第3章84話:攻撃と毒

ここまで済んだら、俺は静かに左へ3歩ほど移動した。


――――俺が立っていた位置はマルドルに見られている。


そこにそのまま突っ立っていたら、攻撃されるかもしれないからだ。


加えて、バフポーションを飲みなおしておこう。


まずはたれづよさを上げたかったので、防御バフポーションを飲む。


続いて敏捷バフポーションを飲もうとした――――が。


そのときだった。


「そこか!」


と叫んだマルドルの気配が、煙幕えんまくを突っ切って急激に接近してくる。


俺は意表いひょうかれて、一瞬判断が遅れてしまった。


その一瞬でマルドルが、俺の至近距離しきんきょりまで来て、攻撃を仕掛けてくる。


「がはッ!!?」


回避できず、俺は腹を殴られて吹っ飛び、洞窟の壁に叩きつけられた。


ずり落ちて、地面に膝をつく。


かなり痛い。


防御バフポーションを飲んでいなければ死んでたかもしれない威力だ。


「ラアッ!!」


「ッ!」


続けざまにマルドルが蹴りを放ってきた。


俺は慌てて回避する。


マルドルのキックが空振からぶって、俺がいたところの壁をくだいた。


砕けた壁が崩れる音がした。


おいおい、洞窟を崩落ほうらくさせる気か?


おそらく何も考えずに暴れているのだろう。


こんなところで戦うもんじゃないな、と俺は思った。


「俺の蹴りをかわしたか。なかなかすばしっこいじゃないか!」


とマルドルが嬉しそうに叫んでいる。


(こいつ……気配だけで俺の位置を掴んでいるのか)


俺は、煙幕が役に立たないことに歯噛はがみする。


そのとき。


マルドルが、何かを投げつけてきた。


煙幕のせいで見えないが、空気でわかる――――石だ。


砕けた壁の残骸ざんがいを、飛礫つぶてにして投げつけてきている。


これはさすがに回避できないので、俺は防御の姿勢を取って、急所への直撃を防ぎつつ、飛礫を被弾ひだんした。


当たった飛礫つぶてが、俺の服と身体に細かい裂傷れっしょうを刻んでいく。


(煙幕がそろそろ晴れてくるころだ)


そう思ってすぐ。


煙幕が少しずつ消えていく。


視界が明らかになってきた。


と、同時に。


「!?」


マルドルが膝をついた。


強く、顔を歪めている。


……どうやら毒が効いてきたようだな。


俺はアイテムバッグから取り出した回復ポーションを飲む。


さっき殴られたダメージや、飛礫を食らった傷は、これで完治した。


「お前……いったい何を、した!?」


とマルドルがガタガタと震えながら聞いてきた。


俺は答える。


「毒だよ。この空間に毒を散布した。それがお前に効いてきたんだ」


マルドルは怪訝そうな声で、焦ったように聞いてくる。


「毒……だと!? いつの間に!? ……いや、煙をまき散らしたときか!」


とマルドルは自分で答えにたどりつき、納得した。


しかしマルドルは疑問を口にしてくる。


「だが散布したなら、なぜ、俺だけ毒にかかる? お前たちだって、毒を無効化できないはずだ!」


「魔族だけに効く毒だけがあるんだよ。さっき作ってきた」


「馬鹿な……ッ」


マルドルが驚愕する。


まあ、魔撃毒袋まげきどくぶくろはあまり有名ではない、レアアイテムだからな。


魔族ですら、そんな毒アイテムがあると知っている者は少ないだろう。


とにかく、これでマルドルの制圧は完了した。


あとは殺すだけだ。



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