暫くお預かりして下さい
曹操の文により、曹昂は護衛と共に濮陽へと向かった。
その途上で馬に揺られながら、考え事をしていた。
曹操からの文には『話があるので、濮陽に来い』としか書かれていなかった。
(う~ん。何の呼び出しだろう? 董白を朝廷に送ると言うのなら、僕と一緒に来いって書くだろう。まさか、僕が居ない間に董白を朝廷に送るとか? そんな手間を掛けるぐらいなら、一緒に呼んで離縁してから送るとかすると思うが……)
曹操が何の用事で自分を呼び出したのか分からず、曹昂は頭を捻っていた。
しかし、どれだけ頭を捻っても答えは出なかった。
数日後。
曹昂一行は濮陽に着いた。
市街を通り抜けて内城へと入った曹昂一行。
曹昂が馬から降りると、夏候惇が出迎えをしてくれた。
「良く来たな。曹昂」
「はい。元譲様もお代わりないようで」
挨拶を交わし、夏候惇の案内で曹昂は謁見の間に向かった。
謁見の間に着くまでの間、暇なのか話し掛ける夏候惇。
「どうだ? 豫州の統治は?」
「そうですね。まだまだ若輩の身なので、至らないところがありますが、何とかこなしています」
「そうか。しかし、お前を州牧にすると言った時は驚いたがな。何とか州牧の任をこなしている様だな。感心感心」
「いやぁ、伯喈殿や皆に助けてもらっているお蔭で、何とかこなしているだけですよ」
曹昂は苦笑いしながら言うが、夏候惇は肩を叩く。
「まぁ、どちらにしても良い事ではないか。お前がちゃんと州牧の任を全うしているのであれば」
「そうですね」
その後は近況報告をした二人。
話していると、何時の間にか謁見の間に着いていた。
「ではな。孟徳と話すが良い」
夏候惇は案内しただけなのか、そう言って何処かに行った。
夏候惇に一礼し、振り返り身嗜みを簡単に整える曹昂。
「父上にお目に掛かりたい」
「どうぞ。お通り下さい。若君」
部屋の前に立っている衛兵に一言言うと、扉を開けてくれた。
護衛は部屋の前に残し、開けられた扉に一人だけ入る曹昂。
部屋に入ると、上座に座る曹操の姿が直ぐに目に入った。
そして、その側には誰かが跪いていた。
曹昂の位置からでは後ろ姿しか見えないが、それでもかなりの長身だと分かる。
目算だが
「来たか。息子よ」
曹操の問いに直ぐには答えず、曹昂は少し歩いて上座に座る曹操の近くで止まる。
「お呼びにより参りました。父上」
「遠い所から良く来たな。州牧の仕事はどうだ? 報告では上手くやっているそうだな」
「はい。伯喈殿や皆の助けで何とかこなしております」
「そうか。なら良い」
「ところで、父上」
曹昂はこの部屋に居た時から、其処に居る人物に目を向ける。
「こちらの方は?」
曹昂は横目でその人物が誰なのか訊ねると、曹操は無言でその人物を見る。
「挨拶せよ」
「はっ」
その人物の声を聞いて、曹昂は聞き覚えがある声だと思いながら見ていると、その人物が外套を取ると曹昂は目を見開いた。
「華雄さんっ?」
「久しぶりだな。曹昂……殿」
曹操の目の前で名前だけで、呼ぶのは無礼だと思い「殿」を付ける華雄。
「どうして、こちらに?」
「うむ。実はな董卓様が九五の位に就くと言うので、その姿を孫娘の董白様に見せたいのか連れて来いと命じられてな」
華雄の話を聞いて、丁度董卓が郿城から誘き出される所だと察する曹昂。
「それで出発したのだが、翌日。董卓様が呂布の手に掛かり討たれたと聞いて驚いたぞ」
「成程。それで、どうしたのですか?」
「どうもこうも無い。急いで長安に戻ったのだ。だが、董卓様を含めて一族の皆様方は処刑された。暫くの間、晒し者にした後に纏めて火を付けられると聞いたのでな、最後の奉公として長安に残っている董卓派の残党に手を借りて、一族皆様方の遺体を奪い、董卓様方の故郷である涼州で懇ろに葬った」
「成程。じゃあ、墓の場所は華雄さんを含めて、極一部の人しか知らないという事ですね」
「その通りだ。その後は、こうして曹操殿の元に参ったのだ」
「どうして、父の元に?」
呂布が来るまでは、董卓軍随一の猛将と言われた男だ。引く手あまたと言っても良いだろう。
片腕になっても、その剛勇は衰えていないと聞いているので余計にそう思う曹昂。
「うむ。朝廷に仕えようにも実権を握っている王允が董卓派の者達を処断しているので無理だと分かったので、とりあえず董白様が居られる曹操殿の元に身を寄せる事にしたのだ」
「成程。それで、父上はどうするのですか?」
「其処でお主を呼んだのだ。私の家臣にするか、お前の家臣にするか決めようと思ってな」
「そうですか……」
曹昂は少し考えた。
自分の家臣にするのも良いかと一瞬思ったが、自分の元には孫策が居る事を思い出した。
(不味いな。孫堅さんを破って祖茂さんが討たれた事を根に持っている可能性があるから、配下に加えたら刃傷沙汰を起こすかも知れない)
何とか纏まっている豫州でそんな事を起こされたら溜まったものではないと思う曹昂。
「……父上の配下にお加え下さい」
「そうか。では、華雄よ。文句は無いな」
「ありません」
「宜しい。では華雄、お主を済陰郡定陶県の県令に任命する。見事、私の期待に応えるが良い」
「ははぁ」
こうして、華雄は曹操の配下となった。
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