結果が待ち遠しいな
検地を行った事で、どの土地でどれぐらいの収穫が見込めるか調べるのは劉巴がしてくれる事となった。
曹昂はとりあえず、他の郡などに移住を求める高札を立てた。
勝手に移住されては父が困ると思い、高札を立てる前に曹昂は曹操に、郡で暮らす人が少ないので、他の郡からの移住希望の高札を立てる許可を求める内容の文を送った。
数日すると、曹操から許可すると書かれた内容の文が届いた。
その文を受け取った曹昂は、人を遣わせて他の郡に高札を立てた。
直ぐに効果は出ないが、それでもしないよりはましだという気持ちで行った。
その日、仕事を早めに終えた曹昂は屋敷で余暇を楽しんでいた。
曹昂が茶を飲みながらのんびりとしていると、使用人がやって来た。
「申し上げます。ただいま、職人の方が参りました」
「ああ、通してくれ」
使用人が一礼しその場を離れると、男性を連れてやって来た。
「県令様にご挨拶に参りました」
「ああ、ご苦労様。下がって良い」
男性を連れて来た使用人は一礼し、その部屋から出て行った。
使用人が出て行くのを確認すると、曹昂はその男性に話し掛けた。
「こうして来たという事は、例の物の試作が」
「はい。此処に」
職人はそう言って、懐から紙を出してくれた。
その紙を広げると書かれているのは、筒であった。
「こちらの筒は、ご命令通り槍に取り付けられる様にして置きました。材料も青銅を使っております」
曹昂は紙を見た。
指定した作りの様に、筒の後ろには紐を通す穴が開けられていた。
「何時頃に出来上がるのかな?」
「数日程掛かります。こちらの方は初めて作る物ですから」
職人の話を聞きながら、内心で問題ないなと思う。
「では、それで頼もうか」
「出来ましたら、連絡致します」
職人は一礼し部屋から出て行った。
曹昂は残された紙をもう一度目を通した。
「筒は良いとして、問題は火種か」
今、紙に描かれている筒は槍に取り付けられる予定であった。
折角火薬が出来たので、火槍というのを作ろうと思っていた曹昂。
筒の製造を頼んでいる者も『帝虎』などの兵器を作った職人の弟子なので、情報漏洩の心配は無かった。
同時に、一つの問題が曹昂にはあった。
それは点火用の火種であった。
「歩兵の方は良いとして、問題は騎兵か」
騎乗している状態で火種を持つなど、攻撃をする時に邪魔であった。
かと言って、火種が無いのに点火するなど出来る訳がない。
何か無いかと考える曹昂。
「圧気発火器でも作るか。でも馬上だと安定しないから、片手で火が付けられる物が良いな」
何か無いかと更に考える曹昂。
そう考え込んでいたが、何も思い付かなかった。
同じ頃。
揚州九江郡寿春。
城内の一室に居るのは、孫策と叔父の呉景、程普、黄蓋、韓当と、もう一人。
その者は三十代後半で引き締まった顔をしていた。
身長も他の者達に比べると低い方で目立たなかった。
口髭は生やさず顎髭だけ生やしていた。
この男の名は朱治。字を君理と言い、孫堅の配下で程普達と同じ歴戦の武将の一人であった。
孫策が曹操の下に身を寄せた時は、袁術に従う事に決めた孫賁と行動を共にしていた。
「伯符様。亡き孫堅様の御子息という事で、兵が集まっております」
集められた人材は少ないが、多くの兵を集める事が出来て孫策は満足そうな顔をしていた。
「ああ、人材も集められるだけ集まったし、此処はそろそろ任地へ向かうべきだな」
孫策がそう言うが、他の者達は顔を見合わせた。
「何か策があるので?」
朱治がそう訊ねると、孫策は頷いた。
「父上から貰った伝国璽を使う」
孫策の口から出た言葉に、皆驚愕した。
「しかし、伯符様。それは亡き大殿であられる孫堅様が手に入れた物ですぞ。それを、袁術に渡すなど」
程普は伝国璽を袁術に渡す事が気に入らない様であった。
「俺が持っていたところで、何の役にも立たないからな。これで任地に行く事が出来るのなら、通行料として渡すだけだ」
それに、これで曹昂との約束を守れるしなと思う孫策。
孫策がそう言うので、皆は反対できなかった。
善は急げと言わんばかりに、孫策は行動を開始した。
任地に向かいたいので通行料として、これをお渡しすると言って伝国璽を見せた。
すると、袁術は驚きつつも、孫策の手に持っている伝国璽を受け取った。
袁術は暫し伝国璽に見蕩れていたが、直ぐに気を取り戻した。
そして、通行料だけでは割りに合わないだろうと言って数か月分の食料を提供してくれた。
孫策は袁術の好意を有り難く受け取りつつ、その場を後にし、率いて来た兵を連れて任地へと向かった。
孫策は任地に着くなり、劉繇へ戦を仕掛ける為の準備を行った。
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