群雄割拠
曹操達は三千の兵を率い、曹昂達は二千の兵を率いて別れた。
取り決め通りに丹陽・呉・廬江のそれら三つの郡に向かう。
まず、向かったのは呉郡であった。
呉軍に向かう途中、曹昂は案内役でもある曹洪に気になった事があり訊ねた。
「子廉さん。これから向かう揚州刺史の陳温とはどういう関係ですか?」
「それなりに親しい関係だな。昔、私の父の曹鼎が罪を犯して捕まった事があってな」
曹洪の説明を聞きながら、曹昂はそれで何となく話が分かったが、何も言わず話を聞いた。
「で、牢獄に入れられたんだが、父の兄で曹昂の曾祖父で大長秋だった曹騰の親族という事だからかなのか分からないが、左遷され、呉郡の太守になったのだ。その関係で揚州刺史の陳温と丹陽太守の周昕とは親しくなった。今でも交流があるぞ」
曹昂は揚州に来た理由、が分かったので満足げに頷いた。
そして、呉郡に着くと兵を募った。
既に揚州刺史の陳温に兵を募る使者を送っており、募兵する許可は貰っているので遠慮なく兵を募った。
数日掛けて、三千程の兵が集まった。
ある程度集まったので、次は丹陽郡に向かう事になった。
五千の兵を連れて丹陽郡に向かう曹昂達。
新たに募兵して、集まった兵三千を曹洪が指揮を取り、残り二千の兵は曹昂と曹純が指揮する事になった。
馬を進ませながら、曹昂は曹純に話しかける。
「それなりに集まったけど、流石にもう少し欲しいですね」
「そうだね。でも、刺史や太守達が許したからと言っても、あまり兵を集めると、その地を治めている県令達に恨まれる事も考えられるからね。程々が良いと思うよ」
兵を募って人口が減り、それで税収が少なくなれば誰でも恨むので、仕方ないと言えた。
「そう言われると確かに」
「まぁ、子廉従兄さんも、そこら辺は分かっているだろうけど。問題は孟徳従兄さんなんだよね」
「父が何か?」
「人に恨まれようとも、構わないで行動するからね。あまりに、兵を集めすぎて恨みを買いそうなんだよね」
曹純の指摘に、曹昂も唸った。
「……否定できない」
「まぁ、その行動力は凄いと思うけど、時と場合によるね」
曹純は困ったように頬をかく。
話しながら、曹昂は思った。
この曹純は、本当に曹仁の弟なのだろうか?と。
曹仁とは反董卓連合軍で共に戦ったが、一言で言えば、血の気が多い暴れん坊というのがピッタリな人物であった。
弟と言うので、曹仁と似ているのかと思ったが、見た目も性格も似ていなかった。
むしろ、兄弟と言われても、皆首を傾げてもおかしくなかった。
それぐらい似ていなかった。
しかし、話をしていると兄弟仲は悪くはないようだ。
一度、曹昂は曹純と曹仁は仲は良いのかと尋ねると。
「兄上は父上と馬が合わなかったが、私とは別に不仲ではなかったよ。別居していた時も時たま、兄上の家に行ってたよ」
それを訊いて、仲は悪くないんだと分かった。
なので、どうして曹純が兄の曹仁を差し置いて、家督を継いだのかを聞かなかった。
兄弟で仲は良いと、聞けば十分であったからだ。
そして、丹陽郡に入ると丹陽郡太守の周昕が出迎えてくれた。
曹洪は馬から降りて、挨拶を交わした。そして、周昕の屋敷へと向かう。
客間に通されると、曹洪は兵を借りる交渉を始めた。
曹昂達はその場には居るが、交渉は曹洪に任せて自分達は傍観する事にした。
数刻後。周昕から兵糧と武具と丹陽兵を借りる事に成功した。
その成功に喜びながら、周昕が宴の席を設けてくれたので曹昂達は参加した。
「これ美味いな」
「本当だね」
楽団が奏でる楽器の音に合わせて、歌妓達が舞っていた。
それを見ながら曹昂達は膳を食べていた。
揚州は長江にも近いからか、新鮮な魚を食べる事が出来た。
思ったよりも美味しいなと思いながら舌鼓を打つ曹昂。
「ほら、これ美味いぞ」
曹昂の右隣に座る董白が、膾を箸で摘まんで曹昂の口元に持って来る。
食べさせようとしているのは、直ぐに分かった。
曹昂が口を開けようとしたら。
「曹昂様。こちらの
左隣に座る貂蝉が匙で掬い、曹昂の口元に持って来る。
何故、侍女の貂蝉が曹昂の左隣に居るのかというと曹洪が「あの子は曹昂の妾なので席を用意してくれ」と頼んだからだ。
ちなみに、中華料理にはスープは大まかに分けると湯と
二人が笑顔で、お互いを見た後、ほぼ同時に曹昂を見る。
「「さぁ、どうぞ」」
笑顔なのに迫力がある董白達。
曹昂は目で援護を求めたが、皆関わりたくないのかそっぽを向いた。
薄情者と内心叫びながら、楽しい宴なのに冷や汗をかく曹昂であった。
数日後。
次は廬江郡に向かおうと準備をする曹昂達。
其処に急報が齎された。
「曹昂様。急報にございます!」
配下の『三毒』の者が準備をしている曹昂の下に駆け寄って来た。
「何かあったの?」
「はっ。去る四月三日に豫州州牧の孔伷が病死なさいました!」
その報告を聞いた曹昂は衝撃を受けた。
「まさか、孔伷が病死⁉ 持病を患っていたって話は聞いてないよっ」
「調べた所、虎牢関の戦いで、流れ矢に当たり治療もしないで、そのままにしていた事で、傷口から毒が入り病気に罹ったと」
話を聞いて、破傷風だなと推察する曹昂。
戦場で負った傷が、元で病に罹ったというのは、よく聞く話であった。
「だとしたら、董卓が新しい豫州牧を送り込む可能性があるな」
これはまずいなと思っていると、報告に来た『三毒』の者はもっと驚く報告をもたらした。
「それが孔伷の病死から、数日後に長安の朝廷の下に袁紹と袁術が、新しい豫州刺史を上奏したのです」
「新しい豫州刺史? 誰?」
「それが、袁術は孫堅を袁紹は周喁という者を推薦したそうです」
「別々の人を新しい豫州刺史に⁉ ……あっ、これはやられたっ」
報告を聞いた曹昂は頭を抱えた。
「……多分だけど、今は豫州は文台殿とその周喁って人が争って混乱している?」
「御推察の通りです」
その通りとばかりに『三毒』の者は頭を下げる。
(流石は董卓だ。二人の上奏を見て、袁紹と袁術を争わせようと考えたんだな)
流石は、天下に号令を掛けた梟雄だ。中々に狡猾だと思う曹昂。
そして、豫州が混乱していると聞いて曹昂は一族の事を思い出した。不幸中の幸いと言うべきか、丁薔は卞蓮が妊娠した事で面倒を見ているので、今は河内郡に居た。
「一族の者達はどうなった?」
「皆様は豫州を出て散り散りとなりました。曹昂様の祖父である曹嵩様は御子息の曹徳様方と共に徐州に向かったとの事です」
「そうか……」
祖父と叔父達が無事だと知り、安堵する曹昂。
だが、直ぐに曹操達と何処で合流するべきか考えた。
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