何故か気に入られた
「改めて紹介しよう。董将軍の孫娘で渭陽君に封じられ私の義理の姪に当たる董白様だ。字は雪姫と言う」
「よろしくな」
李儒に紹介されて、ぞんざいに挨拶する董白。
「この者が将軍が可愛がっている孫娘か。私は呂布。字を奉先と申す」
「あんたが呂布奉先か。ふん、あんたの話はお祖父様から聞いているぜ」
「そうか。仮にも義理の親族であるのだからこれからは仲良くして行こうではないか」
呂布は董卓に仕えた頃に義理の親子の関係を結んでいる。
なので、呂布にとって董白は義理の姪になる。
「はっ、誰がお前みたいに馬欲しさに義理の父親を殺す様な奴と親しく出来るか」
鼻で笑いながらきつい事を言う董白。
「何だとっ?」
呂布は常日頃から父親殺しと言われ気にしていた。それを言われていきり立った。
これは不味いと思い曹昂は前に出た。
「奉先殿。気を静めて下さい。子供の言う事ですから真に受けないで下さい」
「ぬううっ」
同じ年齢ぐらいの曹昂に宥められては呂布も怒るに怒れなかった。
「ところで誰だ。お前?」
「僕は曹昂と申します」
「お前が? ……」
菫白は曹昂を頭の先から足のつま先まで値踏みする。
「……」
董白は曹昂をジッと見て来た。
曹昂からしたら、何でこんなに見られているのだろうとしか思えなかった。
そして、突然頬を膨らませだした。
それを見た曹昂達は首を傾げた。
「……まぁ、あの時は顔を見せてなかったからな」
そうボソリと呟いた後、曹昂を指差しながら李儒に訊ねる董白。
「こいつ、本当に役に立つのか? 李儒」
「と、董白様。失礼ですぞ。それに、将軍は曹昂君の事をそこいらにいる者達よりも役に立つと言っておりますよ」
「ふ~ん。そうなのか」
董白は疑心に満ちた目で曹昂を見ていた。
曹昂は笑顔で話し掛けた。
「そんなに睨んでは、可愛い顔が台無しですよ」
曹昂がそう言うと、董白はその言葉を聞くなり、徐々に顔を赤くしていった。
「あ、あ、あ、あたしが可愛いだって⁉」
董白は顔を真っ赤にして言い出した。
別段、変な事を言っていないのに、何か面白い反応するなと思う曹昂。
「可愛らしいと思いますけど」
「嘘をつくんじゃねえっ。それとも、機嫌取りか⁉」
董白は顔を真っ赤にして曹昂の言葉を否定するかのように腕を振る。
そんな風に照れているので、余計に可愛いとは本人は思っていない様だ。
「いや、普通に可愛いと思いますけど」
「まだ言うか。この野郎っ」
林檎の様に顔を真っ赤にさせる董白。
「その銀みたいな綺麗な髪と猫みたいに大きな瞳を持って鼻筋とか整った顔立ちをしているし、肌も白いから余計に可愛いと思」
「わぁー、わぁー‼ わぁー、わぁー‼」
曹昂からしたら褒めているつもりであろうが、聞いている董白からしたら恥ずかしい思いで一杯であった。
大声を上げて聞こえない様にしていた。
「まぁまぁ、董白様。騒ぐのはそれぐらいで。今日は将軍に会いに来たのでしょう。早く行った方が良いと思いますぞ」
「そ、そうだな。うん。李儒。案内してくれよ」
「分かりました」
李儒は曹昂達を一瞬だけで見る。
目で「わたしが董白様を将軍の下に連れて行くから。お前達は来なくていい」と言っていた。
曹昂達は李儒の視線から察して一礼する。
「ささ、参りましょう」
「あ、ああ……(チラ)」
李儒に促されて董白は董卓の下に行こうとしたが、横目で曹昂を見た。
「? 何か?」
「別にっ」
曹昂が視線に気付いて、話し掛けたが董白は直ぐに顔を反らした。
そして、李儒の案内で董卓の下に向かった。
李儒達を見送ると曹昂は息を漏らした。
「ふぅ、なんか面倒臭い人に絡まれましたね」
「確かにな。賢弟。これからどうする?」
「とりあえず、武将の人達に言われた武器の図案を職人達に渡しに行きます」
「俺も付いて行っても良いか。どうも、あの娘とは相性が悪いようだ」
「こればっかしは相性ですから仕方がないですよ」
曹昂が鍛冶場に行こうとしたが、呂布が足を止めていた。
「どうしたのですか?」
「なぁ、曹昂。お前はわたしが馬欲しさに義理の父親を殺した事についてはどう思う?」
呂布が真面目な顔をして訊いてきた。
そんな顔を見て曹昂は冗談で流すのではなく、本当に思っている事を話そうと決めた。
「……奉先殿は野望と義理を秤に掛けて選んだのが野望だった。それだけの事だと思います。そして、野望の為に義理の父を殺したのだから、まず常人には出来ないでしょうね。其処は誇るべきでしょう。もし、誰かにその事で言われたらこう言い返せば良いんですよ」
「何と?」
「『それがどうした⁉』って」
「ふ、ふははははは」
呂布は大声で笑い出した。
「ははは、……お前は良い奴だな」
呂布は曹昂の頭をポンポンと叩き、先に進んで行った。
褒められたのだろうか?と思いながら呂布の後に付いて行った。
同じ頃、董白が李儒と共に董卓を訪ねに行くと、董卓は笑顔で出迎えた。
「おお、姫よ。良く来たな」
「祖父ちゃん。何の用だよ」
「お前に良い話を持ってきたぞ」
「良い話?」
「うむ。お前にピッタリな婿を見つけて来たぞ」
「へぇ~、誰だよ?」
「曹操の息子で曹昂と言うのだ。年頃も同じだし、良いであろう」
「へ、へぇ~」
先程会ったとは董白は言えなかった。
だが、李儒は楽しそうに話し出した。
「御似合いですな。先程、少し御二人は話をしたのですが、董白様もお気に召した様です」
「李儒、てめっ」
「ほほう、そうかそうか。それは良かった。では、早速、曹操の屋敷に文を送ろうか」
董白の反応が満更ではないと分かり董卓は直ぐに孫娘と曹昂の婿に迎える旨を書いた文を書く事にした。
「ったく、勝手に話を進めて・・・・・・へへへ」
悪態をついた董白であったが、口元に笑みを浮かべていた。
翌日。
朝早くから曹家の屋敷に客人達が来ていた。
「あの、董白様」
「何だよ?」
「我が家に御用は何でしょうか?」
出仕しようとした所に李儒を伴ってやって来た董白に訊ねる曹昂。
訊ねられた董白は顔を背けた。
「別にお前に会いに来た訳じゃないからなっ。御祖父様の命令で仕方が無く来てやったんだからな。有り難く思えっ」
「はい?」
董卓の命令で来たと言う董白。
意味不明だと思いながら一緒に来た李儒を見ると、李儒は卞夫人と話をしていた。
「あら、董将軍はそんな事をお考えで?」
「はい。将軍は曹昂をえらく気に入った様でして。どうやら、自分の孫娘の婿にするつもりの様です。その一環としてこれからも度々屋敷に来ますので、面倒を掛けると思いますが御寛恕して下さい」
(婿っ⁉)
李儒達の話を聞いた曹昂は吃驚していた。
まさか、自分にそんな話が来るとは思いもしなかったからだ。
「あらあら、これは大変だわ。故郷に居る丁姉さんに文を出さないといけないわ」
「それが宜しいかと思います。孟徳殿が帰って来たら教えてあげて頂きたい」
曹操の字が聞こえて曹昂の心臓が跳ね上がった。
曹昂が付いた嘘がバレるかもしれないと思ったが。
「分かりました。
卞蓮は、曹操は今は何処に居るのか知らないが、李儒の言葉を曹操が仕事先から帰って来たら教えろという意味で取った。
「お願いする」
李儒は卞蓮は曹操が何処に居るのか知っていると思い、其処に文を送って教えてほしいと言う意味で御願いした。
両人の言葉から微妙に勘違いしていると察した曹昂は内心で安堵した。
「では、董白様。私はこれで」
李儒は董白に一礼して屋敷を出て行った。
李儒が見えなくなると董白は曹昂を見る。
「お前、馬は乗れるのか?」
「いえ、まだです」
「だらしねえな。しょうがねえから、あたしが特別に馬の乗り方を教えてやるよ。あたしの屋敷に行くぞ」
無駄に胸を張りながら言う董白。
「でも、朝議が」
「今日ぐらいいいだろう。御祖父様が今日は休んで良いって言ったから大丈夫だよ」
流石、権力者だと思いながら曹昂は董白を見る。
「じゃあ、お言葉に甘えていいですか?」
「おぅよ。じゃあ、行こうぜ」
董白が屋敷の門の外で待たせている馬車を指差している。
あれに乗って行こうと言っているのだろう。
そう察した曹昂は董白と一緒に馬車に乗り込み董卓の屋敷へと向かった。
屋敷に向かう最中、曹昂はふと思った。
(そう言えば。父上は今頃何をしているのだろうか?)
時期的に洛陽を抜け出して故郷の譙県に向かっている筈だ。
其処で挙兵の準備をする為に。
(故郷に向かっている時に呂伯奢の家族を皆殺しにしたって逸話があったな。真偽不明だけど)
そんな事を考えていると肩を揺らされた。
馬車による振動ではなく人の手で揺らしていた。
「おい。さっきから話し掛けているのに人の話を無視するなよっ」
「ああ、すいません」
「それと敬語は禁止だ。良いな?」
「えっ、でも」
「い・い・な?」
董白が曹昂の目を真っ直ぐに見て言うので曹昂は思わず頷いた。
「良し。じゃあ、あたしの事は董白って呼んでいいぞ」
「はい。董白様」
「様付けも禁止!」
「ええ~。分かったよ」
「分かれば良いんだよ。分かれば」
そして、董白は楽しそうに曹昂に色々と話し掛けて来た。
良く分からないけど何か気に入られているぞ?と思いながら話に耳を傾けて返事をしたり相槌を打ったりしていた。
本作では董白の歳は曹昂と同い年とします。
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