領地を得たので、ちょっと好きにしてみるか

 二日後。




 曹昂は護衛の兵団と妻妾達を連れて陳留へと向かった。


 その前に、曹操へ赴任の挨拶と向かったが、馬に騎乗している時でも、曹昂は息苦しいと感じていた。


 左慈が呼吸をしづらくなる経穴を突いた為、どんな時も息苦しいと感じていた。


(しかし、呼吸をしづらくなるのは、何の意味が有るのだろうか?)


 そう思いはするが、あの左慈が何の意味も無い事はしないだろうと思い、曹昂は考えない事にした。


 屋敷に入ると、直ぐに曹操に居る部屋に案内された曹昂。


 赴任地へ向かう為の挨拶を述べる曹昂。


 挨拶を聞いている曹操は、何か腑に落ちない顔をしていた。


「父上。どうかしましたか?」


「いや、子脩よ。顔色が悪いが、どうかしたのか?」


 曹操にそう指摘されて、曹昂の心臓が跳ね上がった。


 別段、隠しているつもりはなかったが、曹昂としては顔には出さない様にしていたつもりであった。


 それを見破った曹操の洞察力には、曹昂は舌を巻いた。


「いえ、何でもありません」


 左慈に呼吸をしづらくなる経穴を突かれたと言いでもしたら、激怒して処刑を命じる曹操の姿が目に浮かんだので、隠す事にした。


「そうか? まぁ、お前がそう言うのであれば、別段構わんが」


 曹昂が何でもないと言うので、曹操もそれ以上何も言えなかった。


「では、父上。ぼ、いえ、私はこれで」


 字を貰った事で、一人称を僕から私に変えた曹昂。


 一礼し部屋から出て行った。


 部屋を出て、廊下を少し歩き部屋から離れると、曹昂は安堵の息を漏らした。


(バレなくて良かった……)


 指摘された時は驚いたが、その後何も言わないので誤魔化せたのだと思う曹昂。


 その後、母である丁薔と弟妹達に挨拶をして、屋敷を後にした。




 数日後。




 曹昂は赴任地である陳留に辿り着いた。


 事前に下見に来ていたので、何処をどう使うのか既に決めていた。


 曹昂達も内城の中で部屋に荷物を運び出して、思い思いに家具を置いて行った。


 それが終わると曹昂は皆を好きにさせ、自分は執務室で仕事をする事にした。


 赴任したばかりなので、竹簡を読むだけで済ませるつもりであったが、途轍もない量であった。


 一つを読むだけで日が暮れそうであった。


 そう思いながら、竹簡を広げて、中身を読みだす曹昂。


 


 数刻後。




「…………終わった」


 最後の竹簡を読み終えて窓から外を見ると、夜になろうかという時間であった。


 竹簡を読むだけで、身体よりも精神的に疲れたと思う曹昂。


 明日からする仕事の重要性毎に分けていく。それが終わると考えた。


(……領地を貰ったから、治水もしないとな。後は農地開発か。後は……そうだ。新兵器の開発でもするか)


 そう思いながら、部屋を後にした。


 


 同じ頃。




 孫策は用意した軍勢と共に揚州に入っていた。


 そして、寿春に居る袁術へ挨拶に向かった。


 表向きは太守に選ばれたので、赴任地に向かう前の挨拶と言う名目で。


「いや、お主が太守になるとはな。時の流れは速いものだ」 


 袁術は昔の事に思いを馳せながら、呟き頷いていた。


「……そうですね。明日にでも赴任地へ向かいたいと思います」


 孫策がそう言うと、袁術は難しい顔をしだした。


「いや、丹楊郡に向かうのは、暫く待った方が良いぞ」


「何故、でしょうか?」


 孫策が首を傾げると、袁術がその理由を教えだした。


「お主の赴任地は丹楊郡であろう。今、丹楊郡は劉繇が支配してしているのだ。劉繇は数万の兵を擁している。お主の数千の兵だけでは、敵わぬだろう」


 その理由を聞いた孫策は曹昂の予想通り、赴任地へ向かわせないつもりだと察した。


「そうですか」


「私もお主の父君には恩があるので兵を貸しても良いのだが、今は徐州の件で手一杯でな」


 袁術は困った様に言うと、孫策は溜め息を吐いた。


「……そうですか。では、暫く御厄介になっても良いですか?」


「うむ。構わんぞ」


 孫策は一礼し、その場を離れて行った。


 


 城の中にある一室。


 其処には孫策と従兄の孫賁と叔父の呉景が居た。


「まずは、曹操から無事独立する事が出来た事を喜ぼう。伯符よ。あの世で兄上も喜んでいるだろう」


「叔父上の言う通りだ」


 呉景と孫賁は孫策の独立が出来た事を喜んでいた。


「ありがとう。それで、叔父上。丹楊郡はどういう状況なんだ?」


「袁術から聞いているかも知れないが、劉繇が支配してかなりの勢力を築いている。生半可な戦力で行けば、返り討ちに遭うだろう」


「そうか。じゃあ、兵を募った方が良いのか?」


「袁術が許さないだろうな。だが、人材は得る事が出来るだろう」


「人材? 誰か居るのか?」


「そうだな。江東の二張の張紘と張昭はどうだ」


 呉景がこれはと言う人物を上げるので、孫策はその者達を帷幕に招く事に決めた。


 そうして、孫策は着実に自分の勢力を拡大していこうとしたのだが。


「なにっ⁉ 居ないだと⁉」


「はい。朝廷から官吏に推挙されたので、許昌へと行く事にしたと聞いています」


 孫策が帷幕に招くので、自分が行かねば失礼だろうと思い足を運ぶ事にした。


 まずは張昭が住んでいる家を訪ねたのだが、既に別の人物がその家で暮らしていた。


 張昭は家を譲る際に、その人物に家を譲る経緯を聞き、孫策に話した。


「許昌か。しかし、どうして許昌に? …………あっ、そう言えば」


 孫策は曹昂と宴を交わした時に、各地の名士を推挙したという話をチラッと聞いた事を思い出した。


「ぬうっ、時期が悪かったというところか。仕方がない」


 出会えなかったのは仕方がないと思い孫策は張紘の下を訪ねたが、こちらも朝廷に仕えるので、出て行った後であった。


 その後も孫策は人材収集に励んだが、応じたのは蔣欽、周泰、凌操、周瑜、魯粛の五人だけであった。

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