第3章83話:ボス

その魔族は、青い魔族であった。


ねじれたツノが2本、生えている。


腰布こしぬのを巻いただけのシンプルな服装だ。


両腕りょううでにガントレットを身につけている。


(こいつ、魔力を隠している。だが……)


非常に大きな魔力を、内に秘めているのがわかる。


隠していても、強さの気配がにじみでていた。


「くっ……!」


横腹よこばらに突き刺さった突起を、自力で砕いたクリスタベルが、疾風迅雷しっぷうじんらいのごときスピードで魔族に迫る。


槍で斬撃を放つクリスタベル。


しかし。


「くく」


魔族は槍をかわして、反撃の拳をクリスタベルに叩き込んだ。


「ぐはっ!」


さらにクリスタベルは、魔族に蹴り飛ばされる。


地面を転がるクリスタベルが、受身うけみを取った。


苦悶くもんの表情を浮かべるクリスタベル。


(敵の反応速度が尋常じゃねえ。でも、今のはクリスタベルの動きも鈍っていた)


横腹に深手ふかでを負っている状態での斬撃は、やはり精細せいさいけるものがあった。


「……お前がマルドルか?」


と俺は尋ねた。


「ああ、そうだ」


と魔族―――マルドルは肯定する。


「どうやら俺のことを知っているようだな。俺をちに来たか」


とマルドルは不敵な笑みを浮かべながら言った。


そのときクリスタベルが回復薬かいふくやくを飲む。


だが。


「回復、できない……!?」


回復薬の効果がクリスタベルに現れない。


マルドルが笑いながら説明した。


「この突起に貫かれた場合、しばらくの間は回復が効かなくなる」


「馬鹿な……」


クリスタベルが険しい表情を浮かべる。


彼女の額には脂汗あぶらあせが浮かんでいた。


受けたダメージが痛むのだろう。


回復妨害かいふくぼうがいか……強いな)


回復妨害を使ってくる魔物や魔族は、割と上位のダンジョンに出現することが多かった。


つまりマルドルは、そういう魔族だということだ。


これは一瞬も油断できない。


――――そう思った俺は、すぐさまアイテムバッグから爆弾状ばくだんじょうの道具を取り出して、ボタンを押した。


煙が発生する。


「……む?」


マルドルが眉をひそめる。


俺が発生させたのは、さきほど錬金術で作った【煙幕えんまく】である。


そして魔力の流れを一時的に隠す【魔力煙幕まりょくえんまく】も、同時に発生させておく。


「目くらましか。小賢こざかしいな!」


とマルドルが叫ぶように言った。


俺はマルドルの言葉を無視して、さらに【魔撃毒袋まげきどくぶくろ】の中身を散布さんぷした。


魔撃毒袋は、人間には効かず、魔物や魔族だけに通用する毒。


相手が強い個体だった場合には、毒が回るまで多少の時間がかかるが、10秒もすれば効いてくるだろう。


つまり、このまま待っていれば勝ちだ。

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