顔見せ
曹操から万年公主が還俗し、曹昂の嫁になるという話を聞いてから数日後。
洛陽にある仮宮。
その宮殿内では今、万年公主が還俗した事で皇籍に戻る儀式が行われていた。
この儀式により、万年公主は正式に皇族へと戻る事となった。
久しぶりに出来る儀式という事で、百官達は大いに励んだ。
部屋を飾る装飾品から、自分達が着る服まで拘った。
朝廷にそんな金などは無い。なので、曹操が全て立て替えていた。
その代わりとばかりに曹操と曹昂は儀式に参加する事が出来た。
着飾った万年公主に祝詞を述べる儀礼官。
百官達は儀礼をする事が出来て嬉しそうであったが、それが万年公主が曹操の息子に降嫁する為の儀式だと思うと悲しいという複雑な気分で眺めていた。
妻にするという事で曹昂もその儀式に参加していたが、内心ではこの儀式をする意味が分からなかった。
其処で曹操に訊ねた。
「父上。この儀式は何の意味があるのですか?」
「分からんのか?」
曹昂の問い掛けに曹操は訊ね返してきた。
そう言われても全く意味が分からない曹昂。
その表情から、この儀式の意味が分からないのだと察した曹操は教えてくれた。
「……はぁ、良いか。息子よ。一度出家した公主が還俗し皇籍に戻ったという事は、公主の地位に戻ったという事なのだぞ」
溜め息交じりに教える曹操。
その説明を聞いても曹昂からしたら儀式をする意味が分からなかった。
「知らないのか? 公主冊封された皇帝の娘は列侯に準じる待遇を与えられるのだぞ」
「えっ⁉」
そんな事を知らなかった曹昂は驚きの声を上げた。
その声の大きさに、儀式が止まった。
皆、何かあったのかと思い曹昂を一斉に見た。
周りの視線を浴びた曹昂は何でもない様に頭を下げた。
何も無いと分かると、儀式は再開された。
「馬鹿者。大声を出すでない」
「すいません。でも、公主ってそんな待遇を受けるのですか?」
てっきり、皇帝の娘という事を示す称号なだけだと思っていた曹昂。
なので、驚くのは無理もない事であった。
列侯とは二十等ある爵位の中で最上位の爵位だ。
これより上は皇帝の一族にだけ封じられる王位を持った諸侯だけだ。
つまり、列侯とは人臣で就く事が出来る最高位の爵位という事だ。
「当然であろう。皇帝の娘だぞ。列侯と同じ身分であるべきだろう」
曹操が当たり前の様に言うが、曹昂からしたら初耳であった。
「降嫁しても地位は変わらん。だから、還俗して皇籍に戻る儀式を行っているのだ。列侯に準じる待遇を与えられるのだからな」
「成程。そうなりますよね」
儀式をする意味がようやく分かった曹昂。
「ちなみに、公主降嫁の際に臣下は侯に封じられる。つまり」
「僕は最上位の爵位を得るって事ですか?」
「そうなるな。私としても、お前から豫洲を奪う代わりに土地を与えられるので文句は無いからな」
「土地を与えられる?」
「そうだ。公主冊封された特権の一つでな。冊封された公主は化粧領という事で土地を拝領できるのだ。その土地の税収を全て自分の物に出来るのだ」
「はぁ、そうなのですか」
公主冊封されると列侯に準じる待遇を与えられる上に土地も拝領出来ると知ると皇族というのは凄いなと思う曹昂。
曹操と曹昂が話していると、儀式は終わりへと向かって行った。
儀式が終わると、曹昂は女官に案内されながらある部屋へ向かっていた。
女官の後に付いて行き、ある部屋の前まで来た。
「此処でお待ちを」
女官がそう告げて、曹昂は一礼し部屋の中に入って行った。
部屋の中から声が聞こえてきた。
少しすると、女官が戻って来て曹昂に一礼する。
「お入り下さい」
女官が入っても良いと言うので、曹昂は部屋の中に入って行った。
部屋に入ると、儀式衣装のままの万年公主が椅子に座っていた。部屋の隅にはお世話をする為に数人侍女が居た。
以前の様な長髪ではなく短く切られた髪。出家はしたが剃髪はしなかった様だ。
身長は
二重瞼に気品が有る顔立ちで、以前よりも明るい顔をしていた。
そこそこ大きな胸にくびれがある腰。肉付きが良いとは言えない尻を持っていた。
改めて見ても綺麗だなと思う曹昂。
(寺での生活で少しは心を癒す事が出来たのかな?)
万年公主の顔を見てそう推測する曹昂。
そして、曹昂は万年公主に一礼する。
「この度、陛下からの勅命により、貴方様の夫となる事となりました。曹操の息子の曹昂と申します。今後ともよろしくお願いします」
曹昂が声を掛けると万年公主は曹昂を見る。
「……私の様な傷が付いた年増を娶るのは嫌でしょうが。どうか、お気になさらずに」
万年公主の発言に曹昂達は言葉を失った。
董卓に凌辱され出家した自分を皮肉るのを聞いて曹昂は首を振る。
「そんな事はありません。公主様はお美しいですよ」
この時代は早婚なので、今年で二十五歳の万年公主は年増と言っても良かった。
ただ、それはあくまでもこの時代の感性ではそうであって、曹昂は違った。
「公主様とこうして会えるのは望外の喜び。公主様から見れば、私は子供に見えるでしょうが、精一杯、公主様に尽くしたいと思います」
お世辞というよりも、折角夫婦になるのだから仲良くすべきだと思い曹昂は万年公主に近付きそっと手を取った。
「少し庭を歩きましょう」
そう言って曹昂は万年公主を連れて、部屋を出て行き庭を歩いた。
最初は緊張していた万年公主は、少しずつ解けて行き笑みを浮かべる様になった。
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