第3章80話:父

「あなたは……何者ですか?」


と男は尋ねてきた。


俺は答える。


「ただの旅人だ。エルクスの街を訪れたとき、ティーナが父親を捜索してほしいと依頼を出していた。それを俺が引き受けたんだ」


「そうですか……ティーナが」


と、男はしみじみとティーナの口をつぶやいてから、言った。


「……いかにも。私がティーナの父、ケイノンです。お二人は、私を助けに来てくれたのですね?」


「あたしは成り行きよ。そのティーナってとは、会ったこともないわ」


とクリスタベルが言った。


ティーナの父――――ケイノンが告げる。


「いずれにしても、感謝いたします。正直、死を覚悟しておりましたから」


「あんたが無事で良かったよ。とりあえず、牢を開けるぞ」


と俺は言った。


牢の錠前じょうまえに触れる。


レベルやステータスの低い人間では破壊できないような、硬い金属でできた錠前だったが、俺は力づくで破壊した。


錠前が壊れる。


牢の扉を開けると、ケイノンが外に出てきた。


「怪我はしてないようだな」


と俺は言った。


「ええ……どうやら魔族は、私を眷属にしようとしていたようで、手荒てあらなことはあまりされませんでした」


とケイノンが語る。


同じ魔族でも、荒々しい者とそうでない者がいる。


たとえばゼルリウスは結構、手荒なやり方で俺を屈服させようとしていたが……


今回の魔族は、そういうタイプではないのかもしれない。


「助けてくださり、本当にありがとうございます」


とケイノンが深々しんしんと頭を下げてきた。


「あの……よろしければ、お二人のお名前を教えていただいてもよろしいでしょうか」


とケイノンが言ってきたので、


「まだ名乗ってなかったわね。あたしはクリスタベルよ」


「フロドだ」


と俺たちは答えた。


さらにケイノンが言った。


「クリスタベルさんと、フロドさんですね。魔族にアイテムバッグが奪われて、すぐにお礼ができないのですが……今回の件に関するお礼は必ずさせていただきます」


「ああ」


と俺は応じつつ、次のように尋ねた。


「それより、俺とクリスタベルはこれから魔族の本拠に向かうが……あんたはどうする?」


ケイノンは答える。


「できればティーナのもとに戻りたいと思っております……しかし、お恥ずかしい話ですが、あなたがたのもとを離れるのも不安というのが、正直なところで」


「まあ、あなたを1人で帰すのはさすがにね」


とクリスタベルは共感した。


ケイノンは魔族に捕まって地下牢にぶちこまれた身だ。


魔族がいるかもしれない森を通って、1人で街まで帰るのは、さすがに怖いだろう。


……と、そのとき俺はふと思い出したことがあったので、口にした。


「そういやケイノンさん、あんた仲間と一緒にここに来たんじゃなかったか? ティーナがそんなふうなことを言っていた気がするが」


ティーナの情報によると、ケイノンは1人で魔族の捜索に向かったわけではない。


複数人のパーティーで向かったという話だった。


それについてケイノンが答える。


「はい。私のほかに、冒険者2人がいました。しかし、魔族に殺られてしまい……」


「……そうか」


と俺は短くあいづちを打った。


暗い話だ。


これ以上、その話題に触れるのはやめておこう。

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