎兵が持っているその槍には、青銅の筒が取り付けられていた。


 筒には鏃が込められており、後ろには紐が通されていた。


 騎兵は槍を持っていない手で、鞍に取り付けられていた棒の部分に手を伸ばした。


 その棒の部分を下へと動かした。


 何度も動かした後、棒を上へと動かすと、筒の部分が出て来た。


 筒の真ん中は穴が空いており、そこから煙が上がっていた。


 兵士はそこに、槍に取り付けられている筒の紐を近付けた。


 やがて、紐に火が付くと、騎兵は的に向かって槍を構えた。


 紐に付いた火が進んで行き、やがて、筒の部分まで着いた。


 パンっという乾いた音が立つと同時に、鏃が発射された。


 狙い違わず、鏃は的の中心部分に当たった。


「使用状態はどうかな?」


 筒が付いた槍を持った騎兵に訊ねた。


 騎兵は馬の足を止めると、曹昂に一礼する。


「はっ。県令様。使い心地ですと、柄を短くすればもっと取り回しが良いと思います」


「そうか。鞍に取り付けた発火器は?」


「はっ。点火は簡単ですが、紐に火を付ける際、棒の部分を持たねばならないので、その際、手綱の操作が難しくなります」


 騎兵の報告を聞いた曹昂は難しい顔をしだした。


(鞍に圧気発火器を取り付けて、火種を作る様に出来たけど、紐に火を付ける際に手綱の操作が難しくなるのが欠点か)


 曹昂は火槍に使う火種をどうやって生みだそうか考えている時に圧気発火器を思い出したので、それを作る事にしたのだ。


 圧気発火器。別名ファイヤー・ピストンとも言われる。


 これは、空気を急激に圧縮することで火口を加熱して発火現象を起こすための道具だ。


 馬上でも使える様に鞍の鞍橋と言われる部分に取り付けた。


 お蔭で火種は確保できたが、火を付ける際は棒の部分を取り外さねばならない。それにより、手綱の操作が難しくなるという欠点が露わになった。


(取った棒を鞍に取り付ける様にするか。どうやって、取り付けようかな?)


 騎兵の報告を聞きながら、曹昂は改善点を考えていた。


 其処へ兵士が報告をしにやって来た。


「申し上げます。寿春より使者が参りました」


「寿春?」


 袁術の本拠地から来た使者と聞いて、曹昂は首を傾げた。


「使者は何か言っていた?」


「いえ、県令様に会いたいとしか言っておりません」


 それだけでは、使者が何をしに来たのか分からない。


 これは自分が行かねば、と思った曹昂は陳留へと戻る事にした。 

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