白馬の戦い
数日後。
曹操率いる五万の軍が白馬県に到着した。
城壁には、多くの兵が武器を持って立っていた。
「……ふむ。思ったよりも呂布の元に兵が居るようだな」
城壁に立っている兵達を見た曹操は、意外だと思いながら呟いた。
呂布は武勇は優れている反面、義理の父を二人も殺すという薄情なところがあるので、戦いに敗れた呂布に従う兵はそう多くないと思っていた。
なので、城壁に多くの兵が立っている事が驚くとまではいかないが予想外であった。
「まだ一戦に敗れただけですので、兵達も見限る程ではないという事でしょうな」
参謀としてついてきた郭嘉が兵の数が多い事に自分なりの分析を曹操に述べた。
それを聞いた曹操は郭嘉の言う通りだなと思い頷いた。
「程立はどう思う?」
曹操はもう一人連れて来た参謀の程立にも訊ねた。
「私も同じ考えです」
「そうか。戦力差が無い城攻めは落とすのが難しいであろうな」
「そうですね」
曹操は困ったと言いたげな顔で言うと、郭嘉も同意する様に頷いた。
「であるならば、数日程攻撃をした後に陣を下げ、敵を城から誘き出し包囲殲滅するというのはどうでしょうか?」
程立が策を提案すると曹操と郭嘉は名案とばかりに頷いた。
「良し。それで行こう。今日か明日辺りには夏侯淵の軍と合流するだろう。それを加えれば我が軍は六万になる。これだけあれば包囲するのに問題ない」
「はい。では、まずは攻城の準備に取り掛かります」
「うむ。頼んだぞ」
程立が城攻めを部将達に通達する為、その場を離れた。
通達が全軍に行き渡ると、曹操軍の兵達は白馬県城へと攻撃を開始した。
曹操軍が白馬県城へと攻撃を開始した、同じ頃。
夏侯淵軍は白馬県から数里ほど離れた所にいた。
夏侯淵は軍を進ませながら、斥候に出した兵が戻って来るのを待った。
そして、斥候に出した兵が戻ってくると夏侯淵は軍の足を止めて報告を聞いた。
「そうか。戦いは始まっているか」
「はっ。我等が見たところでは、攻撃を始めてまだ間もないと思います」
「そうか。白馬県はこのまま北上したら着くのか?」
「はっ。数里ほど進めば」
「そうか。良し」
兵の報告を聞いた夏侯淵は傍にいる側近に声を掛けた。
「そのまま戦いになるかも知れん。皆、準備をせよっ・甘寧にも準備をせよと伝えよ」
「はっ」
夏侯淵は足を止めている全軍に戦える準備をする様に通達した。
夏侯淵の命令が甘寧の元に伝わると、甘寧は笑みを浮かべた。
「ようやく、この兵器もお披露目か」
甘寧は自分の側にある物を見ながら呟く。
それは大きな台車であった。
その台車の上には何か乗っているが、白い布で包まれているので何が乗っているのかは見えなかった。
「頭。こちらは出撃準備が出来ております」
錦帆賊の時代の頃から甘寧に付き従っている部下が甘寧に一礼しつつ準備が完了したと報告した。
「良し。戦場につき次第放つからな。間違えて火を着けるという間抜けな事はするなよ」
「承知!」
甘寧の言葉に部下は一礼し離れて行った。
一人だけになると、空を見上げた。
何処までも果てしなく青い空。それは故郷である益州からでも同じように見えたであろう。
それが今は兗州の地で見上げる事になるとは、夢にも思いもしなかった。
(役人を辞めて、故郷で気が合う奴等と徒党を組んで十数年暴れ回っていた所に、曹昂殿に出会って気に入って、そのままズルズルと付いて行って、曹操の息子だと知り面白そうだと思って仕えて、こうして戦場に出て武勲を立てる事が出来るとはな)
甘寧はあの時、曹昂に出会えた幸福に感謝していた。
もし、出会えなかったらあのままならず者として一生を終えたかも知れなかったのだから、余計にそう思うのであった。
「野郎共‼ このまま白馬県に行くぞ。敵も味方も度肝を抜いてやれ!」
「「「おおおおおぉぉぉぉぉ‼‼‼」」」
甘寧の号令に部下達は声を上げて応えた。
白馬県を攻撃している曹操軍。
兵の損耗を避ける為、矢を射かけるだけであった。
城を守っている呂布軍も応戦して矢を放つだけであった。
それでも、それなりの数の兵が負傷又は当たりどころが悪く死亡してその場を離れていく。
城壁に居る呂布軍も同じであった。
陳宮はこれは城外へ誘き出す為の挑発だと分かっているからか、城から打って出ようとする呂布達を宥める。
そうして、時間だけが過ぎて行った。
朝から攻撃を始めた曹操軍。そろそろ昼が近付いて来たので、観戦している曹操は兵達に食事を取らせねばならないといけないなと思い、鉦を鳴らして撤退させようと思っているところに、兵が転がり込んで来た。
「申し上げます。南より夏侯と甘と書かれた旗を掲げた軍勢が参りまいた」
「来たか」
報告した兵の話を聞いても、援軍が来たと分かった曹操。
それは傍にいる郭嘉、程立も喜んでいた。
「これで城攻めが少しは楽になるでしょうな」
「確かに」
程立達は喜ぶと、曹操はそれを聞いて納得した。
「さて、息子が作った兵器はどれ程の者であろうな。何台程あるのだ?」
恐らく『帝虎』か『竜皇』の様な物だと思った曹操はどれ程の数が居るのか訊ねた。
「え、ええっと…………少し遠いので分かりませんが、数十台はあると思います」
「そうか。では、夏侯淵達が来るまで攻撃を続ける様に兵に命じよ」
曹操はこのまま攻撃を続ける様に命じた。
暫くすると、夏侯淵軍が戦場に到着した。
甘寧が手を振り上げると、軍勢の中から弩を積んだ台が動き出した。
その数は数十台あった。
だが、不思議な事に、その弩には弓弦が付けられていなかった。
やがて、その変な弩の台が門から少し離れた所で止まった。
すると、その弩の上に何か置かれた。
それは、頭は鶏、頷は燕、頸は蛇、背は亀、尾は魚で、色は赤の一色で、高さは六尺程度の鳥であった。
よく見ると、それはハリボテであった。
その赤い鳥のハリボテの下部には、筒状で紐が取り付けられていた。
城壁に居る呂布軍達は矢を射かける手を止めて、その兵器を見ていた。
「何だ? あれは?」
「というよりも、かなり離れているが、届くのか?」
城壁に居る兵達は首を傾げていた。
中には、よく分からない物だが、距離があり過ぎて届かないだろうと馬鹿にしている者もいた。
甘寧の部下が、弩の部分を角度を少しだけ変えた。
城に向かって、斜め上に変えられると、弩の台に置かれている赤い鳥のハリボテの下部にある筒状で紐に松明の火を着けた。
紐を伝い火が進んでいくと、筒の中に到達した。
と筒から赤い火と閃光が放たれ、赤い鳥のハリボテも飛び上がった。
弩の台から放たれた、赤い鳥のハリボテは大空へと向かって行き、やがて、弧を描きながら、城壁へと落ちて行った。
城壁へと落ちて行く赤い鳥のハリボテは城壁に落ちるか落ちないかという所で、爆発した。
ドーンという激しい音と爆炎が起こり、城壁に居る呂布軍の兵達を襲う。
城壁に居る呂布軍に上空で爆発するのもあれば、城壁や城内に落ちて爆発する物まであった。
爆発により、城内に居る呂布軍に甚大な被害を与えた。
爆発の衝撃で身体に火が付く者も居れば、火だるまになる者も居た。
中には爆発の衝撃で身体の何処かを吹き飛ばされて、苦痛の叫びを挙げる者も居た。
爆発は兵達だけではなく、厩舎に居る馬達にも被害を与えた。
厩舎に落ちて焼き焦がされるか、爆発の衝撃で身体を吹き飛ばされるだけではなく、爆発の音で錯乱しだしたのだ。
馬の聴覚は人よりも優れている上に臆病な性格の生き物なので、突然大きな音を聞いたら驚いて暴れる事も良くある。
まして初めて聞く大きな音がすると、爆発して自分の仲間を焼き焦がすか、爆散させるのを見れば錯乱するなと言うのが無理な事だ。
厩舎に居れば死ぬと思い込んだ馬達は暴れて厩舎を脱出しだした。
しかし、籠城しているので、何処に逃げても城から出る事が出来ない。その上、船から爆撃は続いているので混乱を助長していた。
混乱する馬達は呂布軍の兵達を跳ね飛ばしたり踏み潰しながら何処かに逃げられる道が無いかを探していた。
「ひいいいっ。何だこりゃああっ」
「と、とりがばくはつしたぞっ」
「こんな所にいたら、皆死んじまうっ」
「逃げるぞっ」
呂布軍の兵達は何処に居ても爆撃を受けるのを見て右往左往し、何時までもこの城に居れば死ぬと直ぐに分かった。
死にたくないという思いからか、兵達は勝手に城門を開けだした。
呂布達も、自分達が居る城の空から落下し爆発する物が来るのを見て、どうするべきか話している所を爆撃されたので、対処する事も出来なかった。
このままでは死ぬと思ったのか、呂布達は逃げる兵と共に城を抜け出した。
燕県に行っても、この城と同じように爆撃される事が目に見えていたからか、呂布達は陳留へと撤退した。
呂布軍が城から逃げ出しているのを見ても曹操軍は追撃せず、を見ていた。
爆撃が終わると、静かになったので曹操は慌てて城を制圧に掛かった。
こうして『白馬の戦い』が終わった。
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