方士が本当に何なのか分からなくなった
曹操の呼び出しを受けてから数日が経った。
既に董白に頼み、張済宛てに手紙を出している。
正直な話、返事が来るかどうかは分からないが、連絡のやり取りは出来る様になるだろうと思う曹昂。
そして、今日は何をしようかと部屋で考えていると、使用人がやって来て「朝廷から使者が来ました」と告げた。
何事だと思いながら、曹昂は使者が居る所へ向かった。
使者は屋敷の門の近くで立っていた。
「お待たせいたしました。本日は何用で?」
曹昂が一礼し訊ねると、使者は持っている巻物を広げだした。
「勅命をお伝えに参りました」
使者がそう告げると、曹昂はその場で跪いた。
「拝聴いたします」
「勅命。曹司空の子である曹昂子脩よ。汝を陳留侯に任ずる」
使者が詔書を読み上げるのを聞いた曹昂はその場で跪き頭を下げた。
「はっ、臣曹昂。陛下の温情に感謝いたします」
そう言って曹昂は顔を上げたが、まだ続きがあるのか使者は巻物を広げた。
「また、貴殿は廉正にして、父母へ孝順であるとの事。よって孝廉に推挙された。此処に陳留県県令に任ずる」
「はっ。ありがたき幸せ」
曹昂は深く頭を下げた。
この孝廉と言うのは在野の者や地位が低い役人等が、郡の太守または国の諸侯相によって推薦される官吏の登用制度の一つである。
孝廉は略語で、本来は孝悌廉潔と言う。孝廉の他にも茂才、賢良などの登用制度もある。
その中で孝廉だけは、年齢制限が設けられている。
対象者を四十歳以上とする規定があるのだが、極稀に才能と品行に非常に優れた人物は年齢に拘らないで推挙される事もあった。
ちなみに、曹操もこの孝廉に推挙されている。
二十歳の曹昂がその孝廉に推挙されたのは、それだけ才能と品行が非常に優れた人物と認められた証拠であった。
尤も、本来であればまずは郎官となり、朝廷の実務を実地体験しながら学習し一定期間経過された後、品第の結果により県令、長、相、或いは中央官職に選抜されるのだが、曹昂がその行程を得ないで県令になったのは、劉吉の夫である事と曹操の息子である事が考慮されたからだろう。
曹昂は詔書を使者から受け取ると、使者は一礼し屋敷から出て行った。
詔書を受け取った曹昂は詔書を広げ、中身を改めて読み、本物である事を確認し、声を上げて喜んだ。
その後、曹操の屋敷に向かい、丁薔に孝廉に推挙された事を報告した。
丁薔は嬉しそうにその報告を聞き終わると、曹昂の目を見た。
「子脩。貴方が県令に成れたのも、ひとえに父上の力があればこそ。貴方はいずれ、その後を継ぐのですよ。それを心の内に留めておきなさい」
「はい。母上」
曹昂の返事を聞いた丁薔は頷いた後、曹憲達を連れて来た侍女と曹丕がやって来た。
折角来たので、曹昂は妹達をあやしていると、曹丕が相手をして欲しそうな目をしていたので、手招きをした。
曹丕が近付いて来たので、曹憲を抱かせたり今はどんな勉強をしているのか聞いていた。
話を聞いていると、武術よりも文学の方が好きなのだと曹昂は思った。
数日後。
曹昂は赴任地へ向かう準備をしていた。
と言っても、屋敷の使用人達に任せているので、曹昂自身が特にする事は無かった。
最近の日課となっている導引術を行っていた。
日課としていたお蔭か、曹昂も最近では疲れづらくなっていた。
(最初の頃に比べると、疲れづらくなったな。これも先生の教えの賜物か)
そう思いながら運動を続けた。
「うむ。かなりこなせる様になりましたな」
声が聞こえて来たので、曹昂はキリが良いところで身体を動かすのを止め、声が聞こえた方に顔を向けると其処に居たのは左慈であった。
「これも先生の教えの賜物です」
「いやいや、これもお主に素質があっただけの事。動きを見るに、そろそろ慣れて来たと見える。では、少し段階を上げようか」
そう言った左慈は人差し指で曹昂の胸を突いた。
何の意味があるのだと曹昂は思った瞬間。
「ぐっ…………」
曹昂は突然、息苦しくなった。
今迄、普通にしていた呼吸が上手く機能しなくなった様であった。
「こ、これは、いったい」
「呼吸をしづらくなる経穴を突いた。これで、暫くの間、呼吸がしづらくなるであろう」
左慈がそう告げるのを聞いて、
「……こ、呼吸をしづらくする事が、鍛練なのですか?」
「うむ。如何なる状態であろうと呼吸を乱さない様になれば、お主は強くなるだろう」
左慈がそう言うのを聞いた曹昂は息を乱しながらも頷いた。
(しかし、経穴を突いたとか、何処かの暗殺拳みたいだな。その内、世紀末の覇王か何かになれるのか? ……流石に無理か)
そう思いながら、曹昂は呼吸を整えようと頑張った。
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