喧嘩早い子だな
曹昂が董卓へ仕える様になってそ、れなりの日が経った頃。
今日も今日とて曹昂は、董卓の傍にあって献策した。
董卓も曹昂の献策で朝廷だけでは無く、自分の懐も温かくなるので献策を聞き入れていた。
百官達も現状に適した献策なので、反対も出来なかった。
その上、着実に成果を上げているので文句も言えなかった。
「はは、今日も曹昂殿は見事な献策でありましたな」
「正に流石は孟徳殿のご自慢の息子ですな」
「孟徳殿も鼻が高いでしょうね」
丁度、董卓が用事で離れているところに、曹昂が居るのを見た百官達がごまをすってきた。
「はぁ。そう言って貰えると父も喜ぶと思います」
曹昂としてもまさか、こんなに上手くいくとは思っていなかった。
実際、曹昂が献策した悪銭を回収して改鋳するという方法である程度の財源を確保する事が出来た。
それにより政策を立てる事ができ、百官達の懐も温かくなるので喜びも一入であった。
「ははは、ご謙遜を」
「貴殿の献策はあの王子師殿ですら褒めていたのですよ」
「確かに素晴らしいですな」
あからさまに御機嫌取りをしているので、曹昂はあまり相手にしたくなかった。
「ところで、曹昂殿は婚約はまだですかな?」
「ええ、まぁ。そうです」
曹昂が婚約していないと言うと、百官達は目を光らせた。
「でしたら、私の娘などは如何ですか? 年頃は丁度曹昂殿と同じぐらいです」
「私の親戚の娘も丁度、良い年齢の者が居ます。どうですかな?」
「いやいや、私の娘の方が器量良しです。是非、私の娘と婚約をっ」
曹昂がまだ婚約していないと聞くなり、自分の娘や親戚の子と婚約を薦めて来た。
董卓のお気に入りの家臣の息子を親族に加える事で、自分の権力を増す為の手段として政略結婚をしようとしているのを見て、言葉のチョイスを間違えたと思った。
どうしたら良いかなと頭を悩ませていると。
「おお、弟よ。こんな所にいたか」
背後から声を掛けられた。その声を聞いて曹昂は振り返らないでも誰なのか分かった。そして、内心で助かったと思った。
「奉先殿。何か御用でしょうか?」
曹昂が声が聞こえた方に、身体を振り向かせて頭を下げる。
其処に居たのは呂布であった。
呂布の姿を見るなり曹昂におべっかを取っていた百官達も頭を下げた。
「将軍が御呼びだ。付いて参れ」
「分かりました。お話しの件については後日、父と相談してから決めさせてもらいます。では、失礼します」
呂布がそう言うので、これ幸いとばかりに曹昂は飛びついた。
そして、百官達のお見合いを丁寧に断ってから呂布の後に続いた。
呂布の後に続き、百官達から有る程度離れると足を止めた。
「助かった~。ありがとうございます」
「なに、呼んでいるのは本当だったからな。気にするな。賢弟よ」
呂布が労わる様に曹昂の肩を叩いた。
呂布が曹昂の事を賢弟と呼ぶのは歳が近いので、弟の様に可愛がっているからだ。
曹昂は弟と妹は居るが兄は居ないので仲良くしてる。
「この後は何かあるのか?」
「ええっと、武将の方々からの要望に応えた武器を作る様に鍛冶場に指示するだけですね」
呂布が単戟の事を董卓配下の武将達に自慢するので、武将達も羨ましくなった様で曹昂に良い武器は無いかと訪ねて来た。
皆武装して訪ねて来たので、最初曹昂は自分が気に入らなくて暗殺に来たのかと思ってしまった。
話を聞いて武将達の要望に応えた武器を作る事となった。
「華将軍(華雄)は斧槍。李将軍(李傕)は大斧。郭将軍(郭汜)は格好いい大刀。他の将軍達も何か良い武器です」
何か良い武器って、なんだよと思ったが不公平はいけないと思い曹昂は了承した。
とりあえず何か格好いい武器の図案を職人に渡して作って貰おうと思いながら歩いていると。
「おい。そこの二人。ちょっといいか?」
随分、ぞんざいな呼び止め方だなと曹昂達は思いながら振り返ると
この国では、珍しいプラチナブロンドの髪をツインテールにしていた。
つり目に黒真珠の様な瞳。整った顔立ち。長衣を着ているが、小柄の割に胸がボンっと出ていた。
(なんか、この声聞き覚えがあるな?)
何処で聞いたのか思い出せないが、聞き覚えがある声であった。
曹昂は少し記憶を思い返すが、誰なのか思い出せなかった。
「……知っています?」
「いや、知らん」
とりあえず呂布に訊ねたが、呂布も初めて見る顔の様で首を横に振る。
誰なのか分からないのでどうしたらいいか迷っていると。
「誰だか知らんが、誰に生意気な口を聞いているつもりだ?」
呂布が前に出てきた。
此処に居る以上、女官か何かだと思い、少々生意気な事を言うので懲らしめようと拳を鳴らした。
「何だ。やるつもりかよっ」
少女は呂布が何かしようとしてくるのを見て袖を捲りだした。
「ちょっ、二人とも。此処は朝廷ですよ。喧嘩は駄目ですって⁉」
喧嘩しそうな二人を宥めようとする曹昂。
其処に李儒がやってきた。
「ああ、文優様。手を貸して下さい!」
「うん? どうしたのだ……なぁっ⁉」
李儒は少女を見るなり、驚きの声を上げた。
「知り合いですか?」
「知り合いでは無い。ある意味で親戚だ」
そう言った李儒は少女を宥める。
「菫白様。どうかお静まりをっ」
「うるせえ! お前はどきやがれ。李儒!」
少女は李儒が宥めすかしても大人しくならなかった。むしろ余計暴れだした。
これは駄目だと思い曹昂は懷に手を入れてある物を出した。
「えい」
「んぐっ⁉」
曹昂は少女の口の中に出した物を入れた。
最初は何を入れられたか分からなかったが舌で舐めていると甘味を感じた。
その味に少女は顔を緩ませていった。
「ふぅ、どうにか大人しく出来た」
少女が大人しくなったのを見て曹昂は安堵の息をもらした。
「何を与えたんだ?」
「水飴を煮詰めて冷まして適当に割って作った飴です」
少女に与えた物を教えた曹昂は李儒の方を見る。
「この子は誰ですか?」
「菫卓様の孫であられる菫白様だ」
それを聞いた呂布はギョッとした。
菫白には会った事がなかったので顔は知らなかったがどんな少女であるかは聞いていた様だ。
「将軍の孫娘ですか。道理で」
呂布相手にあんな事を言うとは凄い度胸だなと思ってしまった。
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