目が覚めると

暗い闇の中で、死んだ筈の白河脩が漂っていた。


(・・・・・・ここは何処なんだろう?)


 闇の中を漂いながら、脩は思った。


 もしかして、此処が死後の世界というものなのだろうかと。


 だとしたら、自分はどうなるのだろうか。


 自分が読んでいた小説の様に記憶を持ったまま様々な能力を持って異世界に転生するのか。


 それとも、自分と言う存在が消えて無くなり新しい存在に生まれ変わるのか。


 どうなるのか分からない。


 だが、脩には一つだけ心残りがあった。


(伯父さん達より先に逝ってしまったな)


 自分の命が尽きる直前の事はよく覚えている。


 涙を流しながら自分の手を握る従姉の麗亜。


 自分に向かって何かを言っている正彦伯父さん。


 二人の顔を見たのが最後の記憶であった。


 自分が病弱なのは分かっていた。長生きは出来ないと医師にも言われていた。


 だが、せめて自分の世話になった伯父達に何かをしてから死にたかった。


 そう思いながら闇の中を漂う脩。


 すると、暗闇の中から光が浮かんだ。


(何だ?)


 強い光なので手で目を覆おうとしたが、自分の身体が透けている事に気付く。


 なので、光を防ぐ事が出来なかった。


 脩はあまりの眩しさに意識を失ってしまった。




 やがて、意識が覚醒する脩。


(なんだ?)


 光に目がやられたままなのか、まだ目を開ける事は出来なかった。


 それでも手足は動かす事が出来たので、動かしてみたが違和感を感じた。


 動かしてみると、腕や足が思ったよりも小さいのだ。


(どういうことだ?)


 十数年生きていたのだから、感覚なので何となくだがもう少し手足が伸びている筈だと思う脩。


 これは、そろそろ目を開けないと分からないと思い目を開けてみた。


 一瞬外の明るさに目をやられたが、目を薄く開けて徐々に明るさに目を慣れさせた。


 目が光に慣れると、完全に目を開けた。


 すると、目に入ったのは見た事が無い天井であった。


 病室でもない、かつて自分が暮らしていた家の天井でもなかった。


(ここは、どこだ?)


 周りを見ると、自分が籠の中に入っている事が分かった。


「あ~(誰かいませんか?)」


 声を上げたが、言葉にならなかった。


 そして、その声を聞いて自分が赤ん坊である事が分かった。


(・・・・・・これは、もしかして記憶を持ったまま転生した?)


 前世の記憶を持った状態で赤ん坊になっている自分。


 どう考えても、読んでいた小説の転生物どおりだった。


(事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだな)


 自分が赤ん坊に生まれ変わったのは分かった。


 しかし、自分はどんな立場で生まれたのだろうか?


 それが分からなければ、素直に喜べなかった。


 とりあえず、自分に会いに来る人に愛想を振りまいて情報を収集する事にしようと決めた脩。


 すると、何処からか扉が開く音が聞こえて来た。


 誰かが入って来たと分かった脩はどんな人が自分の顔を見に来るのかドキドキしながら待った。


(恐らく、僕を生んだ母か父だろう。どんな人だろう)


 内心、ワクワクしながら待っている脩。


 すると、脩の顔を覗き込んだのは結構な年齢の女性だった。


 転生して初めて見る人が、こんなオバサンかと思うと同時にこの人が自分の母親?なのかと思ったが、その女性の服を見ると、着物に似ているが少し違うなと思った。


「×××。×××」


 女性は脩に向かって何か言っているが、何を言っているのか分からなかった。


 赤ん坊だからか、それとも世界が違うから言語自体が違うとか?


 そう思う脩を部屋に入って来た女性は抱きあげた。


 そして、脩が居た部屋を出て行った。


(何処に行くのだろう?)


 そう思いながら、女性がある部屋の前まで来ると、部屋に向かって声を掛けた。


 少しして、部屋から声を掛けられた。


 何を言っているのか分からないが、恐らく入室を許可する言葉を言ったのだろう。


 その声を聞いて、女性は戸を開けた。


 戸を開けて部屋の中に入ると、其処には三人の男女が居た。


 男の方は立派な髭を生やした二十代ぐらいであった。


 女性の方も同い年ぐらいであった。


 もう一人女性も居るが、その女性は寝台で横になっていた。


 青白い顔をして、生気を感じさせない顏であった。


「××××××」


 男性が脩を連れて来た女性に声を掛ける。


 すると、声を掛けられた女性は頭を下げて、何事か言う。


 恐らく男性の言葉に肯定しているのだろう。


 女性は腕の中に居る脩を男性に渡した。


 脩を抱いた男性は脩の顔を見る。


(この人は父だ)


 直感だが、脩はそう思った。


 なので、笑顔を浮かべた。


「××××××××」


 男性はその笑顔を見て顔を綻ばせた。


 そして、横になっている女性に脩の顔を見せる。


「×××。××××××××」


 男性は横になっている女性に声を掛ける。


 声を掛けられた女性は弱弱しく手を振るわせながら、脩に触れた。


「××××。××××」


 女性は涙を浮かべながら脩に優しく触れる。


 これも直感だが、脩はこの人が自分を生んだ母親だと悟った。


 その母親と思われる人が寝台で横になっているのは、恐らく自分を生んでそれほど時間が経っていないのだろうと察する脩。


 前世では両親を早くに失い親孝行も出来ず、墓参りも数えるぐらいしかしなかった。


 なので、心の中で今度は親孝行をしようと誓った脩であった。

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