ああ、そろそろか
左慈の教えを受けて、色々な事を教えて貰っていたある日。
曹昂は曹操から呼び出しを受け、屋敷まで来るようにと言われた。
何事かと思いながら曹昂は屋敷へと向かった。
屋敷に着くと、使用人が直ぐに曹操が居る部屋に案内してくれた。
その部屋の前まで来ると、使用人が手で部屋に入る様に促した。
曹昂が部屋に入ると、曹操は椅子に座っていた。
酒は飲んでいないが、喉を乾かさない為にか、茶が置かれていた。
「来たか。子脩」
「お呼びとの事で参りました。父上」
曹昂が挨拶すると、曹操は顎を摩った。
「父上、本日はどの様な用事でお呼びで?」
曹昂がそう訊ねると、曹操はジロリと睨んだ。
「お前、最近、胡散臭い者を食客に迎えたそうだな」
「ああ、その事ですか」
左慈を食客に迎えた事を言っているのだと察する曹昂。
「色々と面白い事を教わっていますよ」
左慈は星占いにも通じており、錬丹術の材料などを教えてくれた。
流石に丹薬の作り方を教える事はしなかったが、色々な物を見せてくれたので、今後とも役に立ちそうな気がすると思えた。
「……まぁ良い。ただし、誰に教えを受けるかは自由だが、あまりのめり込めない様にするのだぞ」
「分かりました」
曹昂の返事を聞いた後、曹操は頷いた。
「今日呼び出したのは他でもない。孫策の後任は誰か決まっているのか?」
「ああ、それが……」
色々と後任を探しているのだが、これはと言った者が居なかった。
なので、暫くの間、曹昂が代理で太守をしていた。
「まだ、見つかっていないか。丁度良い。史渙から推薦と共に本人が数千の軍勢と共にわたしの傘下に加わったのでな、その者を汝南郡太守に任命したいのだ」
「どなたですか?」
「李通と言ってな。字を文達と言う、汝南郡では中々に名が知られた侠客だそうだ」
その名前を聞いて、曹昂は直ぐに思い出した。
(確か、侠客だったけど父上に忠義を尽くした人だったな)
曹操から重要な土地を任せられる程に信任が厚く、三国志の著者で元蜀の官吏である陳寿が称える程の人物であった。
「その者を汝南郡の太守に任命するつもりで?」
「話が早くて助かる。それで問題は無いな?」
「僕は別に無いと思います」
曹昂の返事を聞いて、曹操は満足そうに頷いた。
「それと重要な案件が二つある」
「と言うと?」
「関中方面の密偵から報告があったのだが、お前は李傕と郭汜の事は覚えているか?」
「確か、両名とも討ち取られたと聞いていますが?」
「うむ。問題はその残党が張済と言う者を新しく大将にして、荊州北部で暴れているそうだ」
「張済ですか。ああ、あの」
董卓配下の家臣で、李傕と郭汜の次に信頼されていた者であった。
曹昂も会った事はあるのだが、全く顔が思い出せなかった。
何の特徴も無い顔の所為か、記憶に残らなかったからだ。
「いい加減、董卓の残党の相手をするのも面倒だ。董白が張済に手紙を送るのだ。文には我が麾下に入るのであれば、悪い様にはしないと書いてな」
「分かりました」
「それと、お前が推薦した者達だが、使者を送った所、何人かは朝廷に仕えるようだぞ」
「そうですか。誰が仕えるか分かりますか?」
「今の所分かっているのは張昭。張紘。厳畯。陳武。顧雍。呉範。諸葛瑾。歩騭といった所だな。もう少しすれば、残りの者達も分かるだろう。ただし、太史慈という者だけは断ったそうだ」
「そうですか。断る理由について、何か言っていましたか?」
「送った使者が言うには「まだ、劉繇に恩を返していない」と言って断ったそうだ」
「義理堅いですね」
「全くだ。まぁ、もう少しすれば許昌に来るだろう。何人かはお前の部下にするのか?」
「父上の部下にしても構いませんよ」
「そうか。では、頼んだ事は頼むぞ」
「承知しました」
董卓軍の残党を取り込むのだと分かった曹昂は一礼するとその場を後にした。
部屋を出た曹昂は廊下を歩きながら思った。
(そろそろ、あの戦いが起こるのか)
曹昂が思う戦いとは、宛城で起こる戦いの事であった。
史実では、その戦いで自分と典韋と従兄弟の曹安民が死ぬ事になっている。
(流石に死にたくないからな。戦う事になっても死なない様に策を練るか)
勿論、戦わない様にする為の手段も講じようと思う曹昂。
(とりあえず、今は董白に手紙を書いてもらう事か)
曹昂は何処にも寄らず屋敷への帰路に付いた。
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