劉備。連合軍へ参加す

 曹操達が連合軍を形作っていく中。


 

 劉備は北平の太守公孫瓚の軍に居た。


 居る事は当然なのか、義弟の関羽、張飛と共に居た。


(漢室を復興させる為の戦だ。ご先祖様。どうか、この劉備めにお力を与えたまえ)


 心の中で、祈りながら馬を進ませている。


 そして、これまであった事を思い返していた。


 黄巾の乱の時に義勇軍を率いた功績で、冀州中山国安熹県の県尉に任命された。


 安熹県には県令が居なかったので、劉備が県令を兼ねる事となった。


 それから暫くは、劉備は県令として真面目に職務をこなしていたが、其処に都から督郵がやって来た。


 督郵とは郡太守の視察官で、所轄する県の役人の治績や法規などを監察する官職だ。


 その督郵が安熹県に来るなり、劉備に賄賂を要求して来た。


 劉備は拒否すると、それに怒った督郵がやってもいない罪を捏造し、犯罪者にしようとしだした。


 それを知った張飛が督郵を縛りつけ、木に吊し上げて木の棒で滅多打ちにした。


 劉備達が駆け付けた時には、督郵は全身傷だらけであった。


 張飛に事の経緯を訊ねると、劉備は督郵の真相を話した。


「もう我慢の限界だ。其処までして官職に縛られるつもりは無いっ」


 と言って官の印綬を督郵の首にかけ、官を捨てて逃亡した。


 張飛に滅多打ちにされた事で、自尊心を傷つけた督郵は逃げた劉備達を追い駆ける様に各郡の太守達に手を回した。


 太守達は、その命令に従い兵を出してを捕縛しようとした。


 逃げる劉備達は山へと逃れた。


 だが、その山には山賊が住み着いていた。


 山賊達は劉備達に襲い掛かったが、呆気なく返り討ちとなった。


 劉備達が一息ついている所に、騎馬の一団が駆けつけて来た。


 関羽達は追手かと身構えたが、劉備だけその一団の先頭に居る者を見て顔を綻ばせた。


 その者は公孫瓚。字を伯珪と言う者であった。


 この頃の、公孫瓚は涿県の県令をしていた。


 公孫瓚と劉備は盧植の下で、学問を学んだ仲で兄弟の様に仲良くしていた。


 公孫瓚は劉備がこんな所にいる経緯を訊ねると、劉備は隠す事も無いのでこうなった経緯をありのままに話した。


 それを訊いた公孫瓚は、自分に任せろと言うので劉備達は公孫瓚に頼る事となった。


 公孫瓚は劉備達が倒した山賊達は賞金が掛けられているので、劉備達が賞金を貰わない代わりに劉備を赦免する様に朝廷に願い出た。


 公孫瓚は有力豪族の家の出であるからか、劉備は赦免される事となった。


 その恩義で、劉備は公孫瓚に仕えていた。


 今は別部司馬に任じられていた。


 関羽、張飛は劉備の下で馬弓手と歩弓手になっていた。


「どうした? 劉備。物思いに耽って」


 側にいる公孫瓚が、話し掛けてきた。


「いえ、一度は罪人の様な立場であった自分が、こうして一軍を率いて漢室復興の戦に赴く事が、出来るとは思ってもいなかったので、今までの事を思い返していました」


「そうか。人生何が起こるか分からないというやつだな」


「ええ、そうです。公孫瓚殿。お聞きしたい事があったのですが宜しいですか?」


「別に構わん。何だ。言ってみろ」


「此度の董卓討伐を終えれば乱は静まるでしょうか?」


「……恐らく無理だろうな」


 公孫瓚は首を横に振る。


 そして、理由も教えてくれた。


「董卓は逆賊とは言え強大だ。如何に連合軍を結成しても討ち漏らす事も考えられる。それに仮に討ったとしても、その後の論功行賞で揉めるであろうな」


「揉めるですか? 何故ですか?」


「献帝陛下はまだ幼い。諸侯達が董卓の後釜を狙う。それで揉めるだろう」


「嘆かわしい事ですな」


 劉備は公孫瓚の理由を聞いて、人心の荒廃がここまできたかと思い溜め息を吐いた。


「諸侯の軍議の席には副官としてお前も同席してくれ。お前の義弟達と共に」


「分かりました」


 劉備の承諾を聞いて、公孫瓚は満足そうに頷いた。


(諸侯の軍議の席に参加か。其処にはどれだけの英雄豪傑が居るのだろうか?)


 まだ会った事も無い諸侯達に思いを馳せていると、劉備は頭の中に二人の男達が思い浮かんだ。


 曹操と孫堅。


 二人共、英雄と言っても良い者達であった。


 曹操は此度の董卓討伐軍の発起人で、孫堅も恐らく参加するだろうと思われた。


 劉備は、二人に会えるのを楽しみにしていた。


 その劉備達の後ろには、関羽と張飛がおり、二人は話し込んでいた。


「これで、あの董卓を討てると思うと嬉しくて仕方がねえ」


 黄巾の乱の折り、董卓に辱められてた事を張飛は忘れる事はなかった。


「張飛。意気込むのは良いが、気負い過ぎるなよ」


 意気込む張飛に自重する様に言う関羽。


「へっ、分かっているぜ。兄貴」


 関羽の言葉を軽く聞き流す張飛。


 そんな張飛を見て、関羽は少しだけ心配になるのであった。

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