子供にそんな事をさせるか。普通
曾祖父の曹騰に呼ばれた曹昂は貂蝉と共に部屋へと向かった。
部屋の前に着くと、曹昂は身なりを正した。
「変なところは無い?」
「……大丈夫です」
曹昂の服を見て変なところが無いか確認する貂蝉。
傍から見たら何処かの若夫婦の様な事をしている二人。
貂蝉の言葉を信じて、曹昂は部屋に向かって声を掛けた。
「曾祖父様。お呼びとの事で参りました」
『おお、来たか。入るが良い』
入室の許可を得たので曹昂が戸に開けようと手を伸ばそうとしたら、貂蝉が代わりに開けてくれた。
そして、貂蝉が中に入る様に促すと、何か悪いなと思いつつも部屋の中に入って行った。
部屋に入ると同時に、戸が閉められた。
貂蝉が閉めてくれたようだ。
(てっきり、一緒に入るのかと思ったのに)
丁薔の教育のお蔭か、そこら辺はきっちりと分別がつけられているようだ。
ちょっと残念と思いつつも、部屋の主である曹騰に向かって一礼する。
「よく来たのう。まぁ、お気に入りの侍女も一緒に居たかった用じゃがな」
曹昂の顔を見て察した曹騰は顔を二ヤけさせていた。
「……お呼びと聞き参りました」
祖父が揶揄っているのを察した曹昂は、それには乗らないとばかりに、呼ばれた理由を訊ねた。
曾孫が乗らないと見ると曹騰はちょっとだけつまらない顔をした。
だが、直ぐに笑みを浮かべ出した。
「うむ。聞いたかどうか知らんが、お主の父がもう少しで帰って来るのじゃ」
「里帰りですか?」
何故帰って来るか知っているが、此処は敢えて言わない曹昂。
曹騰も曹昂がそう訊ねて来たので、どうして帰ってくるのか知らないと思い包み隠す事無く話しだした。
「お主の父は済南国の相をしていたのじゃが、統治こそ平穏になったがやり過ぎて別の職になるところを任官を拒否して辞めてな。それで帰って来るのじゃ」
「はぁ、つまり仕事を辞めて帰ってくると?」
「そうじゃ。その事を書いた手紙と共にこんな物を送ってきおった」
困った物だと思いを顔に出しながら、曹騰は懐から紙を出して曹昂に渡した。
渡された紙を取り中身を見てみると。
「ええっと『十二月に洗った米を蒸して発酵させて、それを水で洗って一旦凍らせる。正月になったら溶かして其処に米を加えて発酵させる事九回』? ……何ですか? これは」
「あやつ。その土地で県令だが職人だが何だか知らんが郭芝という者から酒の作り方を教わったそうじゃ」
「はぁ、酒ですか」
「うむ。で、その作り方通りに酒が出来るか試したいとの事じゃ」
「……僕に酒造りをやれと」
「手紙にはそう書いてあるぞ」
曹騰の話を聞いた曹昂は眩暈がしそうであった。
数え年で十歳になる子供に酒造りをやらせるとか、どう考えても有り得ない事だ。
正気の沙汰とは思えなかった。
「まぁ、お主が色々な物を作っておるからな。それを見込んでの事じゃろう」
曹騰も仕方がないと言いたげに首を横に振る。
「だからって、子供に酒造りをさせるのはどうかと思いますっ」
「気持ちは分かるが、これで美味しい酒が出来そうじゃからな。昂や、これも曾祖父孝行だと思って、頑張っておくれ」
曹騰はどんな味の酒なのか楽しみなのか、舌で唇を舐めながら顔を緩ませていた。
曹騰には色々と便宜を図ってもらっているので、逆らえなかった。
「ぬぐぐぐ……分かりました。この方法で試してみます」
「おお、そうかっ」
「手紙には十二月と書かれていますが。別に寒くなったら作っても問題ないと思いますので、寒くなったら作りますね」
日本では十月から日本酒が仕込まれる。
それは気温が高すぎると、発酵が進んで腐らせる事があるからだ。
その為、寒い時期に行われると前世で酒を造る漫画を読んで覚えている。
「そこら辺はお主に任せる。出来たら試飲させておくれ」
「はぁ、分かりました」
酒好きだなと思いながら曹昂は曹騰に一礼して部屋から出て行った。
「ったく、何で子供に酒造りさせるかな? 普通に自分で作れば良いのに……」
曹騰の部屋を出た曹昂は自室へと戻りながらブツブツと、この場に居ない父に対して文句を言っていた。
それを傍で聞いている貂蝉は曹昂を宥める。
「そ、それだけ、旦那様は若様の事を信頼しているという事だと思いますよ」
「いや違う。父上はどうせ便利だと思って使っているだけだ」
「旦那様が若様にこの様な事をさせるのは、若様なら出来ると信じているからだと思いますよ」
貂蝉の言葉を聞いて曹昂は足を止めて貂蝉の方を見る。
「若様?」
貂蝉は突然、曹昂が足を止めたので何事だろうと思いながら曹昂を見る。
「……貂蝉は本当に良い子だな~。あんな父上を庇って」
曹昂は貂蝉が可愛いくて思わず抱き締めた。
「わ、わかさま……」
抱き締められた貂蝉は顔を赤らめて嬉しそうに顔を緩ませる。
そして、手をおずおずと伸ばして曹昂の背中に回そうとしたが。
「二人共。じゃれ合うのは良いけど、もっと誰も来ない静かな所でしなさいよ」
突然、声を掛けられた二人は驚いて跳び上がり離れた。
その際、貂蝉は少しだけ残念そうな顔をしていた。
「ふふふ、初々しいわね~」
まだ顔が赤い二人を揶揄うのは卞蓮であった。
丁薔と仲良くなったからか、屋敷にも顔を出す様になった。
何時どのような事があって仲良くなったのかは分からないが、夫人達が仲良くなったので曹操は安堵していた。
「あ、ああ、おほん。卞夫人。ご機嫌麗しゅう」
「なぁに、子供が気取った挨拶をしているのよ。ははぁ~ん。さっきじゃれていた所を見られて恥ずかしくて、誤魔化そうとしているのね?」
曹昂の反応が面白いのか揶揄うのを止めない卞蓮。
分かっているのなら揶揄うのは止めて欲しいと思う曹昂。
「……と、ところで、此処に来た理由は何でしょうか?」
「ああ、それね。貂蝉に歌舞を教えようと思って」
そろそろ揶揄うのは可哀そうだと思ったのか、卞蓮は屋敷に来た理由を話し出した。
卞蓮は元は歌妓だったからか芸妓が得意であった。
貂蝉には「芸事の才がある」と言って歌舞音曲を教えている。ついでとばかりに護身術も。
「成程。じゃあ、貂蝉」
「はい。では、行ってきます」
卞蓮が来た理由を知った曹昂は貂蝉を卞蓮に任せた。
「早く終わったら、曹昂と一緒に居れるから頑張りなさいね」
「~~~~」
卞蓮に揶揄われて紅葉した葉の様に顔を赤くする貂蝉。
そして、貂蝉は卞蓮に連れられて何処かに行った。
二人を見送った曹昂は頼まれた酒造りをする段取りを考えた。
(まずは米を精米して醪を作る所から始めるか。流石に酒の作り方とかテレビで見るか、漫画で読むかぐらいしか知らないから。其処まで専門知識は無いんだよな。……そう言えば、蜂蜜で酒が出来るとか聞いた事があるな)
ついでだから試そうと思い曹昂は製作所に向かう事にした。
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