会議をしよう
董白をとりあえず卞蓮に預けて、曹操達は会議を行った。
その席には曹昂も参加した。
上座に曹操。そのすぐ近くの席に曹昂。蔡邕。夏候惇。夏侯淵が座る。
反対側の席には曹洪。史渙。見慣れない顔の人達が座っていた。
曹昂が不審そうな顔をしていると、曹操が教えてくれた。
「そう言えば、お前にはまだ紹介していなかったな。わたしの義理の従弟の曹仁だ」
曹操が紹介すると、まずは史渙の右に座っている者が、曹昂に向かって一礼する。
「初めましてだな。俺が曹仁。字を子孝だ。よろしく頼む」
刃の様に鋭い目付き。引き締まった顔立ちにピンっと伸びた顎髭に丁寧に撫でつけられた口髭を生やしていた。
身の丈
「お噂はかねがね聞いております。曹昂です。よろしくお願いします」
曹昂は曹仁に一礼する。
「噂か。はっはっは、孟徳の兄貴の自慢の息子の耳にも俺の事が入っていたか」
豪快に笑う曹仁。
それを訊いた曹昂は、苦笑いを浮かべた。
曰く、地元の者達と徒党を組んで、暴れ回った。
曰く、長男なのにあまりに、乱暴者過ぎるので父親が家督を弟に譲った。
という話が巷に流れているぐらいに、曹仁は乱暴者と知られていた。
「まぁ、面倒臭い事は弟に任せているから楽と言えば楽だぜ。こうして、地元の奴らを千人ほど集めて来たんだからな」
それを訊いて、曹昂は人望はあるんだと思った。
でなければ千人も人を集める事は出来ないからだ。
「義理ではあるが親戚同士だ。よろしくな」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
「もう挨拶は良いか? 次は楽進だ」
曹操が名前を紹介すると、曹仁の右に座っている者が一礼した。
「お初にお目にかかります。楽進。字を文謙と申します」
くりくりっとした目に太い眉毛。服の上からでも肩幅は広く胸板が厚いのが分かった。
身の丈は
「この者は私の呼び掛けに集まった者でな。最初は、まぁ小柄なので記録係をさせていたのだが。兵を集めている時に、楽進が自分の出身郡で兵を集めると言うので行かせたら、千人ほど兵を連れて来たからな。見込みがあると思い将に抜擢したのだ」
「そうなんですか。よろしくお願いします」
「こちらこそ。粉骨砕身の覚悟で働かせて頂きます」
楽進は曹昂に一礼する。
その態度から、真面目な人なのだろうと思いながら返礼した。
「さて、紹介も終わった事だから。本日の議題に入るぞ」
曹操がそう言うと皆、顔を引き締めた。
一体どんな話をするのか、皆まだ知らなかった。
「・・・・・・息子が連れて来た嫁の扱いどうしたら良いと思う?」
曹操の口から出た言葉に、曹昂と蔡邕以外の者達は肩透かしを食らった気分になった。
「孟徳っ。お前、皆を集めて息子の嫁の扱いを議題にするとは何事だっ」
夏候惇は激昂しながら叫んだ。
夏候惇がそう言うのも無理はないので、他の者達も何も言わないが同じ思いなのか頷いていた。
「いや、気持ちは分かる。だが、これは困った事だから皆を集めて話し合おうと思ったのだ」
「ふん。そんなに扱いが面倒な所の娘なのか?」
夏候惇がそう訊ねると、曹操は頷いた。
「董卓の孫娘だ」
曹操の口から出た言葉に、蔡邕以外の者達が曹昂を見る。
曹昂は本当なので、コクリと頷いた。
「お前、とんでもない娘を嫁にしたな」
「流石は孟徳の息子と言うべきか。それとも、何かの巡り合わせと言うべきなのか分からんな」
「董卓の孫娘か。自分の一族を嫁にするとは。よほど、董卓に気に入られたのだな」
夏候惇達は思い思いに言い出した。
「という訳で、どうするべきか皆と話して決めたい。誰でも良いから意見を言え」
曹操が意見を求めると、曹仁が曹操を見ながら訊ねた。
「その子の名前は?」
「董白と言う子だ。歳は曹昂と同い年だな」
「可愛いのか?」
「うむ。絶世の美少女と言って良いな。それに昂に惚れているな」
「へぇ~、流石は孟徳の兄貴の息子だ。女の子をたらすのが上手だな」
曹仁は、ニヤニヤしながら曹昂を見る。
その視線から、不本意な評価をされている気がすると思ったが、何も言わなかった。
言えば言い訳がましく、聞こえる気がするからだ。
「董卓の孫娘か。我らは挙兵したのだから董卓とは敵になるのだぞ。その様な者を身近に置いては不味くないか?」
夏侯淵が冷静に状況を鑑みた意見を言う。
「ならば、これか」
曹洪が首を切る仕草を取る。それはつまり処刑するという事だ。
「それが妥当か」
夏候惇が曹洪の意見に同意するかのように頷く。
他の者達もそれに異論はないのか処刑するという空気になったが。
「僕は反対です」
曹昂が異論を唱えた。
「昂。どうしてだ?」
「董白は董卓が可愛がっている孫娘です。もし処刑でもしたら、僕達が目の敵にされますよ」
「しかし、戦争と言うのはそういうものだ」
「董卓軍は二十五万。対して僕達の軍は一万。各地の諸侯も集まっていない状態でそんな事をしたら、董卓は激怒して直ぐに兵を差し向けて来て僕達を滅ぼす可能性があります」
曹昂の指摘が的を射ているので、皆は何も言えなかった。
「私も同感ですな」
其処に蔡邕も曹昂の意見に賛成した。
「伯喈殿も同意見か?」
「ええ、殺して董卓の怒りを買うよりも、手元に置いて相手の心を揺さぶるべきです」
「ふむ。それも一理ありだな。私としても息子の嫁になる者を殺すのも気が引ける」
曹操は少し考えると名案とばかりに膝を叩いた。
「そうだっ。いっそのこと、本当に嫁にすればいいのかっ」
「「「はい?」」」
「うむ。そうすれば、敵も混乱するだろう。それに息子の嫁も出来る。素晴らしい策だなっ」
曹操が突拍子もない事を言いだしたので、皆は呆れていたが、蔡邕は同意した。
「それは良いですな。元々、曹昂の下に嫁ぐ予定でしたのです。いずれは式を挙げる予定が早まっただけの事でしょう」
「おお、伯喈殿は賛成してくれるか。ならば、昂よ」
「は、はい?」
「董白を説得して婚礼を挙げる様にしろ」
「え、ええええっ⁉」
そんな無茶なと思いで叫ぶ曹昂。
無理だと言おうとしたが。
「良し。これでこの話は終わりだ。では、次の話に行こう」
曹操が半ば無理矢理に話を終わらせたので、話をする事が出来なかった。
その後は曹昂が献帝から密詔を賜った事を蔡邕が話したので、皆がその密詔を見せろと言うので見せる事になった。
結局、董白の説得に関する話をする事は出来なかった。
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