卞夫人とはどんな人物か見てみよう
曹鑠の葬儀が終わると、曹嵩は仕事があるので洛陽に戻った。が、曹操は。
「息子の死に目に会えなかったのだ。せめて、喪には服したい」
と言って暫くの間、仕事を休む事にした曹操。
それだけならば良いのだが、その後に続く言葉を聞いて曹昂は呆れて言葉が出なかった。
「祖父様。暫く喪に服すので洛陽に居る卞蓮を呼び寄せたいのです。その卞蓮が住む家を建ててよろしいか?」
それも曹嵩を除いた家族で食事をしている時に言うのであった。
面の皮が厚過ぎないか?と思う曹昂。
せめて、祖父の曹騰と二人きりの席で言うべきだろうと思う。
ちなみに卞蓮の字は純実と言う。
曹昂は横目で丁薔を見た。
久しぶりに夫と食事を出来ると思っていたところにそんな話をされて、丁薔は憤然としていた。
「旦那様はその家で生活するのですか?」
「まさか、ただ側室である蓮を我が屋敷で生活させるのは無理だと思い、代わりに家を建てる事にしたのだ」
「そうですか。まぁ、別にそちらで暮らしても、私は一向に構いませんが」
そう言い終えるなり席を立ち部屋を出て行く丁薔。
曹昂の妹の面倒を見ている乳母も慌ててその後を追った。
「「…………」」
丁薔を見送ると、曹騰と曹昂は無言で曹操を見た。
二人の目が後を追わないのかと言っている様であった。
その目の圧力に負けた曹操は咳払いをすると「ちょっと、ツマミが足りぬな。厨房に行って何品か追加で作ってもらおう」と言って席を立ち部屋を出て行った。
曹操が出て行くと、曹騰は溜め息を吐いた。
「やれやれ、父親の嵩はあやつの妻が死んだ時は喪に服して女も断ったと言うのに。その子である阿瞞はそのような事が出来ぬとは。全くあの女好きは誰に似たのやら」
ちなみに曹嵩の妻である丁氏は曹昂が生まれる前に亡くなっている。
「そう、ですね・・・・・・」
曹昂は内心で曾祖父様ではと思うが口にはしなかった。
一緒に暮らして分かったが、曹騰が女性の使用人の尻に触るところをよく見た事がある。
流石に孫の嫁にはそのような事をしないようだが、それでも女性を見てイヤらしい目をしているのを知っている曹昂。
(この人。本当に宦官なんだよな?)
そういう所に出くわすと曹昂は本当にそう思った。
それから数日後。
「じゃあ、昂。私は実家に行きますが、御祖父様に我が儘を言わないで大人しくしていなさいね」
「はい。母上」
実家に用事があるので向かう丁薔。曹昂は屋敷の前で見送る。
馬車に乗り、使用人達と共に実家へと向かう丁薔。
馬車が見えなくなるまで、その場に居る曹昂。
ようやく、馬車が見えなくなるとニヤリと笑った。
(母上が居なくなったし、この内に父上が建てている途中の家に行こう)
ついでにその側室の卞蓮を見ようと思う曹昂。
実は卞蓮に会った事が無い。
精々、知っている事が元は歌妓であることぐらいだ。
何せ母親である丁薔が嫌っている所為か会わせてくれない事と、洛陽の曹操の私邸で生活していたので会う事も無かったので知りようもなかったのだ。
丁薔が居ないので丁度良いとばかりに、その家を建てている所に向かった。
屋敷から少し離れた所に家を建てる為の木材を組み立てている所があった。
木に隠れながら、曹操を探した。
その傍に卞蓮が居ると容易に想像できたからだ。
そうして、探していると家を建てている所から少しだけ離れた所に二人の男女が居た。
大きな木の下で敷物を敷いて男性は女性の膝を枕にして、家の建設状況を見ていた。
言うまでも無く、その男性は曹操だ。
そして、その曹操に膝枕をしている女性は卞蓮だろうと推察する曹昂。
(・・・・・・うわぁ)
この時代、女性服は肌をあまり露出させない。
肌を露出させる服を着るのは芸妓ぐらいだ。
しかし、その女性は胸元を露わにしている襦裙を纏っていた。
襦裙とは襟がある短い衣と裳というスカート状の下衣の衣装の事である。
母親である丁薔は深衣という着丈の長い、裾の広がったゆったりした衣服を普段から着ている。
着ている服一つで二人の性格の違いが分かると思えた。
また卞蓮の胸元が豊かな事に驚いた。
今世で生まれて初めて豊満な胸を持った女性を見たので驚いているようだ。
そして、視線を上げて女性の顔を見る。
吊り上がった目。艶がある黒くソバージュの様な髪をしていた。
小顔だが、目が吊り上がっているので気が強い印象を抱かせた。
座っているが、恐らく曹操とさほど身長は変わらないだろうと思われた。
(・・・・・・こうして見ると仲が良い夫婦の様に見えるな)
傍から見たら、曹操達は家が建つのが待ち遠しくて作業状況を見ている夫婦にしか見えなかった。
元々の目的であった卞蓮を見るという目的も達成したので、そろそろ帰ろうとしたが、その時、足元の小枝を踏んでしまった。
「っ⁈ 其処に居るのは誰?」
その音で振り返った卞蓮は声と共に懐から匕首を出して投げた。
投げた匕首は曹昂の傍にあった木に刺さった。
「うわああっ⁉」
驚きのあまり声を上げる曹昂。
まさか、いきなり攻撃されるとは思わなかったからだ。
そして、驚きのあまり足を滑らせて頭を打ち気を失うのであった。
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