内部崩壊

 曹操達が戦に向けての準備をしている頃。




 曹操に反逆した呂布、張邈、張超と言った面々が陳留にて会議を行っていた。


「ぬぅ、秋になる頃には蝗害の被害に遭った県の立て直しが出来るか」


 張邈は部下の報告を聞いて、安堵した表情を浮かべた。


 呂布が白馬の戦いで敗れて、陳留に戻って来た時、本来であれば曹操はその勢いのまま陳留へ侵攻するつもりであった。


 其処に蝗害が起こった事により、戦どころではなくなり、曹操は矛を収めて蝗害の収拾に取り掛かった。


 お蔭で首の皮一枚繋がった張邈達。


 だが、蝗害は曹操だけではなく、張邈の陣営にも同様の被害を与えた。


 東郡一帯を荒らし回り駆けていた蝗達は陳留郡の北部にも、その害を齎した。


 外黄県から全ての北の県は蝗で作物が食われてしまい、生き残った者達は方々へ散った。


 張邈達はその被害の立て直しに掛かった。


 だが、曹操よりも被害が少ないとは言え、曹操から離反した事で、曹操から援助を求める事が出来ないので、張邈は郡内にある県から備蓄された食料を手に入れて、被害に遭った県に送っていた。


 しかし、その送られた食料も県内に住んでいる者達の腹を満たすほど送られはしなかった。


 その備蓄された食料の半分は、兵糧として賄われる事となった。


 曹操との戦に備える為なので仕方が無いと言えたが、そんな事は被害に遭った住んでいる者達からしたら、関係無い事であった。


 張邈の統治に不満を持った者達は陳留を出て、まだ豊かな済陰郡か別の州へと移って行った。


 その所為で、余計に税収と兵の集まりが悪くなると言う悪循環に陥っていた。


 そんな悪循環の中で、ようやく蝗害の立て直しの目処が立ってきたという報告を聞き、張邈は安堵の息を漏らした。


「さて、乗氏県に居る密偵からの報告では、この秋には曹操がこの陳留へ攻め込むそうだ。皆の者、何か策はあるか?」


 張邈は居並ぶ者達に訊ねた。


 居並ぶ者達から張邈の弟の張超が前に出た。


「兄者。此処は持久戦が一番だ。蝗害により、敵は兵糧をそれほど用意する事が出来ないだろう。此処は籠城し、敵の攻勢が緩むか撤退した所を追撃して撃破するべきだ」


 張超の意見を聞いて、張邈の家臣達は名案とばかりに頷いた。


 張邈もそれが良いかと思っていたが、


「待て。敵は籠城など無意味にする新兵器を持っている。此処は野戦にて撃退し、その勢いのまま曹操の領土を切り取るのが良いと思うが」


 張超の意見を聞いてか、呂布が野戦で戦うべきだと言う。


「呂布殿。敵は蝗害によりそれほど兵糧を手に入れる事が出来ないのだぞ。如何に敵に新兵器があるからと言って、野戦で戦うべきではない。むしろ、野戦で戦えば敵の術中に嵌まるかもしれん。此処は籠城すべきだ」


「確かに、敵は遠征する事で兵糧を気にするでしょう。しかし、籠城すれば、敵の新兵器の攻撃により、瞬く間に落城する。ならば、此処はその新兵器の被害を少なくする野戦で戦うべきだ」


 張超は籠城を、呂布は野戦の意見を述べた。


 両者、譲る気が無いのか睨み合っていた。


 二人の意見を聞いて、張邈は悩んでいた。


 一見張超の意見が正しい様に思える。だが、呂布の意見も間違いではなかった。


 白馬の戦いに敗れた呂布が、敵は空を飛び爆発する鳥を用意して攻撃してきた。それで防ぐ事が出来ず敗退したと報告してきた。


 その報告を聞いて、最初は負けた言い訳にしても見苦しいと言うよりか、意味不明であった。


 張邈の常識では鳥は飛んでも爆発しない生き物だからだ。


 なので、あまりに荒唐無稽と言えた。


 張邈が考えている間、張超と呂布は口論に熱が帯びていた。


「敵が動員できる兵力は我等よりも多いのだぞっ。そんな軍と野戦が出来るか!」


「籠城したところで、敵の新兵器により直ぐに落城されるのだぞ。ならば、野戦しか無かろう⁉」


 呂布があくまでも野戦と言うのを聞いて、張超は鼻で笑った。


「ふっ、お主は籠城して、その新兵器で落城したそうだな。では、恐れるのも無理ないな。そんな事で戦が出来るのか?」


 張超が臆病者の様に言うのを聞いて、呂布は眉間に皺を寄せた。


「口だけしか役に立たない者が何を言うか。貴様も、貴様の兄も名声があるとは言え、所詮は口だけよ。何の役にも立っていないではないかっ!」


 呂布が役立たずだと言った事に、張超はかあっとした。


「この三つの家の奴隷がっ。誰に対して、物を言っているっ。貴様なんぞ、兄者が歓迎してくれねば、何処にも受け入れてもらえない野良犬生活を送っていた身だと言うのにっ」


「ふん。図星か? まぁ、戦にも出ていない上に、口先だけで何もしないからな。私が野良犬なら、お前は鼠だっ。鳴き声だけ五月蠅くて、大した事も出来ないお前には御似合いだな!」


「貴様っ、もう許さんっ」


「おお、やるかっ」


 呂布と張超達は取っ組み合いになった。


 それを見て、二人の家臣達は二人を止めようとしたが、どちらかの家臣が止める際に、誤って相手を殴ってしまい、謁見の間は忽ち乱闘場となった。


 張邈と呂布は、それぞれの勢力が打倒曹操の為に同盟を結んだような関係なので、一枚岩ではなかった。


 その為か、結果も出ない上に自分達が疲弊してる事に苛立っていた。乱闘が行われた一因もそれであると言えた。


「止めぬかっ。内輪揉めをして、何になろうかっ⁉」


 張邈が仲裁するが、呂布と張超達は聞こえないのか乱闘の治まる気配は無かった。


 張邈が兵を動員する事で、ようやく鎮める事が出来た。


 結果、張邈は籠城するという事に決めた。


 そして、一つの城に戦力の集中は孤立を招くという理由で、陳留に呂布が、雍丘に張邈と張超が、それぞれの兵を率いて入る事となった。


 一緒に戦う事が出来ない程に、関係が悪化した事は伏せられた。

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