閑話 ??の出会い
論功行賞が終わり、功労者達は賜った官職の仕事に就いていた。
曹昂の父曹操も任地へと向かう前に、一度故郷である譙県に居る祖父と妻達に報告するつもりであった。
任地の済南国は青州にある。豫洲にある譙県から行くとなると遠道である。
その為、曹操はキッチリと準備を行っていた。
だが、その間、曹昂は暇であった。
自分付きの侍女となった貂蝉は今は侍女としての仕事を学んでいる為か、遊び相手をする暇もなかった。
仕方がなく、曹昂は屋敷の外に出掛ける事にした。
市に出た曹昂。
まだ、幼い為、当然護衛は付けられていた。
馬に乗っては目立つので、歩きであった。
市場に並んでいる露店の品揃えを見つつ、どんな商品が並んでいるのか見ていた。
(露店でも品揃えが良いな。洛陽は交通の要所でもあるからか)
品質の良さを見ていると、人だかりが出来ていた。
「何事かな?」
「行って見ましょうか」
曹昂は何に騒いでいるのか気になり、ざわついている所へ足を向けた。
曹昂達は向かった先で、人だかりを掻き分けて、その中心へと進んだ。
そうして、中心へ着くと、男性一人が外套を深く被った者と睨み合っていた。
「おい、ガキっ。どうしてくれるんだ⁉」
男性は少し赤い顔をしていた。恐らく、酒を飲んで酔っている様であった。
その男性の服に何かのシミがべっとりついていた。
足元には、串に刺さった何かがあるので、恐らくそのシミはその串焼きがぶつかった事でついた様であった。
「ああっ、あんたが、千鳥足で歩いているから悪いんだろうっ。こっちはぶつからない様に避けようとしたら、そっちが串焼きにぶつかって来たんだろう。むしろ、串焼きの代金を立て替えろよっ」
外套を被っている者は高い声を出しながら反論した。
外套を被っているので、顔も体形も見えないが、声からして女性の様だ。
二人の話を聞いて、曹昂は何が起こったのか直ぐに分かり、溜め息を吐いた。
「何だとっ、このガキ」
「やるか、この酔っ払いっ」
男性も外套を被っている者も今にも殴り合いをしそうな位に、怒っているのが分かった。
周りの者達も止めようとせず、見世物として囃し立てていた。
(まぁ、こうして会ったのも、何かの縁か)
曹昂はそう思い、今にも殴り合いを始めようとしている二人の間に割り込んだ。
「まぁ、御二方。落ち着いて」
「あん?」
「何だ。お前?」
曹昂がいきなり割り込んできたので、二人は怪訝な顔をしつつ曹昂を見た。
「今日はめでたい日だと言うのに、喧嘩をして嫌な思いをする事はないでしょう。此処はお互いに謝って、それで良しとしませんか?」
「あんっ、何で、お前みたいなガキに、そんな事を…………」
男性は曹昂を怒鳴ろうとしたが、視線を感じたので、そちらに目を向けた。
向けた先には、曹昂の護衛の二人が剣の柄に手を掛けながら男性を睨んでいた。
二人の殺気を感じた男性は酔いが醒めて、顔を青くしていた。
「……あ、ああ、そうだな。俺も子供相手に大人げない事をしたな。悪かったな」
男性が謝るのを見て、外套を被っている者は戸惑いながら答えた。
「あ、ああ、こっちも悪かったよ」
謝っているのか分からない言い方であったが、男性はとりあえず謝っていると取った様だ。
「ああ、今度は気を付けろよ」
そう言って、足早にその場を離れて行った。
男性が離れて行くと、人だかりも自然と無くなっていった。
人だかりが無くなると、曹昂は外套を被っている者を見る。
その者は顔を見られたくないのか、外套を被り直した。
護衛の二人は無礼だと思い、声を掛けようとしたが、曹昂が手で制した。
「大変だったね。まぁ、運が悪かったと思うしかないね」
声から同い年ぐらいの女の子だと思い曹昂は話しかける。
「……ああ」
その者の反応が薄かった。
どうした事かと思い、その者が見ている方を辿っていると、地面に落ちている串焼きがあった。
もう、土が沢山ついているので、食べれた物ではなかった。
「……こうして会ったのも、何かの縁だ。もう一回買おう」
曹昂はそう言って、その者の手を取った。
「あっ、おい……」
「良いから良いから」
曹昂はその者の手を握ったまま、串焼きを買った店へと向かった。
数刻後。
市場で串焼きを買い食べながら、露店を覗き冷やかしをする曹昂達。
日が暮れて来たので、そろそろ屋敷へ帰ろうと護衛が促した。
曹昂もその言葉に従った。
問題を起こした者とは其処で別れた。
「今日はありがとうな。この借りは、いずれ返す」
と言って何処かに行ってしまった。
名前は聞いていなかったが、自分も名乗っていなかった。
まぁ、縁があれば会えるだろうと思う。
そう思いながら、屋敷へ向かっていると、前方に歩いている曹操を見つけた。
仕事が終わったのかと思い声を掛けようとした曹昂は口を開けた所で、曹操の側に女性が居る事に気付いた。
それを見た曹昂は慌てて手で口を塞いで物陰に隠れた。
物陰から、楽しそうに会話している曹操達を覗いていた。
「若君。どうします?」
「……此処は遠回りの道で、屋敷に帰ろうか」
父親が女性を口説いている所に出くわすとは運が無いなと思いながら、曹昂達は別の道から屋敷へと向かった。
同じ頃。
曹昂と別れた者はある屋敷に辿り着いた。
門を潜ると、被っていた外套を退けた。すると、その姿が露わになった。
この国では珍しいプラチナブロンドの髪をツインテールにしていた。
黒真珠の様な瞳に吊り上がった目。整った顔立ちをしていた。
身長は
「う~ん。暇だったから、市に行ったけど、良い暇潰しになったな」
その女性は身体を伸ばしながら今日あった事を思い出した。
同時に曹昂の事を思い出していた。
「……何か、面白い奴だったな」
その女性は空を見上げると、曹昂の顔を思い出していた。
「おお、姫よ。こんな所で、何をしているのだ?」
女性が声を掛けられたので、その声が聞こえた方に顔を向けた。
其処に居たのは五十過ぎの男性であった。
「祖父ちゃん。ただいま」
「うむ。何処かに行っていた様だが、何処に行っていた?」
「市に行ってたぜ。其処でさ、面白い奴に会ったよ。若君って言っていたし、何処かの良家の子息かもな」
「ほぅ、そうか」
女性に話し掛けた男性は顎を撫でた。
(もう、そういう年頃か)
姫と呼んだ女性の反応を見て、男性は女性の生まれた時の事を思い出していた。
「その話は後で聞かせて貰おうか。儂は今から、文優と話があるのでな」
「分かった」
女性はそう言って、男性に一礼し自分の部屋に戻って行った。
女性を見送ると、男性は歩き出した。
そして、部屋に着くと既に待っている男性に声を掛けた。
「待たせたな」
「いえ、それほど待ってはいません」
部屋に居た男性が一礼すると、部屋に入って来た男性は上座に座った。
「それでは、報告を聞こうか。文優よ」
「はい。董卓様」
先程、女性に姫と呼んだ男性は董卓であった。
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