そっちの趣味は無い
話は纏まったので、曹昂達は直ぐに行動を開始した。
まず、劉巴は曹昂を連れて、自分の母親の元に向かった。
母親に事の詳細を話し、自分が居ない間は河内郡に居る曹操の下で暮らすようにと説得した。
道案内は、曹昂が連れて来た護衛二人がするので、問題ないと曹昂も口添えした。
それを訊いてか、劉巴の母親は、身の回りの片づけを始めた。
そんな母を尻目に、屋敷に居る使用人達を集めた。
「私は旅に出る事に決めた。母もこの地を離れて別の土地で暮らす事になった。それで、お前達は暇を与える。皆、父が死んだ後、良く私に仕えてくれた。そのお礼に屋敷にある家財道具などは、好きなだけ持って行くと良い」
と太っ腹な発言をする劉巴。
「若様。若様が行くと言うのであれば、我々もお供いたしますっ」
「お供いたしますっ」
「私も」
だが、使用人達は劉巴達に付いて行くと言い出した。
それを訊いて曹昂は、凄く信頼されているんだなと思った。
劉巴も満更でもない気分なのか、微笑んでいた。
なので、殆どの使用人達には劉巴の母親に付いて行かせて、数人の使用人だけ供に連れて行く事にした。
「この者達は武芸に心得がある者達です。護衛に最適ですので問題ないですよ」
劉巴がそう言うので、曹昂は傍に居る護衛の二人に目を向ける。
本当なのかどうかの確認の為に。
護衛の二人は劉巴が紹介する使用人達を見て、本当だという意味を込めて頷いた。
その頷きを見て使用人達に、自分の身分を明かして「よろしく」と述べた。
出立の準備は二日程掛かると言うので、二日後に訪ねると言って劉巴の屋敷を後にした。
曹昂達が宿に戻ると、董白達が起きていた。
「お帰りなさいませ。曹昂様」
「お、お帰りなさいませ」
貂蝉と練師は頭を下げて曹昂を出迎える。
「何処に行ってたんだよ? 起きたら姿が見えなかったから驚いたぞ」
董白は起きたら曹昂が居なかったので、少し怒っている様であった。
「ごめん。ちょっと用事があってね」
曹昂は謝るが、董白は怒りを収める様子はなかった。
「用事? どんなのだよ?」
「ああ、これから益州にも行くから、人の足で行くとしたら、辛い所もあるだろうと思って、馬を買いに」
「馬だぁ? それだったら、あたしも連れて行くべきだろうがっ」
「そうなんだけど、寝ている所を起こすのも悪いかなと思って」
曹昂は連れて行かなかった理由を話したが、董白は怒りを解く様子はなかった。
これはどうした事だ?と曹昂は訳が分からなかったが、視界の端で貂蝉が顔を背けて肩を震わせているのが目に入った。
笑っているのを堪えている様に見えたので、曹昂は思わず訊ねた。
「貂蝉。何かあったの?」
「いえ、その。…………」
何でもない様に言うが、董白を見ると手で口を押える貂蝉。
これは何か有るなと思い、貂蝉に訊ねないで練師に訊ねた。
「練師。何か有ったの?」
「ああ、いえ、その……私達が目を覚ますと曹昂様の姿が無かったのですが。護衛の人達から、護衛を伴なって出かけたと聞いたのですけど、それでも董白様は心配だったようで、曹昂様が戻って来るまで部屋中を徘徊していました」
言っても良いのかなと、目でチラチラと貂蝉や董白を見ながら言う練師。
「~~~」
董白は顔を赤らめだした。
貂蝉はそれを見て、声を出さないで笑っていた。
「……心配してくれてありがとう」
曹昂はそう言って、董白の頭を撫でた。
頭を撫でられた董白は顔を緩ませたが、直ぐに顔を引き締めて、手を払った。
「ふん。心配しない方が可笑しいだろうがっ」
胸を反らしながら、言う董白。
怒っているのは照れ隠しだろうと直ぐに分かった。
曹昂は何も言わないで、微笑んだ。
「……それで、馬は手に入ったのか?」
周りからの生暖かい視線に董白は耐えきれなくなり、曹昂に訊ねる。
「ああ、それで」
曹昂は馬を買う為に外に出て劉巴に出会い、旅に同行する経緯を話した。
「「…………」」
その話を聞いた貂蝉と董白は目を細める。
「どうかしたの?」
「お前、そっちの趣味は無いよな?」
「そっちの趣味?」
「所謂、衆道です」
貂蝉の口から出た言葉に曹昂は噴き出した。
「そ、そんな趣味ないからっ」
曹昂は手を横に振るが、二人は信じていないのかジト目で曹昂を見た。
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