閑話 袁玉の交流

 曹昂が豫州州牧になった事は、直ぐに袁玉も知る所となった。


「まぁ、こんなに」


 袁玉の目の前には、父袁術から送られてきた品が山のように積まれていた。


 袁術の使者と名乗る物が参ったので、袁玉が会うなり、その使者は曹昂が豫州の州牧になったお祝いとして、品を届けに来たと告げた。


 寝耳に水の事であったので、驚いた袁玉であった。


 兎も角、その品物を見ようと使者と共にその品が置かれている所へ向かう。


 そうして、品物を見たがその豪華さに驚いていた。


 簪、首飾り、指環、腕輪、佩玉(腰帯などの着衣につり下げる装身具)、耳飾り、様々な色の衣装。加えて、金や銀などで作られた細工物などが入った箱が。幾つも積まれていた。


「父上は随分と奮発したのですね。これほど大量の品物を送るなんて」


「はい。それだけ麗姫様の事が、可愛いという事でしょう」


 使者がそう言うと、袁玉は申し訳ない顔をしだした。


「しかし、これだけの物を用意するのも大変だったでしょうに」


 父が無理な事をしていないか心配になる袁玉。


「これもひとえに殿の親心というものです」


 使者は笑顔でそう言う。


 その分、領内の人々は重税で苦しんでいると思うが、口に出さなかった。


「そうですか。父には感謝していると伝えておいて下さい」


「畏まりました。では」


「ああ、そうだ。宜しいかしら?」


 使者は一礼し荷下ろしの指示に向かおうとしたが、袁玉は呼び止めた。


「何か?」


「お名前を聞いておりませんでしたね。何という名前なのかしら?」


「失礼いたしました。わたしは呂範。字を子衡と申します」


「そう。では、ご苦労様でした。呂範様」


 袁玉は呂範に労いの言葉を掛けると、その場を後にした。


 袁玉が離れるので、一礼する呂範。


 そして、袁玉の姿が見えなくなると、呂範は頭を上げると呟いた。


「・・・・・・本当に殿の娘とは思えぬ程に出来た御方だな」


 周りには誰も居なかったので、ポロっと本音を零す呂範。


 そして、荷下ろしの指示する為、その場を離れた。




 袁玉は自室に戻ると、袁術が贈って来た物全てを侍女に持たせて、部屋を出た。


 部屋を出た袁玉が向かったのは、丁薔の部屋であった。


 袁玉が部屋に入ると、部屋には丁薔だけではなく卞蓮の姿もあった。


 丁度、二人は茶飲み話をしている所であった。


「失礼します。義母上様。卞夫人」


「あら、どうしたの?」


 卞蓮は侍女と共に来た袁玉に何の用で来たのか訊ねてきた。


「御寛ぎしている所をお邪魔して申し訳ありません。実家から贈り物が届きましたので、気に入った物があれば差し上げようと思い参りました」


「実家? それって公路様が送って来たと言うの?」


「ええ、服などもありますので、どうぞご覧下さい」


 袁玉はそう言って侍女を見ると、侍女達は無言で敷物を敷いて、その上に持って来た物を置いていく。


「あら、見事な作りね」


「姉さん。これなんか如何です?」


 丁薔達は袁玉が持って来た物を手に取り、自分に当ててどれが良いか話し合った。


 そして、丁薔は幾つかの耳飾り、簪、腕輪、佩玉と衣装を貰った。


 卞蓮も幾つかの耳飾りと簪を貰った。 


 その際、袁玉が気になったのは丁薔が上級の品物に対して、卞蓮が一段下の中級の品ばかりである事が気になっていた。


 その理由が気になりはしたが、失礼かも知れないと思い訊ねる事はしないで部屋を後にした。


 


 そして、丁薔の部屋を後にした袁玉は、次に董白の部屋へと向かった。


 董白の部屋に入ると、董白は弓の手入れをしている所であった。


「どうした? あたしに何か用か?」


 女性にしては少々乱暴な言葉遣いであったが、袁玉は気にしなかった。


 生まれは涼州という事で、他国の文化に触れる事が多い土地柄なので、女性もこういう言葉遣いなのが、普通なのだろうと思っているからだ。


 董白はどう思っているか知らないが、袁玉は董白の事は嫌いでは無かった。


 自分が知り合って来た人達とはかなり違う性格なので、逆に好感を持ったからだ。


「実家から贈り物が届いたので、お裾分けに来たわ。気に入ったのがあれば、好きなだけ貰っていってね」


 歳が左程変わらないので、少しだけ砕けた口調で話す袁玉。


「へぇ、そうなのか。何か悪いな」


「気にしなくてもいいわ。どうぞ」


 袁玉は侍女に手で合図を送ると、先程同じく、侍女達は敷物を敷いて持って来た物を置いていく。


「ふ~ん。どれも良いな」


 董白はそう言いつつも、手に取り自分の身体に当てる事はしなかった。


 あまり、装飾品に興味が無いのか見ているだけの董白。


「董白、言われた通りに糸を持ってきた・・・・・・ああ、失礼しました」


 其処に貂蝉が練師を連れて部屋に入って来た。


 袁玉達を見るなり、慌てて一礼する二人。


「おっ、良い所に来たな。二人共、袁玉に実家からの贈り物が来たそうだぜ」


「贈り物?」


「うわぁ、どれも綺麗ですね」


 貂蝉は不思議がっていると、練師が敷物の上に置かれている物を見て目を輝かせていた。


「ええ、どうぞ。手に取って頂戴。気に入ったのがあればあげます」


 袁玉が手で促すと、貂蝉は装飾品を手に取り身に当てる。


「董白。貴方にはこれなんか似合うと思うわ」


「あたし、こういうの苦手なんだけどな・・・・・・」


「少しは着飾る事もしないと駄目よ」


 貂蝉が自分だけではなく、董白にまで色々な物を勧めて来た。


 董白は嫌という訳では無いが、遠慮している様であった。


 そんな、二人を見る練師。


 チラチラと装飾品を見るので、興味はある様であった。


 そんな練師を見て、袁玉は敷物の上に置かれている装飾品を見て、一つ手に取ると練師に近付く。


「はい。これなんか似合うと思うわよ」


「え、あの・・・・・・」


 袁玉が耳飾りを練師に当てて、似合うと言う。


 勧められた練師はどう言えば良いのか分からず困惑していた。


 袁玉は練師が曹昂の侍女という事で何度も接していた。それにより妹のように可愛がっていた。


 袁玉自身も姉はいるが、妹は居なかったので、練師を可愛がっていた。


「似合ってるぞ」


「ええ、そうね」


 耳飾りを当てた練師を見た董白達は似合っていると言う。


「あ、ありがとうございます」


「・・・そうだ。練師に何が似合うか着せてみるか」


「面白そうね。それ」


「では、わたくしもお手伝いします」


 董白が装飾品と衣装の数々を見て、練師に何が似合うか着せてみようと提案した。


 それに、貂蝉と袁玉も乗った。


 曹昂が豫州牧の地位に就いた事を告げる為に董白の部屋を訪ねるまでの間、練師は三人の手で様々な衣装を着る事となった。

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