まずは、土地を豊かにしよう

 翌日。




 曹昂は先日、目を通した竹簡で重要度が高い仕事を片付けていく。


「子脩様。こちらはどう処理致しますか?」


 そう訊ねるのは、一緒に付いて来た劉巴であった。


 今は県丞の職に就いている。


 陳留県令となっている曹昂の助けとして、曹操が気を利かせて劉巴を陳留県丞に就かせたようであった。


 ちなみに、刑螂も県尉の職に就いていた。


「それはこっちで処理するから」


「分かりました」


 劉巴から渡された竹簡に目を通す曹昂。


 書かれている内容は、食糧問題であった。


 この陳留一帯は未だに蝗害の被害が色濃く残っている所が多かった。


 その上、張邈がこの地で反乱を起こしたという事で、復興が後回しにされてしまっていた。


 その為か、人口も反乱が起こった時に比べるとかなり減っていた。その為、作物を作る人が減り、食糧が足りなくっていた。


 なので、どうにかして人口を増やさなければならなかった。


 土地を開拓しようにも人がいなければ、何も出来ないのである。


(問題はどうやって人を呼び込むかだよな……)


 そこが曹昂の頭を悩ませる問題であった。


 人を呼び込むとしても、魅力的と思える所でなければならなかった。


 だが、今の陳留は蝗害の被害が未だに残っている所が多い。ましてや太守が反乱を起こした。


 そんな風評の所為か、どうも人の来る気配が無かった。


 曹昂は何か人が来るような物を作らないと駄目かと思い、頭を捻った。


(父上が推し進めている屯田制もまだ上手く機能していないというからな)


 韓浩の提言に従って屯田制を行っているが、農耕に必要な農具や種もみ、牛まで貸し与えて、荒地を貸与するという触れ込みの所為か、人があまり集まらないと聞いていた。


 あくまでも、貸与するのであって貰う訳では無い。


 最初の一年で収穫した物は全て自分の物にしても良いと言うが、荒れ地を開墾して最初の一年で得られる収穫量など、たかが知れている。


 二年後からは収穫量の半分を税として納めなければならない。その為か、農具や種もみ、牛まで貸して貰っても、荒れ地の酷さに逃げ出す者が多いと聞いていた。


 その為、曹操は怒って住民の一部を無理矢理屯田民にしているようだが、成果はイマイチと聞いていた。


 父と同じ事をしても人が集まると思えないので、どうするか曹昂は考えた。


(…………そうだ。屯田民も農民も同じ税制にすれば良いのか)


 そうすれば、逃亡する者も減る上に農民も集まってくれるだろうと思う曹昂。


「だとしたら、まずは検地だな。その後は税率をどのくらいにするかだな。此処は五公五民にするか? いや、四公六民にするか」


 ブツブツと呟く曹昂。


 そんな曹昂を劉巴は心配そうに見ていた。




 数日後。




 税率を四公六民に決めた曹昂は、始めに検地を行った。


 この検地の測量次第で税率が決まるので、厳正に行われた。


 まだ、農政が其処まで発達していない時代という事で、曹昂と劉巴は分かれて土地に赴き、検地を行っていた。


「子脩様。今日の分の検地は完了しました」


「そう。まぁ、二人で手分けすればこんなものか」


 途中で合流した劉巴の報告を聞いた曹昂は自分が記した検地の土地の測量の竹簡を見て、不備が無いかを再確認していた。


「城に戻ったら、この資料を基に税率を決めないとな」


「お任せ下さい。私が責任を持って行います」


 劉巴が頭を下げて言うのを聞いて曹昂は満足そうに頷いた。


 そして、城に戻ったのだが、何故か董白と貂蝉が出迎えて待っていた。


「二人共。どうかしたの?」


「いえ、御帰りをお待ちしておりました」


「仕事に行くとしか言ってないから、心配で待っていたんだよ」


 貂蝉と董白がそう言うのを聞いて、劉巴は微笑ましそうに笑っていた。


「仲が宜しい事で」


 そう言って、劉巴は一足先に城内に入って行った。


 護衛として付いて来た兵達もその後に続いた。


 揶揄われたなと思う曹昂。


 だが、貂蝉達は劉巴が城内に入るのを見送ると、ヒソヒソと話していた。


「何か此処まで一緒に行動していると、やっぱり、そっちの気があると思わないか?」


「ええ、私もそう思います」


 二人が何か言っている様であったが、曹昂は何の話をしているのか聞かない事にした。


 二人を無視すれば後が怖いので、取り敢えず、曹昂は二人を馬に乗せて城内に入って行った。


 前に董白。後ろに貂蝉を乗せると、二人は何も言わず黙っていた。


 城内に入り沿道に居る人達に見られると、少し恥ずかしそうにしていたが、それでも降りるとは言わなかった。


 内城に入り、馬から降りようとしたら、二人は不満そうな顔をしつつ降りた。


(何で、不満なのだろう?)


 曹昂は不思議に思いながら、仕事を行う為に部屋へと向かった。

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