生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします

雪国竜

第一章

始まり

 とある病院。


 病院内の重病人専用の個室。


 その部屋にあるベッドで十代半ばの少年が横になっていた。


「けほ、けほ、・・・・・・」


 青白い肌。頬骨が浮かび上がる程にやつれた顔をしていた。


 咳き込む度に荒い息をつく。


 少年は窓から外を見た。ベッドの位置からでは空が青い事しか分からない。


 それでも、少年は外を見ていた。


 空を見ていると、鳥が飛んでいるのが見えた。


「・・・・・・・・・・・・」


 少年はその鳥を見た。


 羨望と微かに嫉妬を込めた目で。


 コンコン。


 病室のドアがノックされた。


「どうぞ」


 少年が入室してもいいと言うと病室に誰かが入って来た。


 入って来たのは女性だった。


 綺麗な顔立ちで十人が十人振り返る美貌を持っている女性であった。


「来たわよ。元気?」


麗亜れいあ姉さん」


 少年はベッドから身体を起こそうとした。


「ああ、無理に起きなくて良いから。しゅう


 脩と呼ばれた少年は病室に入って来た麗亜を見るなり、身体を起こそうとしたが麗亜がそれを手で制した。


「この前の洗濯した物を持ってきたわよ。帰る時に溜まっているのを持ってくわね」


「いつも、ありがとうね。姉さん」


「気にしないの。親戚なんだから」


 脩はこの麗亜という女性を「姉さん」と呼んでいるが、正確に言えば三つ上の従姉だ。


 脩の両親は彼が幼い頃に亡くなっている。


 その為、脩の母親の兄で麗亜の父親の白河正彦が引き取って養育してくれた。


 温和で良識的な人柄なので、脩も慕っている。


 現に脩が病院生活している今も嫌な顔をしないで入院費や薬代などを支払ってくれている。


 もっとも白河家が資産家であるので、脩の入院生活なんぞ問題ないぐらいの財産があるからかもしれない。


 だが、その白河家の財産をもってしても脩の病は治す事が出来ない。


 精々これ以上の病状を悪化させないようにする。それが限界であった。


「ほら、頼まれていた本を持ってきたわよ」


 麗亜はそう言って鞄の中から本を出した。


 題は『三国志演義』だ。


「ありがとう」


 脩は本を手に取りながら礼を述べる。


「本当に好きよね。三国志」


「うん。だって、面白いから」


 脩は生まれつき病弱だった事で、友達と一緒に遊ぶと言う経験が少ない。


 その代わりと言わんばかりに、身体を動かさない事に熱中した。


 ゲームよりも熱中したのは本を読む事であった。


 沢山の本を読む事で自分が知らなかった事を知ると言う楽しみは、脩にとってはゲームをするよりも楽しかった。


 読む小説のジャンルもバラバラだ。恋愛物、戦争もの、歴史、ライトノベルと様々だ。流石に年齢的に純文学を読みはしてもイマイチ意味が分からないものが多く読まなくなった。


 中でも一番好きなのが『三国志』だ。


 大昔に自分が住んでいた隣国にこんな壮大な歴史があったと知り、そして話に出て来る個性豊かな登場人物達の魅力に脩はすっかり魅了されたのだ。


「わたしは本を読むのは嫌いじゃないけど、脩みたいに本の虫みたいにはなれないわ」


「僕は別に、本の虫になっている訳ではないのだけど」


「はいはい。自分はそうでないと思っていても、他の人から見たらそう見えるという事よ」


 麗亜は駄々を捏ねる子供をあやすように脩の頭を撫でた。


 頭を撫でられた脩は何とも言えない顔をした。


 麗亜は脩の世話をして、病室を後にした。



 数ヶ月後。


 脩の容体が急激に悪化した。


 もう手の施しようが無いと医師に診断された。


 それから数日して、白河脩は十数年の生涯に幕を閉じた。

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